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いちいち反応しても疲れるだけだ。何も言わず、亜紀穂は図書室を後にする。何か夏目が後ろから叫んでいる気がしたけど、聞きたくないので廊下の窓の外を見た。気づかぬうちに、夕方になっていたらしい。それでも冬とは違う染まるような明るい夕焼けが、亜紀穂の顔を赤く染めた。美しい、夏の景色だった。
あそこにはない強い景色を目に映す。それだけでも亜紀穂の心臓は、細い指の爪に引っかかれたような、微かな罪悪感を拭えない。あの村に誰かを連れて行くなんて自分でも思いもしなかった。それこそそれは許されるのだろうか?あの場所はきっとあいも変わらずそこに存在しているだろう。けれど亜紀穂にとってはずいぶん離れていってしまったような気がする。遠くの彼方、不幸の果てとも、幸福の果てとも言えない場所へ・・・。そこに行けるだろうか?
不覚にも夏目のまた明日、という声に亜紀穂ははっと意識を取り戻したのだ。
翌日はやはり夏らしく快晴、猛暑で、亜紀穂の体温を上昇させた。眩しい太陽が肌をてりつける。それは否応なく身体を火照らせた。色素の薄い瞳にこの日光は辛い。
あの後家に帰ってから早速すぐに荷造りを実行し、準備万端の格好で駅に着いた。ジャスト七時十分前である。夏目が改札口に駆け寄ってくる。
「櫻井!おはよう。良かった、来てくれたんだな。昨日半ば無理やりこじつけたからドタキャンされたらどうしようかなって思ってた」
濃い赤いTシャツにジーパンというラフな格好に、正しく今から旅行に行きますという風な大荷物。中には水着だ、服だ、生活用品だ、と色々なものが入っていそうだ。それは亜紀穂も同様で、様々な日用品と食料がバッグの中を占領している。
「借りは返す主義なんだ。それより早く切符買って」
「ああ、ここから何処の電車に乗るんだ?」
「北。北に下がる。終電で二回乗り換えて、それからは二日に三本運行しているバスに一時間乗って、二時間の山道を歩くか、万に一つの




