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その座を奪われた主人公   作者: 大野春
第三章 認めてしまった少年
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23話 脚を組む男


じめじめした洞窟のような道を進む。

 僕はそれを詳しくは知らないけど、アリの巣のようなそんな場所だ。


「我々はここを蟻穴ギケツと呼んでいます」

案内してくれた人は、それだけ語り、それ以上は語らなかった。


 狭い道は等間隔に弱い火が配置されていて、その道を薄暗く照らしている。

 よく見れば案内人の右手の甲には横に広い楕円の丸・・・それはノイズ派である証の刻印が為されていた。


 案内人は、いくつもある分岐点を間違える事なく、目的の場所へ向かった。



「お入りください」



入った部屋は意外と広い。

扉を開けた瞬間、そいつが待ち構えていた。



「顔の皺が増えましたね」



それが目の前にいたザークの一言目だった。

ピエスパさんを懐かしむような、そんな一言。



《ノイズ派のアジト蟻穴ーリーダーの部屋》



その基地の深い位置の大きな部屋に、怪しげな格好をする人間がひとり。部屋のど真ん中で脚を組んで座るのが、おそらくザーク。


・・・なんというか、怖い雰囲気。


 「20年振りか。私の皺も増えるさ」とピエスパさん。

 「逃げて来たんですか?」

 「ああ。正しく使われない技術の研究にはもう飽きたよ」


 「あの日、一緒に逃げれば良かったのに」


 「あの時は、お前を無事に逃す事に精一杯だったからな」

 ピエスパさんの声は優しい。

 ザークは表情を変えていないけど、懐かしい出会いに、少しだけ雰囲気が変わった気がする。


 「・・・あれから色々巡りました。王都にいるだけでは見えない、様々な事を目にしてきました」

 ザークが立ち上がる。

 つらつらと説明を始めた。

 環境汚染が著しい事。

 貧富の差が拡大していること。

 蒸気が起こす事故で人が死んでいる事・・・


「そうして今があるわけです。私達はノイズ派として、このおかしな世界に挑まなければならない」


 どうして、おかしいことに、武力で立ち向かうのだろう。僕には理解出来ない。

 あのエオーボ橋の崩落で命を失った人、生活を失った人。

 リバンタンでの大きな被害。あんな事をして、何かが変わるのだろうか?


 僕はこの人に意見したかった。でも、勇気がないし、ピエスパさんの役目だと思う。


 「ザーク。お前は今、れっきとしたテロリストだ。お前の言い分は分かる。しかし、人を殺しちゃ、いけないだろう」


ピエスパさんは子どもを諭すような優しい口調でザークに訴えた。


「そうでもしなければ、この世界は変わらない。革命に犠牲はつきものだ・・・ピエスパさん、貴方、それを言いに来たんですか?」


「そうだ。一番手をかけた可愛い弟子に、説教をしに来た」

 その言葉が、たぶん、ピエスパさんの本心だった。


「もう、聞き入れる事なんて、出来ないんです。帰って下さい」


「ザーク。考えを改めろ。やり方があるはずだ」

「具体的な策はあるんですか?」

「研究所にいたことを思い出せ。議論から生まれてきたものがあるだろう」


「貴方も私も、もう、遅いんですよ。もう・・・」

 やれやれ、そんな表情。多分この人も色々と試行錯誤してきたのかもしれない。

 その結果が今だとすれば、それは間違っている。



「まだ間に合うはずだ!」

「ピエスパさん。俺はね、もう戻れない所まで来てるんですよ」

「目を覚ましてくれ、ザークよ」

ザークは脚を組み直した。


「ピエスパさん。一緒に、手を組みませんか?」

「ザーク。俺はお前がどこかで、何かを間違えて、ずっと悪夢を見て、このような事をしているのだと、そう、信じたい」


ピエスパさんが腰巾着から、力の結晶を取り出す。


「ピエスパさん?これは?もしかして、魔法ですか?」

驚いた顔をしているザーク。


「お前を正しく導くための・・・ものだ」


 ピエスパさんはその結晶から力を取り出す為に、それに呼びかけるように念じ始めた。



光は、放たれる。



「やっぱり、ピエスパさんは凄いや」



ザークは右手をグー、パーと動かしている。




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