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その座を奪われた主人公   作者: 大野春
第二章 存じない存在
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12話 存じない存在


 河川を北上し、当初の予定であったエオーボ大橋を通過する。


 俺たち3人を乗せてくれる馬車を探す予定だったのだが、今はそれどころではない。

 よく分からぬノイズ派とやらのテロ行為に巻き込まれては大変だ。

 この大橋を通らずとも、この運河を越える方法は幾らでもある。

 俺たちはそのまま歩いて進もう、ということになった。


 本当は大橋の状況を見たかったのだが・・・

 仮に蒸気爆弾なるものが残っているなら、一刻も早く去るのが得策だ。


 マタタキやシズカは善人だ。

 戦争を体験してない。

 人の死に敏感だった。



 「みんな無事なのかな」

 「きっと、流された人はカタスカさん以外にも沢山いるよね・・・」


 俺は彼らに意見したかったが、それが野暮な事だと分かっていて、口を開くのをやめた。


 きっと、俺がソーレント戦役含め、人をたくさん殺めてきたことを知れば、幻滅するのだろうか?

 そんな事を思ってしまったからだ。




《ムジーク王国ー南西部ービブラ村》




 しばらく歩き、河川から少し離れた集落に到着した。

 夕陽が登っていて、ここで宿を取ろうという話になった。


 数日の宿泊に困らない金は、シズカが持っている。

 いつの間にか彼女が旅のお財布係になっていた。


 村の唯一の宿泊施設に赴く。


 「すみません・・・万年空き部屋があるんですが、今日は満室で」

 申し訳なさそうに受付嬢が語る。

 「なにっ?」


 大橋の崩落と関係しているとの事だ。

 河を越えようとしていた人々が通行止めをくらい、待機する事になっており、宿は先に取られてしまっていた。


 「どうする、フッさん?」

 「私!そろそろお風呂入りたいかも」

 「うーん、今日は野宿か・・・もしくは、歩き続けて次の集落を目指すか?」

 「もう疲れたよ!野宿でいいよ!」

 「何言ってんのガキ!私は風呂に入りたいの!」

 「ガキって言うな!ババア!」

 「はぁ〜?私まだ大学生なんですけど」

 「この世界で年齢なんて関係ない!」

 「はぁ〜?」


 2人の喧嘩を優しく眺めながら、俺はどうすべきかを考えていた。

 正直、旅においてオンナってのは邪魔な存在だ。

 それでもシズカは有力な力を持っているし、無下には出来ない・・・


 「う〜ん、まいったな」


 「アンタの力で風呂に向かう未来を見れないわけ?」とシズカ。

 「は?ババアの為に力なんか使うかよ!それにババアの目的の為には力は使えないんだよ!」


 飛び出すパンチ。

 ババア発言をしたマタタキの顔は腫れ上がっていた。



 「すまないな、シズカ。今日は野宿にしよう」



 少し外れの平地で火をくべて、俺たちは野宿する事になった。


 パチパチ、と鳴る焚き火の音、暖かい火に手を当てながら、3人で炎を見る。

 物騒な爆発があったというのに、少し離れたこの場所は静かだ。



 「マタタキやシズカは、自分のいた世界に戻りたいと思わないのか?」

 俺はふと、疑問を投げかけてみた。


 かくいう俺はこの約50年後の世界を受け入れ始めていて、特段過去に戻りたいと思っていない。

 どんな状況でも受け入れ、最善を生きる。

 これが英雄ってやつだ。

 まぁ、未だに不思議な感覚でいるのだが。



 「私は戻りたいけど、戻り方分からないし」

 「僕は戻っても死体だし」

 「そういえば、シズカはどうやってこの世界に来たんだ?」

 「私?言いたくないかも」

 「言えよババア」


 マタタキの顔がさらに腫れ上がる。


 「ま、言いたくない事は言わなくていいさ」


 「私も死んだ」

 「えっ?」

 「それじゃあ僕たちって死んでしまった人間なのかな?」

 「そうかもしれないわね」

 「ねぇねぇ!フッさん!この世界の人は、死んだらどうなるの?」


 マタタキの質問に俺は戸惑う・・・

 ただ、昔からの教えがひとつあった。


 「軍神に恥なき戦いで敗れた者はヴァルハーラに行けると言われている」

 「軍神?ヴァルバーラ?」

 「ま、死後の世界で、ここじゃない場所って事だな」

 「ふ〜ん」

 名誉の戦死を遂げたものは雲の上にある神殿に行く事が出来るのだ。

 マタタキは胸を躍らせながらその話を聞いている。

 シズカはあくびをしていた。


 そんな会話をしながら、2人は目を閉じていた。

 俺は旅の仲間を守る為、起きていた。


 ひとり、考える。

 俺が今いるこの国は不安定なのか。

 蒸気という技術が発展し、富を得たのか?

 その裏でその技術によって被害を受けているのか?


  分からないことだらけだ。


そんな事を考えていると、焚火を目指して歩いてくる人影が見える。

体勢を変えぬまま、剣を構えた。


「こんな所で野宿ですか?」


オレンジ色のフードを深く被り、目を隠している男。髭を生やしており、その声から老人である事が分かる。


「ええ。宿が取れなかったもので」

「旅のお方ですか?」

「はい。王都を目指してね」


 「なんと・・・」

老人は驚いた声だ。

そりゃ驚くだろうな。かなりの距離がある。

 「遠いですよ、全く」

 「距離の問題ではありませんよ」

 「え?」

 「いま、王都に行こうと考える人間は少ないですから」

 「何故だ?」

 「ノイズ派との争いが絶えませんからね」

 「不安定なのか・・・」

 「どうして王都へ?」

 「色々あってな・・・」


俺は説明が面倒でフードの老人に語るのは辞めた。


 「まぁ、とにかくお気をつけて。おそらく王都へは〝普通の方法〟では行けないと思いますよ」

 「普通の方法?」

 「ええ。結界が張ってありますから」

 「ケッカイ?なんだそれは?」


 「ご存知ないのですか?」


ー老人は確かにその2文字を言った。

 存在しないと思っていたそれを。




 「〝魔法〟ですよ」





 

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