30
感じて、思わず夏目は慄いた。どうしてお前はそこまで出来るんだ?こんな面倒なことを。辛くないのか?そう投げかけられているようで。冷たく、暖かい、死期を悟って諦めた人間のような、慈しむ陰った瞳がそこにあった。しかし彼は夏目のことなど見てはいない。きっと亜紀穂は違う誰かを、何かのきっかけで思い出しただけだろう。人を想うにはあまりにもつ強い憐れな表情。それを見られたと勘違いしていることに気づいたのは、その計画の話が終わった後だった。それほど気にしていなかったと言うには少し嘘になる。夏目は確かに亜紀穂をそれから数度見かけたし、目で追った。しかし積極的に話しかけることもなく、夏目は恐怖で萎縮していた。俯き加減に顔を下げる時に見える何処を見ているか分からないぼんやりとした目はやはり夏目を恐怖させたし、惹かれもした。なんと儚い人間だろう。弱いのではなく、嘆いているのではなく、泣いているのでもない。ただ執着がないのだ。誘われたらきっと何もかも亜紀穂は躊躇いもなく捨てて、消え去るだろう。亜紀穂は感情が欠陥している。
好機は意外とあっさりとすぐに訪れるもので、夏目の祈りが通じたのか亜紀穂と親しくなったのはそれからすぐ後の合宿だった。嘘みたいに深く水に埋もれ、死体みたいに青白く木目細やかな肌は透き通り、身体の血管、皮膚が奥まで見えたような気がする。初めて死体に近い人間を見た。何処までも天国まで堕ちて逝きそうな静かで美しい光景だった。瞬間、躊躇わず湖に飛び込み、亜紀穂の腕を引っ張る。意識がなく、暴れることがないので持ち上げやすかった。湖から引き上げた亜紀穂を起き上がらせ、背中を叩く。詰まった水が口から吐き出された。苦しそうに肩で息をつく。湖の中に入っていたのとはまったく異なった、激しさを纏っていた。咳をして、呼吸を必死につく亜紀穂はどう見ても人間、動物で生きているのが分かる。疲労した体を休め、酸素を失いかけた脳を潤す。その行為が不似合いだった。どこか胸の奥でこのまま亜紀穂は静かに逝った方が、幸せなのではないか、美しい光景なのではないか、その様を眺めるのを望んでいたのではないか、そんな声が呟いた。心の中で首を振り、夏目は亜紀穂の身体を草むら




