第7片 感情・観覚異常
「これは……!」
完全にやられた、いつの間にか後続組の最中や笹がぼくらの後ろにいなかった。
「ふむ。すでに俺様たちは誰かの手の平で踊らされているようだな」
さすが存在感のカラフルピース。人の反応にも敏感ならしい。
「まま!」
少しとりみだしたのは喜咲さんだけか。
パトスさんはいいとして千旭ちゃんも平然としているのか……。
はぐれたのは暗いから。
なんて理由ではもちろんないだろう。
「どこにいるんですか?」
「とても素晴らしいですね。ワタシの存在に気づけるとは」
どこからか声が聞こえる。人を安心させるような心地の良い声だった。
それはその場の空気が均一に振動するような声で山の木々すべてから音が発せられているようだった。
それとともにかすかにキーンという機械音のようなものがかすかに響いているような気がした。
「はあ、隠れてこそこそする奴ってのは食傷気味なんだ。さっさと排除させてくれ」
「おやぁ? ワタシの排除をお望みですか。そうですか。しかし、それはあまりお勧めしないと一言申しておきましょう」
「何故だ?」
「それは自衛をしなくてはいけなくなるからですよ」
「自衛か。それならぼくらに直接危害を加えるつもりは無いってことなのかい?」
「ええ、そうですともワタシの仕事は貴方方を分断することのみ。それ以外は仕事外ですから」
「そんなことを誰が保障してくれるんだ? ぼくは今ここでお前という不穏分子を取り除いておいた方が安心して先へ進めるんだがな」
「ワタシはプロです。与えられたことのみやるというのがワタシのモットーですから。それに仕事内容に関しては正直にお話するということも」
「……ここまで言うのなら信じてみてもいいかもしれないよ」
口を開いたのは喜咲さんだった。
「プロと名乗った上で正直に話すと言っているんだから。まあよっぽど手段を選ばないような奴じゃなきゃそのまま受け取れば良いと思うよ」
「喜咲さんの意見に従うのが吉です。我々は山頂を目指しています。はぐれた兄たちも目標を山頂にするはずです。ゆえに一刻も早く我々も先へと進むべきです」
千旭ちゃんの意見にはかなり説得力があった。最中や笹よりも年齢は低いだろうに理路整然とした説得だった。
ぼくがそう訝しんでいるとそれを察したのか
「ああ。本来なら選択肢を与えるだけなのですが皆様の信頼を獲得するならこちらの方が手っ取り早いと思いました」
とりあえず取るべき行動は決まったな。
「もしも、お前が嘘をついていることが分かったときお前の精神が無事でいられると思うなよ?」
「おお、怖い。ワタシが正直者で命拾いしました。それでは」
この場に鳴り響いていた声と奇怪な機械音はいつの間にやら止んでいた。
ところどころ手すりなどは無くなってはいるが比較的歩きやすい道を歩いていた。
ぼくらが歩く山道は登山ルート通りのものだった。
それはイコールであちらが道なき道を歩いているということなのだけれど、身体的に一番か弱い千旭ちゃんがこちらにいるのは不幸中の幸いか。
………………。
終止無言なのは仕方がないが少し気まづいなぁ。
本当は探偵くんがいるときに話したかったけれど……。
「……。「カラフルピース」が何なのか君たちは知っているかな? 陽奏。それと千旭ちゃん」
「陽奏さんは良いとしてどうして私なんですか?」
「なぁに別に他意はないよ」
「………………」
「知りたくは無いのかな?」
「ふん。小娘は知らんが俺様は少しだけ興味があるな」
「ふっふっふ。そうだろう。そうだろう」
「「カラフルピース」ってのはさ―――――――――」
「そういえばおにぃが探偵さんのこと気にかけてたよ「彼には色々聞かせてやるべきことがあるって」」
「性性君が?」
「何でも「カラフルピース」について探偵さんに教えておきたいことがあると「なのです」」
「そういえば、前に話を聞きそびれていたような気がするな」
「最中たちでよければ説明してしまっても構いませんか?「兄者ほどしっかり理解しているわけではありませんのですが」」
「是非とも聞かせてくれ」
「オイオイそんなこと話してる暇あんのかよ。ってぇ言いたいところだが、俺も個人的に興味があるな」
「わたくしが周囲を警戒しておくのでお話していただいて構いませわ」
「すいませんね。負担をかけてしまって」
「いいんですわ。自分について深く知ることのできる機会というのはすべからく村長されるべきですもの」
「それでは良いですか? 「カラフルピース」っていうのは一言で言ってしまえば――「思い込みなのです」」
「…………納得しかねるな。自己の内部で異常現象が起こるタイプ。探偵のような者たちだな。それらの者ならばその説明で事足りるだろうよ。プラシーボ効果のようなものだとな。しかし、俺様のような他者へ影響を及ぼすようなタイプがそれで理解できるかと問われれば、難しいと言わざるをえんだろうよ」
「指摘としてはなかなか鋭いよ。だけれどすべては「思い込み」の一言だけで片付けられてしまうだよね。これが」
「自分以外に影響を与えていたとしてもそれは、自分だけでなく相手もそう思い込んでいるに過ぎないんだよ。君の能力で説明するのなら、君自身が圧倒的な存在感を放つ存在だと思い込むことで身振りや姿勢、話し方なんかを実際に生み出して、それを受け取った他者が勝手にそれを増幅するんだよ。現実の事象としては大した変化じゃなくても君とそれを受け取る他者とが互いに「存在感」を生みだすってわけ。
「勘違いしてほしくないのは「思い込み」だからといって別にちっぽけな力なんかじゃないってことさ。人間は熱湯だと思えば水でも火傷することができるし、失くしたはずの腕の痛みを感じ取ることだってできるんだ。
「本来それは無意識のうちに行われていることなんだけど。それを意識的に、より直接的に他者へ感情によって影響を与える技術。それが「感情移出」というものだ。カラフルピースなら訓練さえすれば誰でも使いこなすことができる。
「これは何らかの事象は伴わせず純粋に感情だけを相手に伝える技術なんだ。人の感情容量には許容限界がある。相手の容量いっぱいまで満たせばその感情を処理できなくなった者は意識を一時的に失ってしまうし、許容量を超えればその者は「発狂」してしまう。カラフルピース相手なら相手の感情と逆位相の感情をぶつければ無効化することだってできる。
「そして、カラフルピースってのは基本的に先天的な物なんだ。なぜなら、それはその個人の性格、性質、生まれながらの価値観が反映されるものだからね。何の理由も無しにあるとき急にカラフルピースに目覚めたり、前触れなくカラフルピースの能力が変化したりはしないんだよ。本来はね。だから彼とはいつかゆっくり話をしたいと思っているんだ。
「……なんとなくは理解した」
「彼とは探偵さんのことでしょうか?」
「ああ。そうさ」
「彼は生まれながらのカラフルピースでは無いのですか?」
「うん。どうやらそうらしいんだよね。っと、そろそろお出ましみたいだよ」
その一言で全員に緊張感が走る。
木々の無い数メートルほどの空間があった。
その中央に和装の男が正座をしていた。
腰の右側には一本の太刀を佩いていた。(どうやら左利きのようだ)
紡錘形の葉が一枚。
ひらひら
と舞い落ちたかと思うと地面に着くころには縦に真っ二つに斬られていた。
刀を抜く瞬間を誰もその瞳の中に写すことができなかった。
背中に一筋の汗が伝わる。
「鬼隠山」の決戦
第二仕合開戦




