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夏目がさっきのことは忘れたように、大げさな明るい豊かな笑顔でお礼を言った。きっと夏目は潰されたりしない。受け入れることを覚え、拒絶することも知っているだろうから。考えすぎて苦しくなることもないのだろう。間違いとか、正しさとか分からなくても、傾いた思考をきっとさりげなく直している。少し饒舌になった自分が恥ずかしくなって、目を瞑った。昨日は旅行の準備で寝不足だ。眠ろう。
「あれ?寝んの?今俺すごい良いこと言ったんだけど」
「池田も身体休めとけ。これからけっこう動くから」
終電までまだ二時間以上もある。体力をつけるには十分な時間だ。目を閉じていると夏目はガサリと音を立て、飴を取り出し、いる?と亜紀穂に聞いてきた。いらないと答えると夏目は一人で飴を口に含む。歯にあたり、口の中でカラリという奇妙な潔い音が聞こえた。甘い香りが漂う。耳にしながら亜紀穂は電車の振動と共に、穏やかな寝息を立てた。身体の力が抜ける。夏目の本のページを捲る音が目を瞑ったままの状態で、敏感に聞こえてきた。
きっと彼女も彼を気に入ってくれる筈だ。許す許さないにしても、彼のことは責めない。そう信じよう。あの場所に俺が行くことを望んではいないのかもしれないけれど、それでも君はあの時一緒にいてくれた。ならば良いじゃないか。逢いたい、ただ。
いつのまにか亜紀穂は眠り、彼女の夢を見ていた。とても幼い自分と彼女が二人であの村から出て、旅をする夢。度々困難が待ち受けようとも最後は必ずハッピーエンドになる。どういう幸せな結末かは覚えておらず、彼女のあんなに幼い時期も知らないけれど、夢の中で逢えた。あの村で消えてしまった彼女に逢えた。それだけが嬉しい。幸福なんだ。それさえも、それだけなんだ。
初めて彼の存在を確かに認識したのは、不覚にも合宿のハイキング。夏目はクラス委員で当然のごとく点呼係に選ばれた。別に文句もなかったし、むしろ自分から立候補しようと思っていたから都合上問題はなかったのだけれど、クラスで班が決まったときの亜紀穂のどうでも良さげな無関心な、悲しそうな視線が壇上に立った時にとてつもなく




