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夏目は人の領域に静かに深く深く入ってくる無粋な奴だが、無理難題を人に押し付けたことはない。亜紀穂があの日以来苦手になった原因はこれだが、そのこともきっと夏目は分かっていると思う。知られてしまったから。だからあまり関わりたくないのだ。借りをつけたのも、たった一度きり恩を返したら夏目との縁を切りたかったから。それを分かっていて夏目は早々に亜紀穂を解放する。
「お前さ、あん時湖の村があるって言ってたろ?其処行きたいんだよ。夏休みに連れってってくんないかな?金は俺が出すから」
「地図なら書くってあの時も言ったじゃないか」
そう言い放つと夏目は高らかに堂々と宣言した。その直後亜紀穂はその言葉に肩を落とす。
「俺は一人旅なんて虚しいものしたくない!だったらヤローの櫻井でも連れて行ったほうがましだ!」
そんなに言うなら彼女とでも行けよ。ずいぶんな言いぐされで亜紀穂は少なからずカチンときた。俺だってヤローなんかと行きたくもない。っていうかそれがお願いかよ、もっとあるだろ違うことが!どうでも良いこと願ってんじゃねー!
「この為にバイトは予定に入れていない。補習もしない。友達と約束もしてない。俺は今フリーだ。いつでも良い。予定がある期間でいいから連れってってくれ!」
勢いのある説得に押されて亜紀穂は後ずさりする。自分も今年は予定は入っていないに等しい。勉強なんてわざわざ補習を受けるほどでもないし、遊ぶ予定もない。どこかに一人で出かけようと思っていたぐらいでいつでも変更は出来る。つまり暇だ。断るに断れない。なんてめんどくさくて、実行可能なお願いをするのだろう。余計な事をあの時言わなければ、良かった。だったら難題をこっちも押し付けてやる。
「じゃあさ、明日出発するから、駅に七時に集合でいい?ちなみに夏休み期間ずっといるから。帰るのは三日前。そこには何もない田舎だけど、池田耐えられる?」




