23話 脚を組む男
じめじめした洞窟のような道を進む。
僕はそれを詳しくは知らないけど、アリの巣のようなそんな場所だ。
「我々はここを蟻穴と呼んでいます」
案内してくれた人は、それだけ語り、それ以上は語らなかった。
狭い道は等間隔に弱い火が配置されていて、その道を薄暗く照らしている。
よく見れば案内人の右手の甲には横に広い楕円の丸・・・それはノイズ派である証の刻印が為されていた。
案内人は、いくつもある分岐点を間違える事なく、目的の場所へ向かった。
「お入りください」
入った部屋は意外と広い。
扉を開けた瞬間、そいつが待ち構えていた。
「顔の皺が増えましたね」
それが目の前にいたザークの一言目だった。
ピエスパさんを懐かしむような、そんな一言。
《ノイズ派のアジト蟻穴ーリーダーの部屋》
その基地の深い位置の大きな部屋に、怪しげな格好をする人間がひとり。部屋のど真ん中で脚を組んで座るのが、おそらくザーク。
・・・なんというか、怖い雰囲気。
「20年振りか。私の皺も増えるさ」とピエスパさん。
「逃げて来たんですか?」
「ああ。正しく使われない技術の研究にはもう飽きたよ」
「あの日、一緒に逃げれば良かったのに」
「あの時は、お前を無事に逃す事に精一杯だったからな」
ピエスパさんの声は優しい。
ザークは表情を変えていないけど、懐かしい出会いに、少しだけ雰囲気が変わった気がする。
「・・・あれから色々巡りました。王都にいるだけでは見えない、様々な事を目にしてきました」
ザークが立ち上がる。
つらつらと説明を始めた。
環境汚染が著しい事。
貧富の差が拡大していること。
蒸気が起こす事故で人が死んでいる事・・・
「そうして今があるわけです。私達はノイズ派として、このおかしな世界に挑まなければならない」
どうして、おかしいことに、武力で立ち向かうのだろう。僕には理解出来ない。
あのエオーボ橋の崩落で命を失った人、生活を失った人。
リバンタンでの大きな被害。あんな事をして、何かが変わるのだろうか?
僕はこの人に意見したかった。でも、勇気がないし、ピエスパさんの役目だと思う。
「ザーク。お前は今、れっきとしたテロリストだ。お前の言い分は分かる。しかし、人を殺しちゃ、いけないだろう」
ピエスパさんは子どもを諭すような優しい口調でザークに訴えた。
「そうでもしなければ、この世界は変わらない。革命に犠牲はつきものだ・・・ピエスパさん、貴方、それを言いに来たんですか?」
「そうだ。一番手をかけた可愛い弟子に、説教をしに来た」
その言葉が、たぶん、ピエスパさんの本心だった。
「もう、聞き入れる事なんて、出来ないんです。帰って下さい」
「ザーク。考えを改めろ。やり方があるはずだ」
「具体的な策はあるんですか?」
「研究所にいたことを思い出せ。議論から生まれてきたものがあるだろう」
「貴方も私も、もう、遅いんですよ。もう・・・」
やれやれ、そんな表情。多分この人も色々と試行錯誤してきたのかもしれない。
その結果が今だとすれば、それは間違っている。
「まだ間に合うはずだ!」
「ピエスパさん。俺はね、もう戻れない所まで来てるんですよ」
「目を覚ましてくれ、ザークよ」
ザークは脚を組み直した。
「ピエスパさん。一緒に、手を組みませんか?」
「ザーク。俺はお前がどこかで、何かを間違えて、ずっと悪夢を見て、このような事をしているのだと、そう、信じたい」
ピエスパさんが腰巾着から、力の結晶を取り出す。
「ピエスパさん?これは?もしかして、魔法ですか?」
驚いた顔をしているザーク。
「お前を正しく導くための・・・ものだ」
ピエスパさんはその結晶から力を取り出す為に、それに呼びかけるように念じ始めた。
光は、放たれる。
「やっぱり、ピエスパさんは凄いや」
ザークは右手をグー、パーと動かしている。




