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その座を奪われた主人公   作者: 大野春
第三章 認めてしまった少年
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25話 育てられた商品



 ちょっと過去の話をさせてもらうよ。



アタイの名前はビゼ。それ以外の肩書きはない。

どこでどうやって産まれたかはあまり覚えてない。

普通、自分が生まれた時の話は親から聞くものだけど、その親には捨てられた。


アタイの記憶がある頃、アタイは王都の西部にいた。貧富の差って言葉があるけど、貧富の貧の方の街に住んでいた。魚骨街と呼ばれてる。



「ビゼ。自分の立場が分かっているのかい?」



鼻につく嫌な香水の匂いが混じる部屋。

その日、アタイは遂に〝仕事〟に出なければならない日になった。

アタイの周りにいる女たちは香水を振り撒いたり、自分をよく見せるための化粧をしている。

誰かが股間が痒いだとか、あの貴族は最低だとか、程度の低い会話をしていた。



「やだ」



アタイは拒否した。

目の前にいるのはオバさん。

親に捨てられたアタイを拾ってくれた人。

マーヤおばさん。


命の恩人だと思ってた。


「何のためにオマエを拾ったのか、分かってないようだね」


「うるさい」


マーヤおばさんは、アタイを売りに出す為に育てていた。


それだけだった。

アタイは逃げ出した。



ーーーーー



そのマーヤおばさんが今、アタイの目の前にいた。

運命というのは数奇だ。

たまたまついて行ったこのフレデリックという男と、マーヤおばさんは知り合いだと言うのだ。


アタイは4本のうちの1本目、殺し用のナイフを取り出し、その顔の前に突き出していた。


「久しぶり」


マーヤおばさんは、口を開けたまま動かない。


「おい、ビゼ。何をしている」

フレデリックが慌てている。だろうな。

アタイの事なんてコイツは知らない。


「コイツはアタイを売りに出す為に育てたクソババアだ」

「何を言ってるんだビゼ」

呆気に取られたような顔をするフレデリック。

「捨てられたアタイを拾ってくれた・・・でもそれはアタイを商品として使う為だったんだよ」


顔色ひとつ変えないクソババア。


「ま、マーヤ。どういう事だ。何があったんだ?」

フレデリックは困惑しながらマーヤおばさんに尋ねる。


「フレデリック様・・・貴方がいなくなったその日から、私もソニアもミランダも・・・その職務を放棄されました」


静かに喋るマーヤおばさん。

フレデリックは苦い顔をしている。


「私は生きる為に必死でした。身体を売りました。フレデリック様が戻ってくる事を信じて・・・でも時が経ち、身体は売れなくなり、いつしか自分以外の身体を売る側になっていました」


クソババアは懺悔のように、フレデリックに語る。


「その商品のひとつが、この目の前の女の子ビゼです。フレデリック様がどうして一緒にいるのか分かりませんが・・・」


クソババア・・・

今、懲りずにアタイの事を〝商品〟って言った。


私の怒りがぐっ、っと湧き上がった時。



「マーヤ!言葉を撤回しろ!」



空気が変わる。身震いがした。

フレデリックの顔つき、声がいつもと違う。

これは殺気だ。野生の勘で分かる。

この人は、アタイなんかよりも・・・老婆だとか関係なく、容赦無く殺す、その殺気が放たれている。



「フレデリック様・・・申し訳ありません」

震えながら謝るマーヤおばさんは、あの日とは違う、力の衰えた老婆そのものだった。

「俺じゃない。ビゼに謝れ」

「ビゼ・・・・・ごめんなさい」


本当は、時が経ちすぎて、私はどうでも良くなっていた。

向けたナイフをどうする理由も、意思もなかった。

私が何か言葉を探していると、フレデリックが口を開く。



「マーヤ・・・ビゼ。ごめん」

フレデリックが謝る。


「どうしてアンタが謝るのさ」


「俺が弱いせいだ」


意味が分からない。


「マーヤ。余りにも理解出来ない話かもしれないのだが・・・」


そういってフレデリックは語り始めた。

コイツは50年ほど前からやってきた過去の人間。

クソババアは英雄だったフレデリックに仕えていた人間のひとり。


突如現れた男に、その座を奪われた男。


それが巡り巡って、このババアの生活を変え、運命が私を巡り合わせた。



「全ては・・・俺があの男に勝てなかった事。そこからだ」



そこから全てが始まった。


そう、フレデリックが話す頃には

私はナイフをしまっていた。







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