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その座を奪われた主人公   作者: 大野春
第二章 存じない存在
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11話 流された商人


 「フッさん!さっきの釣り人!やっぱり異世界転生者だよ!」

 マタタキが言う。


 「視えないのか?」

 「うん」


 マタタキのチートは、眼を開いている間〝進むべき未来〟を視ることが出来る。


 一度でも目を閉じれば消えてしまう。

 ちょっとのまばたききでも見えなくなってしまう。


 この前俺がマタタキの力が入ったらしい彼の剣を握り、自分の進むべき道が一瞬だけ見えたのは、俺は意識せず瞬きをしてしまっていたからだ。

 あの時本当は目を見開いたままであれば、しばらく自分の視界の範囲内に限るが未来が見えたかもしれない。


 本人は連続してこの力を使った事は無いらしいので、何回も使えるのか、力の上限は分からない。


 本人がその能力チートで見えるそれを〝進むべき未来〟と定義しているのは、あくまで未来を示す訳ではない、という事。


 見えた未来に対して、その先の行動を無視する事もできるという事だ。


 そしてもう一つ、同じくイセカイからの転生者にこの力は通用しない、という事。


 何故なら、俺たちが・・・ツヨシへの復讐を最終目的に王都を目指そうとした時、マタタキには進むべき未来が見えなかったという。


 これは逆を言えばツヨシがまだ存在するという事だ。


 さて、とりあえず今は、突如現れた異世界転生者疑いの釣り人を見つけ出す事。


 河川沿いは丘になっていて、俺たちは一度その丘の上まで登ってあたりを見渡す。

 背の高い草が多少あるが、見通しは良い。


・・・なのに、その姿が見えない。


 「おいおい、見当たらないぞ。まさか、消える力でも持ってるのか?」

 「それはないよフッさん!その力は僕たちには通用しないはずだ」

 「なるほど・・・」


 ・・・じゃあ、さっきの釣り人はどこへ?


 大橋は崩落するし、新たなイセカイ転生者が現れるし、旅はトラブル続きだな。

 ふふっ、なんて思っていた時。



 『誰かぁ!!!!助けてくれぇ!!!!』



 振り返ると、河に流されている人間が助けを求めている。溺れかけていた。


 「フッさん!どうする!?」

 

 「ほっとけるかよ!」

 俺は容赦なく人を斬って来たが、人を救うのもまた兵士であり、英雄である!


 迷う間も無く、俺たちは溺れかけている人の救助に向かった。

 

 釣り人は諦めよう。


ーーーーー


 「た、助かりました」

 びしょ濡れの男。


 マタタキの力が功を奏し、流されていた男を助ける事が出来た。川の流れを先読みし、的確に最短で救助が出来た。


 「私は、ラムドの商人です。カタスカと言います」

 流された男の名前は、カタスカと言うらしい。

 「どうして流されていたの?」

 シズカが疑問を投げかける。

 「エオーボ大橋を渡っていた所・・・急に橋が爆発して、崩落したんです」

 先の爆発に巻き込まれた人か。


 「よ、よく生きてたね・・・」

 「あなた方のお陰ですよ!」


 ふと、4人で崩落した大橋を見る。

 爆発から30分も経っていないだろうか。

 煙がもくもくも登り、橋の中腹は見事に壊れている。


 「命は助かりましたが・・・商売道具も・・・馬も失ってしまった・・・」

 カタスカは途方に暮れている。


 「この爆発は・・・」と俺。

 「きっとノイズ派の奴らに違いない。くそうっ!」

 地面を叩くカタスカ。


 「ノイズ派・・・か」


 先程の正体不明の釣り人も言っていた。

 現在の国王に不満を持つ派閥・・・


 「奴らは〝蒸気爆弾〟の開発に成功てからやる事が過激になってる」

 

 カタスカは現実から目を背けたいのか、蒸気爆弾の説明をペラペラと始めた。

 何か喋っていないと不安なのだろう。

 とにかくそれは力をぎゅっと凝縮して、一気に解放する恐ろしい兵器との事だ。

 話だけ聞けば英雄である私でも防ぎようはない。


 「随分と詳しいのだな」

 「私は武器商人ですから。あらゆる人殺しの道具には詳しいのです」

 「そうか」


 「そろそろ行きます。どこに行けば良いのか分かりませんが・・・帰らなければ」

 カタスカは服を絞り、ボタボタと落ちる水滴を見ている。


 「分かった。頑張れよ」

 「風邪、引かないようにね」


 「ありがとうございました!」


 そういってカタスカは橋へ向かって歩き出した。

 ちなみに、彼は名前を与えられしモブキャラではあるが、今後登場するような事はなかった。

  爆発によって全てを失った人間の寂しい後ろ姿・・・

 この国の現状を訴えて当たるようにも見えた。



 「っで、どうするフッさん?」



 「橋は目的地のひとつでしかない。俺たちは構わず北上しよう」


 「ねぇ、あの釣り人は追わなくていいの?」

 シズカが聞いてくる。

 彼女やマタタキ・・・俺もそうだが、イセカイからやって来た人間の事は気になるはずだ。



 「またどこかで出会うだろう」



 俺はそんな気がしていた。





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