第6片 「鬼隠山」の決戦第一仕合 VS蟲遣い
「あー、あー一応警告しておくぜ。もしもアンタらがなーんにも知らねぇただの登山客だったなら今すぐ両手を挙げな」
「……問題無いよ」
「ああ!! 俺たちはちゃんと君たちの敵だ!!」
長い前髪で目元が見えないギャルゲーの主人公のような男と半袖短パン、はきはきした喋り方と光を放っているかのような笑顔、明らかに体育会系の陽の雰囲気を纏った男の二人組だった。
「始める前にいくつかお聞きしたいことが——」
「違うな。先手必勝だぜ!!」
「射ろ。『梟』。」
アッキーがそう何かに命令し、指を軽く、くいと動かしたと思った瞬間、体育会系の男の手に棒状の物が深々と刺さっていた。
「いっ、痛いっ!!」
「っ、光希!!!」
即座にギャルゲーの主人公の方が突き刺さったモノを抜くが光希と呼ばれた男の様子がおかしい。その場で倒れ、痙攣していた。
ビクッ、ビクッと体を震わせるばかりで口をパクパクとしていた。
いつの間にかアッキーの横に黒装束に身を包んだ何者かが立っていた。
「コイツはプロの吹き矢遣いだぜ。闇に紛れ無音で敵を殺すことからついたあだ名は『梟』」
「見つけるのだけ大変だったけど、殺すのは楽な部類だったぜ。コイツのメインの殺傷手段は毒だからな」
「……神経毒ですわね」
「おお、ご名答だぜ」
「最近。わたくしも誰かさんに一服盛られましたからね」
「えっ、まさか探偵……。お前……」
「そんなわけないだろ」
「そうだな。お前にそんな度胸あるわきゃねぇか」
それはそれでむかつく。
「ちょっと、お二人方。気を緩めすぎですわ」
「ああ、そうだな。待ってろ。もう一人も今無効化してやるよ」
「……お前。お前、お前ーーーーー!!」
「待ちなって別に命までは奪いやしねぇからよ」
「僕たちとおな——」
音は無い。だが気づいた瞬間にはさきほど同様ギャルゲーの主人公の手にも深々と矢が刺さっていた。
「やったね。アッキー」
「確かになかなかやるようですわね」
「待て。今。なんつった?」
確実に矢が刺さっているのにこの男は倒れていなかった。
「ああああああああああアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアあアああああああああああああああああああああああああああああああああああああァあああああ」
それは地獄の底から聞こえてくるかのような耳にこびりつく叫び声だった。
「僕たちは!!!!!! 永遠に一緒に居るんだっっ!!!!!!!」
「まさか、そっちの方かよ。おい、光希って言ったっけ? お前。そんな事言わせて虚しくなんないのかな?」
「う…………る…………………………さい!!」
「獅暗……が……いな……ければ……俺は…………俺に……なれんのだ……俺は……理想……なの……だから!!!!!!!!!」
「光希……。でもこいつらはきっと、僕たちじゃあ勝てないよ。僕を引き換えにすればその限りじゃ無いけどね」
「獅暗……」
「オイオイオイッ。聞こえなかったか? 無力化はするが命までは取らねぇってさっき言ったばかりだろうが!! 変なことは考えんなよ。何お人形遊びで気持ちよくなってんだよ!!」
珍しくアッキーは焦っているようだった。
同じ朽無士だから同情しているのだろうか。
「お前が何を考えたか分かる気がするがそんなじゃねぇよ。基本的に同じ流派以外は俺らは殺し合いをするぐらい仲は悪いからな。そうじゃねぇ。あいつが何の流派かは分からん。分からんが朽無士の最後っ屁なんて十中八九碌なもんじゃあねぇ。それだけは断言できんだよ!!」
「何が……あっても……俺たちは………ずっと……一緒だ」
「クソッタレ!! 来るぞ!!!!!!!!」
ばり。
ばりばり。
ばりばりばり。
それは当初、何の音なのかは判断できなかった。肉が裂け骨が砕けるような聞いているだけで体の節々が痛くなるようなそんな音。
それはの獅暗体から鳴り響いているようだった。
ばりばりばりばり。
ばりばりばりばりばり。
ばりばりばりばりばりばり。
次第に彼の体の表面が黒くなっていく。
その黒はぽつぽつと体の至る所から噴き出して広がっていく。
ばりばりばりばりばりばりばり。
ばりばりばりばりばりばりばりばり。
ばりばりばりばりばりばりばりばりばり。
それは動いていた。
いいや、それでは正確に表現できていない。
それは蠢いていた。
カサカサと。
ばりばりばりばりばりばりばりばりばりばり。
ばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばり。
ばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばり。
それは。
それは小さな生き物の群体だった。
黒光りするそれは。
ゴキブリに酷似していた。
「お前。流派は蟲か!!」
ばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばり。
男の体はすべて黒く覆われうねうねと不定形の塊に変化していた。
「ひっ「うぅ」」
「なんと……おぞましい……」
ブブッ。ブブブッ。ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブッッッ。
その黒い塊が僕らをめがけて飛翔してきた。
「お前ら。俺の後ろに一か所に固まれ!!!!!!!」
僕らの前方にいた『梟』と呼ばれた男が黒い波に襲われる。
ばりばりばりばりばりばり。
数秒音が鳴り響く。
後に残されたのは骨だけだった。
腰を抜かしてしまっている最中ちゃんと笹ちゃんを礫さんとそれぞれなんとか引っ張った瞬間にアッキーが叫ぶ。
「『双槍』!!! 『エレキテル』!!!!」
「蹴散らせ!!!!!!」
その一言とアッキーが指をくいと動かすと、武骨で屈強な大男と小柄な男がどこからともなくアッキーの前方に現れる。
大男は丸太のような太さの槍の形状をした物と、鉛筆ぐらいの細さの棒状の物(こちらもきっと槍の形をしているのだろう)を左右の手に携えていた。
僕はこの男に見覚えがあった。
見ただけで重さが伝わってくる槍を地面に突き刺すと、細い槍を
ぐるん。ぐるん、ぐるん。ぐるん。
回し始めた。
ばしぃっ。ばしぃっ。
その大男の近くにやってきたは一匹ずつ蹴散らされていく。
その付近はある種の結界のようになっていて大男を中心に槍の射程と思われる区間は黒い蟲は撃ち落されているようであった。
がそれでも何匹かはその隙間を抜けたようで一部が蟲にばりばりという音とともに啄まれているようである。
かなり彼が数を減らしてくれているようだが、それでも依然として十分な脅威と感じ取れるほどの数の蟲が僕らに迫って来ていた。
バチッ。
バチバチバチバチ。
一瞬光ったかと思うと僕らの近くに羽ばたいてきた蟲が地面に落ちていた。
黒くて分かりづらいが焦げ臭いにおいがするので恐らく焼かれている。
大男よりも僕らの近くにいる小男は両手の細い針のようなものから電撃を走らせたようだ。
背中に背負った機械からあの棒を通して、空気中に放出しているのだろうか。
ブブブブブブブブブブブブッ。ぐるん。ぐるん。ぐるん。ブブブブッ。バチバチバチ。ブブブブブブブブブブブブブブブッ。ブブブブブブブッ。バチバチバチバチ。ブブブブブブブブブブブッ。ぐるん。ぐるん。ぐるん。バチバチ。ブブブブブブブブブブブブブブブッ。ブブブブブブブブブブブブブブブッ。ブブブブブブブブブブブブブブブッ。バチバチバチ。バチバチバチバチ。ブブブブブブブブブブブブブッ。ブブブブブブブブブブブブブブブッ。ブブブブブブブブブブブッ。ぐるん。ぐるん。ブブブブブブブブブブブブブブブッ。ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブッ。
それはほんの十数秒ほどだったのだろう。
しかし、当の僕たちにしてみればそれは永遠に続いたかのように感じられた。
やがて音が止むと、「ハア……ハアッ、ㇵアッ!!」と肩で息をするアッキーと体の一部が食いちぎられた大男。精気の抜けた顔をした光希だけが僕らの目に入ってきた。
『梟』の骨はいつの間にか食い尽くされてしまったらしい。アッキーが守ってくれていなかったらと思うと……。
鳥肌が立った。
「これが、ハアッ、ハアハア。奥の手かよ。はッ! とんだ裏技じみた技だなこりゃあ」
「あ、ああ、獅暗……」
「死体を操るための技術で直接人は殺せ無い。何故ならそれは掟にある「術者本人が人を殺めてはいけない」に反するからな」
「だから、今の……。そうだな『オートファジー』とでも呼ぼうか? で死体を蟲に食わせることで蟲自体を操るべき死体とみなす技。だいぶん屁理屈だが時間制限があんだろ? 食うってことは蟲がその死体を消化しちまったら、その理屈は通らなくなるわけだからな。ほんっと、良い趣味してやがんなお前ぇ」
「くそっ。まあまあお気に入りの『梟』が持ってかれるとはついてねぇぜ。良いインスピレーションにはなったがね」
「あぁぁぁ。俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ!?」
「んっ? 何言ってんだお前」
「――へっ?」
「んん? なんか見当違いなことを言ってないか?」
「なっ、何を、言って?」
「俺は何度も何度も忠告したんだぜ? だがお前は俺のコレクションを駄目にしちまうどころか俺の友達にも手を出そうとしたんだ。お前にはもはや一分後の未来すら無ぇ」
「い、嫌だっ!!」
「そもそも別の流派ってだけで殺しあうのには十分な理由だってのに……。お前らは。いんや。お前は。矢が刺さった時点でおとなしく這いつくばってれば良かったんだ。蟲みてぇにな」
「あ、あ、あ」
「穿て、『双槍』」
丸太のような槍が投的された。
その槍は、まだ満足に立つこともできない光希の顔面に命中し。
ぶちゅっ。
という音を立てた。
「アッ、アッキー! 最中ちゃんと笹ちゃんもいるっていうのに———」
「ああ、その二人ならちょっと前から気絶してたぜ?」
「えっ?」
振り返ると二人は白目をむいて倒れていた。
こうして、僕の悪夢のレパートリーがまた一つ増えたのだった。
「鬼隠山」の決戦
第一仕合
決着




