21
その言葉に一瞬夏目はううっと、唸る。だがまだ諦めていない様子で、かたっぱしから携帯で色々な所にメールを打ち始めた。その器用な指先をぼんやりと見ていた。本来ならそのままだと夏目をあの場所に連れて行かねばならない事態になるのに、なんとなくこうなるのではないかという予感もあった。だから内心ではもう諦めていたのかもしれない。誰にもあの場所に触れさせたくなかった。なのにどうして俺はこうもあっさりと夏目が入り込んでくるのを留めないのだろう。普通ならあの時から話したりなどしなかったのに。亜紀穂にごく自然に問いかけてきた夏目に恐怖を感じた。こうして内側に踏み込んでくる彼は最も亜紀穂は嫌悪する人間だった。その夏目ともしかしなくても、夏休み中共に行動しなくてはならないのかもしれない。けれどどうでもよくなってきたというのが今の亜紀穂の心境だった。あらかたメールし終わった夏目は嬉しそうに、また得意げな強い笑顔で親指をピンと立てた。
「明日の七時な?オッケー。金は全額出してやる。櫻井は心置きなくたかってくれ」
「・・・遠いから、色々準備したほうがいいと思う」
「お前、ゲームとかする?なんなら持ってきてやるけど」
人が譲歩した途端、調子に乗って騒ぎ出した。はっきりいって五月蝿い。こんなはずじゃなかったのに。今年は受験もないから、ゆっくり本でも読んで寛ぐことを考えていた亜紀穂は無償に腹が立った。
「ゲームはすぐオーバーになるから嫌いなんだ。俺は本でも読んでるから勝手に池田は遊んでろ。それと携帯は使えないから持ってくるな」
亜紀穂は図書室から本を持って出て行く。こうなったら本でも大量に買って現地で避暑気分で読書でもしていよう。今日、十冊は本屋で買うことになる。それから乗り換えの各駅で五、六冊買って、夏目は無視していよう。それでいいか。
「遅れんなよー!案内係がいないんじゃ、話になんねーからな!」
俺はそこまでお座なりじゃない。時間はこれでも、というか見た目通り絶対に守るタイプなんだよ!と、届くはずもない心の声を訴える。




