第12片 宣戦布告
「それで、ヒィ、それがどうしたと言うのだ。そなたらの、ヒィ、状況は何も変わっておらぬわ」
それもその通りなのであった。性性君が正気を取り戻したとはいえ、性性君が本調子でないのは変わりない。頼みの綱の男も指を失っている。この中で一番被害が少ない僕は何もできない足手まといである。使えるのはせいぜい頭ぐらいだ。
「どうして、L&Gの人々を襲うんですか?」
せめてもの抵抗で対話を試みることぐらいしかできない。
「ふぅー、儂だって、ヒィ、別にやりたくてやっているわけではないのだ」
意外にもその問いかけによって、くたびれたサラリーマンのような哀愁が引き出された。今までで一番人間らしさが込められていた。
「儂は現象さ。そこに意思などありはしない。ただ規則に従い、世界の均衡を保つのみ」
「ぼくらが……、何をしたって言うんだ……! ぼくらはただ同士達が、世間に受け入れられない自分の性をなるべく人の迷惑にならないように発散し、自分らしくありのまま。心の底から笑って過ごせるようにしたいだけなのに!」
「性性君……」
「……ヒィ、強いて言うのなら。そなたらは勢力を拡大しすぎたのだ」
「……………………」
「儂も、ヒィ、その理想に反対などせんわ。だが今の勢力でその熱が、ヒィ、間違った方向に向かった際に取り返しがつかなくなりかねんのだ。だから、今のうちに間引いておくそれが、ヒィ、則の決定だ」
「そんな理由で人の命を奪って言いわけが無いだろうが!」
「いいや、十分さ。全ては、ヒィ、もっと多くの命のためさ」
「――っ。それで僕たちも殺すんですか」
「そうだ。だが、ヒィ、安心しろ。抵抗しなければ痛みなど感じる暇もなく、ヒィ、一瞬で溶けきることができる」
「もとろん。ぼくらは抵抗するさ」
「何で、ってのは聞く必要もないよね」
「ああその通り」
「「拳で。」」
「ちょっと待ったっす!!」
末摘蟲濁に殴りかかろうとしたその瞬間。いきなり、地面から聞き覚えのある声が聞こえてきた。そんなことありえない。そう、マンホールからでもなければ。
「君は。賊烏さんの後輩の……」
「えへへっ! よく覚えてましたね」
その言葉と共にマンホールから這い出した彼は昨日見たあの笑顔で僕たちに微笑むのだった。
「賊烏の後輩? そう言えば、そんなことをこの前あいつが話していたような」
「何の様だ? 儂は今、ヒィ、仕事中だ」
「性性性性を殺すのはやりすぎだと思うんすよ。それはそれで世界間のバランスが崩れちゃうますって! このままだと殺っちゃいそうだったんで出てきましたっす!」
「今のやり方も悪くないっすけど、この機会に一度勢力を正確に分析しつつ、しっかり剪定した方がいいのではないかと思いまして」
「やつは何と言っていた?」
「「許可する」だそうです」
まったく話が見えてこなかった。彼は則サイドの人間だった?
そうだ。何か見落としがあると思っていたんだ。マンホールから被害者を襲撃するというこの方法。マンホールの中からじゃあ地上の様子なんて分かりっこない。外からターゲットが迫っていることを伝える協力者。つまり、観測者が必要不可欠だったんだ。
それが彼だった?
「……まったく。割に合わんわ」
その言葉を最後に則第5原則 醜厭 末摘蟲濁は溶け込むように闇へと消えていった。
「改めて名乗らせていただくっす。則第1原則直属 『秤』 所属 分銅の3グラムっす」
「則第1原則だと? 二人の口ぶりからして、黒幕はそいつか」
「やだなぁ。俺らは世界の調律者ですよ。黒幕なんて人聞きがわるいっす! 暗躍することはあっても、それは世界のためなんですから」
「さっきから、ふざけるなよ。お前ら。そんあこと知ったことか。ぼくらの邪魔をしようとするのならそんなルールぶち壊してやる」
「おお! その活きです! 頑張ってくださいよ」
「頑張るって何をさ?」
「そりゃあ。囚われの姫を救いにってやつですよ。賊烏先輩と、ええと畿内さんでしたっけ? 二人を救って見せてください」
「二人は生きているのか!?」
「生きてますとも。垂らす餌はなるべく鮮度は高いほうが食いつきが良いですからね」
「覚悟しろよ。世界だかなんだか知らないがぼくらを敵に回したことを必ず後悔させてやる」
「楽しみにしてますっす! 性性さん!」
こうして、結末へと至る戦いの宣戦布告がなされたのであった。




