10話 北上する3人
《ムジーク王国ー南西部ータルーシ運河・下流》
この大きな運河の名前は、タルーシ運河。
「タマガワぐらいの大きさの川だよね〜」
とシズカが言っている。タマガワ?何それ。
とりあえずはこの河川沿いを北上し大きな橋を目指す。その名は、エオーボ大橋。
聞いた事が無い。
「エオーボ大橋ってフッさんの時代には無かったんじゃないかな」
マタタキが説明する。
現在地から橋までは
歩いて3時間ほどかかるそうだ。
「なぁ、マタタキ。あの船には帆が無いようだが」
俺は疑問に思っていた。
「あれは蒸気船だよ」
「蒸気船?」
「フッさんの時代には無かったの?」
「知らないな」
「私でも知ってるかも」
シズカが補足説明をする。
蒸気という技術革新によって
この国の文明は発達したそうだ。
そのひとつが蒸気船。
蒸気を利用した船で
風任せではなく自力で運航が可能なのだという。
進展の意味を込めてこの国の暦は
革命暦、となっているらしい。
「まぁ、僕たちが住んでたセカイはデンキが主流だけどね」とマタタキ。
「デンキ?」
「うーん、説明がムズいしダルい」
「そうか」
面倒と思われるのも嫌で、それについての言及は辞めた。
しばらく歩く。
途中、何度もシズカの力を再現してみた。
シズカの能力は、彼女が叫ぶ間、
その声が届く範囲は無音になるという事。
「本当に何も聞こえない」
俺は驚く。
「でも、消せるのは音だけ。例えばこの力を使って鳥を捕まえようとしたけど、それは出来なかった」
動物は、俺たちには分からない気配というものを察知するらしい。
「あっ!見えてきたよ!」
マタタキが遠くを指差す。
河川をまたぐ大きな橋が見えた。
「あれがエオーボ大橋か・・・」
マタタキがエオーボ大橋を目指そうと提案したのだ。
ー回想ーーー
「フッさん、王都に行くんだよね?」
「ああそうだ。余りにも遠い旅路になるな」
私も土地勘が無いのだが、
最初に飛ばされてきたハモニク村は
王都ピアノとかなりの距離があったはずだ。
「それならさ、この川沿いを進んでエオーボ大橋に行こうよ」
「何か策があるのか?」
「エオーボ大橋は流通の要なんだ。そこを行き来する馬車に乗せてもらったりとか・・・出来たりしないかな?」
「たしかに悪くない考えだが・・・そんなにうまく行くものかな?」
「まあ、川沿いを歩くなら、回り道になるわけじゃないし、良いんじゃないの?」
シズカも同意した。
この大きな運河を辿れば
途中山を越える必要はあるが
基本的には王都へ繋がる。
こうしてマタタキ少年のアイデアが採用された。
馬車に乗せてもらえるのであれば
それほど楽な事はない。
上手くいけば、の話だけど・・・
ー回想おわりーー
《ムジーク王国ー南西部ータルーシ運河・エオーボ大橋付近》
とても大きな橋なのか、
その姿を目で捉えてもなかなか近づく事が出来ない。
それでも歩き続けると、視界に映る橋の姿が次第に大きくなり、
沢山の馬車や通行人が歩く姿が見えてきた。
この大きな河の対岸、東側が王都への方向。
これがざっくりとした今の位置関係だ。
「しかし大きな橋だな」
ーそんな呑気なことを言い放った瞬間。
橋の中腹部で大きな爆発が起きる。
先に爆発が目に入る。
その後遅れて大きな破裂音が耳に入る。
「ええっ!?」
「爆発!?」
「なにっ!」
橋の中腹部がボロボロと河に落ちていく。
人や馬が流されていく。
これはただ事ではない。
「えっ!えっ!どうしよう!」
焦るマタタキ少年。
俺たちには何も出来ない。
せいぜい助けられるのは溺れている人間数人だろう。
「様子がおかしい。ここで少し待機するか?」
俺が提案する。
「その方が良さそうかも」とシズカ。
その時、河川側から釣竿とバケツを持って現れた男がひとり。
「あーあ、テロだね。どうしてこう、空気の読めないタイミングでやるかな。ノイズ派のアホ達は。こんなんじゃ釣りなんて出来やしねーよ」
独り言なのか、俺たちに話しかけているのか分からない感じで喋る男。
「ノイズ派?」と尋ねる俺。
「おいおい、アンタ、ノイズ派も知らねーの?」
「分からん」
「現4代目国王に不満を持つ派閥だよ」
国王の政治に不満を持つ派閥・・・?
今の国は不安定なのか?
そんな、会話をしていると、
先ほどと同じく、大きな爆発が起きる。
そして、その爆破の衝撃で
なにかの破片がこちらに向かって飛んできた。
シズカがなにかを叫んでいる。
振り返る釣り男。
間一髪で飛んできた破片を避けた。
「ふぅ〜、危なかった。ツイてねぇな俺。助かったよお嬢ちゃん。じゃあな」
男が持っているバケツには数匹だけ魚が泳いでいた。
とぼとぼと歩いて去っていく。
「あのような爆発を起こすほど、国に不満を持つものがいるというのか?」
信じられないので、
シズカやマタタキに尋ねる。
「蒸気の発展から、国の貧富の差が拡大したって聞いてるよ。資源も足りないから、無理に労働させられたり・・・それに噂だけど、資源を求めて戦争が起きるとかなんとか・・・」
やはり、国は変わってきているのか。
「ねぇ、さっきの釣りの男、シズカさんの声、聞こえてなかった?」とマタタキ。
「ん?」
「さっき、破片が飛んできたでしょ?私、咄嗟にあぶない!って叫んだの!そしたら、あの人、振り向いて避けたわ」
振り向いて逃げた?
つまり、シズカの声が聞こえた?
ということはシズカの力が及ばぬ者・・・
チートはチートを使える者には効かない。
となるとあの釣り人は・・・
イセカイから来た奴なのか!?
「追うぞ!」




