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まった。
「あ、今読んでる小説に出てくる主人公の探偵の助手が櫻井みたいに腹黒なんだよ。すんげえ似ててさ、頭良くて上品そうでインテリ系なのに陰で依頼者の悪口ばっかり言ってるんだよ。な?櫻井そっくり」
「・・・そんなに似てるの?」
今までの話から最初の台詞がそれかよ。俺は小説の登場人物程、腹黒でもなければ完璧な策略家でもない。夏目は感心しきった目から鱗という顔で、本と亜紀穂の顔を見比べている。ああ、夏目はきっと個人がどんな性格でも、精神科医のように人と接するのだろう。意外と大らかな視野の広い奴かもしれない。
「お前も読んだんだからこの助手知ってるだろ?これ面白いな。この人の書いた作品他にもあったら貸してよ。見たい」
「持ってない、それあげるよ。元々俺が読む本じゃなかったしね」
「え?くれるの?でも悪いし・・・」
「その本は池田用。ミステリー好きそうだったから、買っておいた。俺は他の読むから、遠慮しないで。」
話していたらすでに電車は動き出していた。もう降りようがない。また本に視線を落とす。向かいの彼は唖然としながら嬉しそうに、本を丁寧な動作で受け取った。その姿がさざ波の様に思えた。なんでも人の性格を受け入れられる人は少ないと思う。しかし夏目は亜紀穂を受け入れた。それは良いことなのか、悪いことなのか亜紀穂には分からない。もしかしたら破滅に向かう路なのかもしれない。受け入れすぎて、異質にも、罪悪にも気づかず病的な人間に惑わされるのかもしれない。普通なら亜紀穂はそう思う。受け入れるということは、自身に歪みがないということだから。
「センキュ、大事にしとく」
「どうも、大事にしてやって」
「後さ、・・・そうだよな。やっぱ、相手の感情も尊重してやんなきゃ駄目だよな。告白するのは本人の自由だけど、振る奴にまで押し付けちゃ駄目だよな。俺何か違ってたみたいだわ。櫻井、ごめん」




