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カラフルピース —探偵の自罰的事件収集—  作者: 秋野キリン
『下心・真心』

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第4片 「触手は最高の竿役である」

 門である。スライドするタイプの黒い鉄製のやつである。近くに守衛さんが立っており、守衛室が脇に建っている。20代前後の若々しい男女が頻繁に出入りしている。

 ……ふむ。言われたとおりの場所に来てみたは良いけど……。大学だな。キャンパスだな。うわあ。

 大学に通っている学生や教授からしてみればなんということは無いのだろうけれども、部外者である僕からしてみるとこの門を通る心理的ハードルはかなり高かった。

 いっそこのまま帰ってしまおうか。いや、でも、依頼受けちゃったしなー。二、三分程門の付近でうろうろしていたがついに決心して入ってみることにした。

 守衛さんに軽く会釈してみる。心臓の鼓動がちょっと早くなった気がする。少し怪訝そうな顔をされたがとりあえず中には入ることができた。うん、きっと大学には膨大な数の学生がいるのだから僕の年齢的にそんなに怪しまれなかったのだろう。

 ――――ていうかこれって不法侵入だろうか?


「すいませーん」

「うわぁっ!」


 やっぱり怪しいから守衛さんが声をかけてきたのだろうか?などと考えもしたがよくよく考えると後方からではなく前方から声をかけられたことに思い至る。


「うわっ!! びっくりしましたよっ!! いきなりびっくりしないでください!!」


 どうやら声をかけてきたのはこの短髪の男子学生であるようだった。


「ええと。君が烏賊(いずく)君?」

「違いますよ。俺は先輩のお使いです」


 「まったく、あの人は人使いが荒いんだからー」などとぼやいているのを聴きつつ先輩という言葉が気になった。ひとまず、案内をしてくれるようだったので後をついていくことにした。

 レンガ造りやガラス造りの建物があって、大学独特の理知的で厳格な雰囲気を醸し出していた。


「君は烏賊って人から僕を連れてくるように言われたの?」

「そうっすよ」

「聞いてた話だと研究者ってことだったんだけど……」

「なにおう、学生だってセミプロですよ」

「ごめん、ごめん別に悪気があったわけじゃ無いんだ」

「別に気にしないっすよ。とは言ったものの……。あの人はやっぱり特別ですね。あんまりこういうこと軽々しく言いたくはないんですけど、天才ですよあの人は。だから独自に研究室を与えられているんです」

「学生の身分でそれはなかなかすごいね」

「正確には院生なんですけど、それでもそこらの教授よりは優遇された処置がされてるかもしれないっすね」


 などと会話しているうちにいつの間にやらむき出しのコンクリートで構成された角ばった建物に案内された。一見無機質なようにも見えるけれど無駄の削がれたおしゃれなデザインである。


「ところでどうして僕がお使いの相手だと分かったね?」

「そりゃあいくらなんでも上下オレンジ色のスーツなんて着ていたら目立つっすよ……。それに結構挙動不審でしたし」

「…………」

「俺が声かけなかったら、多分守衛さんに声かけられてましたよ。めっちゃ見られてましたもん」


 ……潜入するのは苦手なのだ。

 そうこうしていると「凧糸烏賊(たこいといずく)」と書かれたネームプレートが貼られた扉の前に着いた。


「ここっすよ」

「ありがとね」

「良いってことっすよ」

「じゃあ俺は用事があるのでここで失礼します。くれぐれも気を付けてくださいっす」


 と不穏な言葉とともにどこかへと去って行ってしまった。取り残される僕。やめてー。一人にしないでー。この場違い感がすごい空間でやっとちょっと仲良くなった人ができたのに!

 かなり緊張を強いられちゃうよ。この状況。どうしよう。取り合えずノックから?

 コンコンコンと叩く。返事はない。

 困るなー。入りたくないなーでもノックしたのに入らないのも変だしなー。ええい、ままよ。

 部屋の中には触手に拘束された白衣の女性が居たのだった。




 「触手」。そうあの触手である赤みがかってミミズのような見た目で横に線が入っている。ただし、質感はイカやタコのようにヌルヌルとした謎の粘性物質で覆われでいる。太さはトイレットペーパーの芯ぐらいで長さは数メートルはあることは分かるが長くて端から端が分からず正確にはつかめない。それらが数匹寄ってたかって一人の女性にまとわりつき空中へと拘束しているのであった。ときどき「む゛ーっ」と声にならない悲鳴を上げている。口も手足も絡みつかれ自由が利かないようであった。

 理解できない光景に一瞬脳がフリーズしかけたがとっさに「助けないと」と思い触手へと立ち向かうのであった。いきなり異世界でもしてしまったのだろうか? この世界ってこういうのありなの? とにかく気道を確保しなくてはと口の触手を必死につかんで離そうとするがつかめない、実際にやったことは無いけれどウナギを手づかみするとこんな感じなのではないだろうか? 何度かトライしていくうちにコツがつかめてきた。一方向に押し付けるようにすると力が全体に分散しない分いくらかつかみやすかった。 やっとのことで最低限口もとの触手は外すことができた。


「ぷはっ。あああああ! ちょっとチミ~、困っちゃいまっせ。せっかく我が子たちと戯れていたっていうのに邪魔されちゃあ。一体わちしが何をしたって言うんですか~」


 触手に絡みつかれたまま話しかけてきた。


「えっと……、性性(せいしょう)君から言われてきた者なんですけど……」

「あぁ~、そっかキンちゃんが言ってたのは君かいね。ふーん? 変な恰好するってゆう性癖?」

「違います!」

「あいあい。分かりやしたよ~。触手ちゃんたち。後でまた可愛がってあげるからいったん離して」


 というやいなや、烏賊さんを優しく地面に立たせどこかへと消えていくのであった。どこに消えたの!?

 賊烏さんは緑い色の髪はちぢれぼさぼさで顔にはそばかすが目立った。全体の身なりや匂いから察するに何日もお風呂に入っていないのではないか。とはいえ、不細工というほどでもなく、付くべき場所に付くべき肉が付いておりおしゃれをすれば意外と男ウケするのではないかと思われた。


「良いよね触手は」


 恍惚とした表情だった。


「えっ? ヌルヌルしてて、気持ち悪くありません?」

「あっ? なんだぁ~、てめぇ~? 今気持ち悪いつったか? ぉおん?」

「気持ち悪いつったら陰茎の方がなんか生々しくて気持ち悪いだっろぉぉん?」

「烏賊さん。落ち着いてください」

「交わりにおいて男。特に陰茎は要らん! わちしらは女の子が気持ちよさそうな顔をしているのがエッチだから見とるんじゃボケェ!! その点触手は素晴らしい! 竿役を一度抽象化・再構成し余計な嫌悪感を削いだ、まさしく完璧な竿役!!!」

「それを気持ち悪いだとぉーーーーーーーーーーーー!!! 何たる無知。何たる不理解。許せねぇぇーーーーーーーーーーー」


 「ふーっ、ふーっ」とまるで喧嘩を終えた猫のように激しく息切れをしていた。


「分かりましたから。話を聞かせてください。一体何が有ったんですか?」

「ふーっ。わちしの研究を手伝ってくれてるやつが普段は何人かいるんだけどな。四六時中研究所に教授だとか、マメな同級生なんかがわちしが我が子と戯れているところを見てはぁはぁ言ってるんだがな?」


 潰れちまえ!! そんな集まり!!!

 やれやれこれはもう普通に逮捕されているのでないだろうか?


「キンちゃんにも言ったんだがどうも妙なのだ。あんな奴らでもいないと困るのでな。とりあえず詳しい話を聞いてってくれ」

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