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今は嫌いか好きか分かんねーし」
「出来れば嫌ってほしいな」
冷めた笑いを含みながらぼそりと呟くと怖い、と夏目に怒られた。仕方ないだろう、これが素なんだから。意外と夏目は言いたことは言う性格だった。それこそ人が傷つく核心を撫でるみたいに静かに突いてくる。無意識か意図的か、余分なもののない揺ぎ無い言葉で。それこそ亜紀穂が恐れているものだった。気づかない内に踏み込まれているかもしれない。踏み躙られるかもしれない。一番関わりたくなかったよ。
「実は櫻井って、そういうキャラだったのか?爽やかインテリ優等生じゃないのか!もしかして腹黒キャラなの?」
「何その気持ち悪いキャラ。別に、腹黒いほど誰かを嫌ったことなんてないよ。誰にも興味が湧かないだけ・・・嫌いな人にはそれなりの態度を示すけどね」
電車は相も変わらず同じ振動を刻み続けている。その規則正しさはどこか心臓の鼓動を連想させた。心地よく脳みそを冷やし、すうっと息を吐くようなそんな気分だった。神経だけは冴えているのに、身体は休息を求めている。なんだか疲れてしまった。今更大人しくする理由も、我慢する必要もない。何で夏休みの初日に早朝五時起きなんだ。
以降夏目が沈黙したので仕方なく、バックから昨日買った文庫を取り出し読み始める。チラリと様子を伺う夏目に亜紀穂はもう一冊本を取り出し差し出した。どうせ話など合う訳がない。亜紀穂を選択してしまった彼の責任でもあるが、それでも居心地が悪いのは拭えない。差し出された本を受け取り、夏目は裏に書かれているあらすじをしげしげと眺めた後、興味深げにページを捲り始めた。亜紀穂もまた読み始める。分厚い文庫は、主人公の誰にも理解できない深い冷徹な心情を事細かに書き連ねられている。どこまでも哀しく、その感情さえ感じることの出来ない描写が、亜紀穂に親近感を抱かせた。対して夏目はコメディー風ミステリーを、時折吹き出しながら楽しく読んでいた。だが少し経つとふいに顔を上げ、そういえば、と話しかける。




