11話 流された商人
「フッさん!さっきの釣り人!やっぱり異世界転生者だよ!」
マタタキが言う。
「視えないのか?」
「うん」
マタタキの力は、眼を開いている間〝進むべき未来〟を視ることが出来る。
一度でも目を閉じれば消えてしまう。
ちょっとの瞬きでも見えなくなってしまう。
この前俺がマタタキの力が入ったらしい彼の剣を握り、自分の進むべき道が一瞬だけ見えたのは、俺は意識せず瞬きをしてしまっていたからだ。
あの時本当は目を見開いたままであれば、しばらく自分の視界の範囲内に限るが未来が見えたかもしれない。
本人は連続してこの力を使った事は無いらしいので、何回も使えるのか、力の上限は分からない。
本人がその能力で見えるそれを〝進むべき未来〟と定義しているのは、あくまで未来を示す訳ではない、という事。
見えた未来に対して、その先の行動を無視する事もできるという事だ。
そしてもう一つ、同じくイセカイからの転生者にこの力は通用しない、という事。
何故なら、俺たちが・・・ツヨシへの復讐を最終目的に王都を目指そうとした時、マタタキには進むべき未来が見えなかったという。
これは逆を言えばツヨシがまだ存在するという事だ。
さて、とりあえず今は、突如現れた異世界転生者疑いの釣り人を見つけ出す事。
河川沿いは丘になっていて、俺たちは一度その丘の上まで登ってあたりを見渡す。
背の高い草が多少あるが、見通しは良い。
・・・なのに、その姿が見えない。
「おいおい、見当たらないぞ。まさか、消える力でも持ってるのか?」
「それはないよフッさん!その力は僕たちには通用しないはずだ」
「なるほど・・・」
・・・じゃあ、さっきの釣り人はどこへ?
大橋は崩落するし、新たなイセカイ転生者が現れるし、旅はトラブル続きだな。
ふふっ、なんて思っていた時。
『誰かぁ!!!!助けてくれぇ!!!!』
振り返ると、河に流されている人間が助けを求めている。溺れかけていた。
「フッさん!どうする!?」
「ほっとけるかよ!」
俺は容赦なく人を斬って来たが、人を救うのもまた兵士であり、英雄である!
迷う間も無く、俺たちは溺れかけている人の救助に向かった。
釣り人は諦めよう。
ーーーーー
「た、助かりました」
びしょ濡れの男。
マタタキの力が功を奏し、流されていた男を助ける事が出来た。川の流れを先読みし、的確に最短で救助が出来た。
「私は、ラムドの商人です。カタスカと言います」
流された男の名前は、カタスカと言うらしい。
「どうして流されていたの?」
シズカが疑問を投げかける。
「エオーボ大橋を渡っていた所・・・急に橋が爆発して、崩落したんです」
先の爆発に巻き込まれた人か。
「よ、よく生きてたね・・・」
「あなた方のお陰ですよ!」
ふと、4人で崩落した大橋を見る。
爆発から30分も経っていないだろうか。
煙がもくもくも登り、橋の中腹は見事に壊れている。
「命は助かりましたが・・・商売道具も・・・馬も失ってしまった・・・」
カタスカは途方に暮れている。
「この爆発は・・・」と俺。
「きっとノイズ派の奴らに違いない。くそうっ!」
地面を叩くカタスカ。
「ノイズ派・・・か」
先程の正体不明の釣り人も言っていた。
現在の国王に不満を持つ派閥・・・
「奴らは〝蒸気爆弾〟の開発に成功てからやる事が過激になってる」
カタスカは現実から目を背けたいのか、蒸気爆弾の説明をペラペラと始めた。
何か喋っていないと不安なのだろう。
とにかくそれは力をぎゅっと凝縮して、一気に解放する恐ろしい兵器との事だ。
話だけ聞けば英雄である私でも防ぎようはない。
「随分と詳しいのだな」
「私は武器商人ですから。あらゆる人殺しの道具には詳しいのです」
「そうか」
「そろそろ行きます。どこに行けば良いのか分かりませんが・・・帰らなければ」
カタスカは服を絞り、ボタボタと落ちる水滴を見ている。
「分かった。頑張れよ」
「風邪、引かないようにね」
「ありがとうございました!」
そういってカタスカは橋へ向かって歩き出した。
ちなみに、彼は名前を与えられしモブキャラではあるが、今後登場するような事はなかった。
爆発によって全てを失った人間の寂しい後ろ姿・・・
この国の現状を訴えて当たるようにも見えた。
「っで、どうするフッさん?」
「橋は目的地のひとつでしかない。俺たちは構わず北上しよう」
「ねぇ、あの釣り人は追わなくていいの?」
シズカが聞いてくる。
彼女やマタタキ・・・俺もそうだが、イセカイからやって来た人間の事は気になるはずだ。
「またどこかで出会うだろう」
俺はそんな気がしていた。




