19話 振り返らない英雄
透明な俺たちの会話はまだ続く。
ピエスパは自分が城を出て行った理由を再び語る。
「私と同じく、城を抜け出した者がいる。彼がノイズ派のリーダー。それを追っている」
「なにっ?」
「彼もまた、私と同じく、国に不満を抱いていた。もう何年も前に、私が逃したのだ」
それが、過ちだった、とピエスパが言う。
その言葉からは悲しみだけが感じ取れる。
透明な俺たちには、表情は見えない。
「こうして、遠路はるばる、彼を追いかけて旅を続けてきた。回復魔法で・・・彼の思想を治療する為に」
「思想、信条さえも魔法は変える事が出来るのか?」
「分からない。ただ、脳の治療は出来るはずだ」
「そうか」
俺が王都を目指す旅をして、ピエスパは王都から離れる旅をしている。
ここがちょうど交差点だったというのか。
ただ、少し目的は違うようだ。
この人から知りたい事は沢山あるが、旅に同行してもらい、危険な目に逢わせるのは違う。
「向かう先が違うようだな」
俺から切り出した。
「そのようだ」
そう言って、ピエスパが再びなにかを念じると、透明だった身体が元に戻る。
「ここでお別れってこと?」
マタタキが言う。
「そういうことだ。少年よ、君との出会いに感謝する」
ピエスパが天に祈りを捧げた。
「きっと平和になった世界で、俺たちは再び出会えるさ」
そんな確率、低いはずなのに口から出まかせが出てしまう俺。
「それじゃあ、また・・・」
そう言って、ピエスパは俺たちが向かう方向とは逆へ進んでいく。
目的の場所でもあるのだろうか。
俺たちも歩き出した。
その時。
「フッさん・・・」
マタタキが立ち止まる。
「どうした?」
「ごめん、視えたんだ、今、進むべき未来が、ちらりと」
「え?」
マタタキが振り返った。
「僕は振り返って、ピエスパさんと歩いてる」
・・・何?
それが進むべき未来?
「僕の姿しか見えない。まぁ、元から僕の姿しか見えないけれど。僕はピエスパさんについていったほうが良いと思う」
「その先はノイズ派と立ち向かう事になる道じゃないのか」
俺の曖昧になりつつある目的。
ピエスパのノイズ派に立ち向かう目的。
マタタキの未来はピエスパを選んだ。
「フッさんの事、好きだけど、あの人、老人だし、あの人についていくべきだと思う」
「俺はごめんだ」
「どうして?」
「マタタキ。俺には俺の目的がある。俺は王都へ行くんだ」
「その為の未来がこっちかもしれないんだよ!」
珍しくマタタキが大人にも・・・いや、駄々をこねる子どもに見える。
「お前の力の事は信じているけど、俺は俺の目的を果たさなきゃならない」
俺はシズカの方を向く。
「シズカ、君もあっちへ行きたいなら、行っていいんだぞ」
シズカは口を閉じたままだ。
どちらかといえば・・・面倒ごとに巻き込まれたくない、そんな表情を浮かべている。
「フッさん!行こうよ!」
「すまない」
俺自身、わからない事だらけだ。
そもそもこんな事になったのは、ツヨシという男のせいなのだが・・・
国の発展には尽力しているように思える。
だとすれば、俺はあの男にあって何をする?
何が出来るというのか・・・
あの男が、英雄である事に、ただ単に嫉妬してるだけじゃないのか?俺?
子どもはどっちだよ・・・俺じゃねーかよ。
でも、一発は殴りたい。
こうなってしまったのは、アイツのせいなんだから。
環境問題?そんなもの知るか。
国の発展に犠牲はつきものだ。
命を賭して戦っているノイズ派・・・
それも正義なのだろう。
・・・引けない。
俺は振り返らず、歩き出した。
シズカはついてくるのだろうか。
マタタキも、心変わりをして、
戻って来ないのだろうか。
振り返るのも格好が悪くて、
俺はただただ、歩き出した。
【第二章 おわり】




