表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/35

第8片 不条理推理

 さあて見せてやろう。プロの探偵の本領という物を。

 まず、容疑者だ流石に北月家陣営の部屋を訪れていない者は除外して良いだろう。そうなると、アッキー、羽澄(はすみ)さん、赤煌羅(せきらら)さん、甘羽良(あまはら)さん、堅硬(けんこう)さんは考慮しなくていい。

 そういえば……、


「……一応確認するけど、アッキーは今回死体を持ち込んではいないよね……?」

「……流石に今回は連れてきてねぇよ」


 よし、これで大丈夫だろう。次に僕、白金(あきがね)青年も流石に難しいはずだ。今回の事件で何かしらのトリックを使われていたとしてもそれは犯行時刻を誤魔化す、アリバイトリックの類であって殺害方法を偽装するようなトリックではないはずだ。今回は信頼してほしい。今回の喜黒ちゃんの死因は人の腕で首を絞められたことによる窒息死。これで間違いはない。したがって、発見と初入室が同時である僕たちも犯行は不可能であると考えていいはずだ。

 つまり、容疑者の筆頭は瑞葵(みずき)さん、(しるべ)さん、坩堝(るつぼ)さんの三人ということになるだろう。大穴で喜黒(きこ)ちゃん自身による自殺も一応あるだろうか。

 次にそれぞれの犯行動機。

 瑞葵さんは今回の僕らの「話し合い作戦」を喜黒ちゃんに持ち掛け、否定、どころか妨害まで、宣言されたのかもしれない。それに、よってアッキーひいては東花(とうか)家の忠誠心が爆発して殺害! は、いくら何でもないか……。

 仮にそうだとしても、他の家の者を直接手にかけるなんて、そっちの方がよっぽど東花家に迷惑がかかる。それに、瑞葵さんがそんなことで考えなしの行動をとるほど自制の効かない人間ではないのだ。

 人を轢いたときは真っ先に自分の心配よりも東花家の心配をするような人なのである。


 標さんも瑞葵さんと同じような理由だろうか。あまり、というか一度も会話をしていないくらいの仲ではあるけれど、こちらも瑞葵さん同様冷静さを欠くという場面が想像できない。それにアッキーの分析だと、風南(かざな)家の作戦立案は彼が支えている点が多いようである。そこから察するにかなりクレバーな人であるのだろう。

 もしも、動機があるとしたら、クレバーさゆえに喜黒ちゃんが自分たちの作戦において必ず排除しなければならない障害だと判断した上での犯行……だろうか。


 坩堝さんは分からない。自身の仕える主を殺さなくてはならない理由。ふむ。ありそうなのは責任の回避と言ったところか。まだ『人類最果て』とやらを解き放つことに手を貸した犯人が誰か分かってない。もしも、北月(きげつ)家が犯人なら、喜黒ちゃんが死ぬことにより、その事件の犯人を曖昧にできるどころか、今回の事件で損失を得た被害者という立場になることで逆に有利な立場に立とうとした。とかだろうか。同じ理論で、東花家での事件の犯人ということもあるだろうか。(喜黒ちゃんの自殺という可能性があるとしてもこの動機だろう)

 もしかしたら、死んでしまった僕らの知る喜黒ちゃんが召使で坩堝さんが本家の人間とかいうこともあるだろうか? でも、どうやらアッキーや白金青年は顔見知りっぽいんだよね。普段から入れ替わっている? こういうときにいつでも切り捨てられるように……。


 そもそも、どうして、瑞葵さんと標さんは北月家陣営の部屋に行ったのだろうか?


「瑞葵さん。標さん。どうして、喜黒ちゃんに会いに行ったんですか?」

「わたくしめは喜黒様にこの機会に一度、ゆっくりと謁見頂こうかと思った次第でございます」

「どうして、アッキ……暁人(とっさに呼び捨てにしてしまったけど大丈夫か?)や白金君(なんかこっちも違和感あるな)ではなく喜黒ちゃんのところへ?」


 そこまで言って気が付いたが、そうだった標さんは僕らが西鳥(ひしゃく)家陣営の部屋へ白金青年に会いに行く様子を見てから、喜黒ちゃんのところに行ったのだ。消去法で一つしかないか……。


「そうですね。何やら暁人様と白金様に込み入ったお話がおありの様子でしたから、というのもあります。 ……が、あえて無礼を承知で申し上げますとわたくしめは御三方を等しく選べる状況であったとしても喜黒様を選んでいたことでしょう」

「それは何故です?」

「やはり、喜黒様はお目付け役でありますから、個人的に親睦を深めさせていただこうという下心がございましたね」


 なるほど……。会話内容もある程度想像できそうだし、訪れる動機としておかしなところはない、か……。


「プロの探偵である貴方様が推理をされている最中、口を挟むのは失礼であるとは思いますが……。恐れながら、わたくしめは瑞葵様が怪しいと言わざるを得ません。わたくしめが部屋を退出するまでは確かに喜黒様はご存命であったのですから、わたくしめからすれば彼女以外にはあり得ないと考えております」

「ありがとうございます。……参考にさせてもらいます」

「瑞葵さんはどうですか?」

「こちらは……その……、」


 と、少し気まずそうにしながら、僕とアッキーに目配せする。そうか、偵察に行ったと堂々と明言するのは気が引けるのはしょうがないか……。標さんも喜黒ちゃんに取り入ろうとしていたとは言っていたが、他陣営に結託を申し入れるのと他陣営の腹を探りに行くのでは後者の方が印象はいくばくか悪いか……。僕とアッキーでも目配せをして、最終的には瑞葵さんに「いいぜ」とでも言うようにアッキーがうなずいた。


「……。こちらは会議に備え、他の陣営の方々の偵察をさせていただいておりました……」


 気まずい沈黙が続く中、歯切れが悪そうに瑞葵さんが答えた。周囲の様子を伺う限り、そんなに悪印象は与えていない、ような雰囲気が感じ取れた。中央での雑談で、他の陣営もある程度そういった探りはいれていたのだろう。


「どう言った会話をしなはれたんですか?」


 羽澄さんが質問する。僕らや容疑者の標さんが聞くよりも自分が質問した方が良いと判断したようである。健気なことだ。


「喜黒様の、ひいては北月家の意向を聴きつつ、こちらの方針もそれとなく伝えてアドバイスを頂こうかと……」

「結果はどないなったんですか?」

「喜黒様からお話は聞きましたが、時間が迫ってましたのでこちらの方針は大まかにしか伝えられませんでしたねー……」

「怪しんではる人はいますか?」

「……坩堝さんでしょうか?標さんの動機が思い浮かばないので……」

「……ありがとうございます」

「坩堝さんは誰が怪しいと思いますか?」

「…………。標さん……でしょうか……。喜黒様だって、最後は抵抗したはずですから……」


 ……? ひとまずこれで容疑者どうしが誰を怪しんでいるかははっきりした。


標さん→瑞葵さん

瑞葵さん→坩堝さん

坩堝さん→標さん


 だ。綺麗な三角形ができる状態だろうか。さぁて一体誰が犯人なのだろうか?




「ちょっとええか?」

「別に断りを入れて頂かなくても結構ですよ。疑問に思ったことは是非とも共有してください」


 さっきはいささか白金青年のことを悪く言ってしまったような気がするが、彼の態度に見合うだけのタフさは備えているようで、本調子ではなさそうではあるものの議論に参加できる程度には精神が回復したらしい。


「……。ずっと疑問に思っとったんやけど。誰もツッコマへんから。ジブンがおかしいんやないかと思ったんやけど……」

「何ですか?」

「なんでそこのメイドが犯人だと考えてないんや?」

「? どういうことですか? しっかりと容疑者として考えているじゃないですか?」

「……。容疑者じゃなくて「犯人」や。いや、だって一番怪しいとかそういう話やなくてそいつしかありえんやろ。なんで標や坩堝が容疑者になっとんねん」


 えっ????? うん????????


「ジブンはなんかしらのトリックでもあるんかと思っとったんやけどいつまで経ってもそんな話されへんしな……。大前提のトリックの類が無いならそのメイドしかありえへんやろ? 標や坩堝と一緒くたにに容疑者として扱うのはおかしいやろ」


 は? 何を言ってるんだ? コイツは?


「それに簡単な論理クイズやろ、三人の中で嘘つきが一人だけいるってことならそれはメイドしかありえんやろ。時系列で考えればそれしかないやろ? 坩堝や標が犯人なんやったらジブンらが部屋に入る前なんやからメイドが喜黒の死体を発見してないとおかしいやろ。でもそいつはそれについてなんも言及しーひん。おどれ、意識的なんか無意識なんかは知らんが庇っとるやろ。そうやないなら、そいつが犯人やないって論理や証拠がしっかりあるんか?」

「……何を……言って……いるんですか……? ハハッ、そんなワケ……ないでしょう。僕が瑞葵さんを庇ってる?」


 何故だか分からない。本当に分からない。でも。声が震える。分からない。分からない。分からない。分からない。でも。目頭が熱くなる。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。手と足に力が入らない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。


 違う……。違う。違う。違う。違う。違う違う違う違う違う違う。


 そんなわけ。そんなわけ。そんなわけ……、無い。はははっ。だって僕が無意識のうちに瑞葵さんを庇ってるってそれじゃ……。それじゃあ。まるで。さも。あたかも。



 僕が瑞葵さんを犯人だと思ってるみたいじゃないか。



 それは悪いことをした上でそれを隠そうとする生徒に教師が理路整然と指摘をするようで、おままごとみたいな幼稚な推理とも呼べない何かをつらつらと述べる僕に止めを刺すようなそんな指摘だった。

吐きそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ