第7片 事件発覚
後半の時間別行動は文章よりまとめの方が見やすいと思います。
死体というのはいつまで経っても、どれだけ思い返しても見慣れない。むしろ、耐性が少しずつ削られているような気がする。
きっと、それがすべて無くなったときが僕の終着なのだ。
だから僕は「探偵」に執着しているのだろう。
そうだね。一目見たときは本当に寝ているんじゃないかなと思ったんだ。スヤスヤと寝息が聞こえてきそうだった。
でもね、首元をよく見るとはっきりと人の手形が在ってね。
僕は即座に喜黒ちゃんの手首で脈を測ったからこれが既に物言わぬ死体になっていることに一番早く気づいた。
坩堝さんは事実を受け入れられないようで、これは夢であるに違いないとでも言いたそうな、すぐにでも「ドッキリ大成功」という看板を持ったスタッフが現れることを期待するような、心ここにあらずな様子であった。
白金青年は半笑いだった。
笑いの本質は可笑しみだ。日常を超えた異常が笑みを誘う。
「人は死ぬ」それを本当の意味で理解している人間は居ないだろうけれど、人は様々な死別を通して実感してゆく。
彼にとって今の状態は非現実的な事態らしい。
「お二方……。喜黒ちゃんは死んでいるよ」
「…………何ですって? 貴方!! こんなときに……、ふざけないでください!」
胸倉を掴まれる。しょうがない。こういうときは誰かが感情を受け止めてやるのが一番だ。悲しみに沈むよりは怒りの方が本人からしてみればずっと苦しみは少ないはずだ。
「「こんなときに」ですか? 分かっているじゃありませんか。何が起こっているのか」
「…………」
「…………」
「……人を……、呼んでくるわ」
僕らの間に流れる決まずい静寂は、白金青年の提案で破られた。
標さんや瑞葵さんが来て、ひとまず喜黒ちゃんの死体を見苦しくないように顔にタオルをかけた。堅硬さんは外部と連絡を取り、すぐに死体は運ばれていった。残った僕らは会議室で議論を再開……、というわけにはいかず、重苦しい雰囲気が漂っていた。
「堅硬さん。あなたと甘羽良さんが居れば安全では無かったんですか?」
「それね~~、わたしと~けんこ~のカラフルピースの効果わぁ~あくまで目がとどく範囲だけなんだよねぇ~。あぁ~、やる気でな~い。後は説明よろしく~」
「……。甘羽良さんのカラフルピース・弛緩は周囲の人間の筋肉を弛緩させるものでございます。彼女自身の空気感にあてられることで力が抜ける。故に彼女のやる気が削がれれば削がれるほどより強力になる。とはいえ、効果範囲は変わりませんが……。そしてワタシのカラフルピース・義務感は規範意識を強化するものとなっております。例えば人が窃盗を働こうとしたとしましょう。実際に行動に移すため際には発覚したときに問われる自身の社会的立場、道理に反することをするという良心、これから一生犯罪をしたという後ろめたさを背負うことになるという恐怖。様々な感情が障壁となるでしょう。ワタシのカラフルピースはそこに法律を遵守すべきだというごく当たり前の義務を強烈に意識させるものとなっております」
「そんな特性の話はどうでも良いんだよ。そんなんで「この建造物内での安全は保障される」なんて言えたな?」
「あながちおかしなことは言ってないんじゃない?だってこの中央の会議室での暴力沙汰や暗殺ができないって言うのなら、ずっとこの部屋にそこの手錠のオッサン居たんだから誰かの部屋に行った人間が居て、そこで人が死んでいたら犯人が分かっちゃうじゃない。そんな馬鹿なことしでかす人間がいるなんて想定できないものね?」
「そうですよ。堅硬さんはずっとこの部屋にいらっしゃったんですよね? 一体誰が北月家陣営の部屋に入ったのですか?」
「ワタシの記憶では初めに標さんその次に瑞葵さん最後にあなた方三名がお入りになられました……。ああ、もう一つ加えるとしたら言わずもがなですが坩堝さんは北月家のお部屋から出てきましたね」
はっ? 何考えられるだよそれ? 瑞葵さん超絶怪しいじゃん。
考えられるのは入れ替わりだとか、順番を偽装するトリックとかだろうか?
とにかく堅硬さんに詳しく話を聞かなくてはならない。
「お前が見て来たことを詳しく説明してくれ堅硬」
「はい。畏まりました。まず、休憩の時間が始まってから10分ほどしたころ坩堝さんがお部屋から出ていらっしゃいました。そして雑談をしているとそれからさらに5分ほど経ったころ標さんもお部屋から出ていらっしゃって、3人でワタシの普段の仕事などのお話をしておりました。そして、そこからさらに20分ほど後休憩が始まって半ばを過ぎたほどで東花家の皆様が中央にいらっしゃっいました。その後暁人様と探偵さんが西鳥家のお部屋へお行きになられて、その直後に標さんが北月家のお部屋へ5分ほどお話になられ、更に10分ほどしたころに瑞葵さんが北月家の部屋へお行きになって、暁人様と探偵さんが自室へお帰りに、瑞葵さんは5分後にお帰りになり、休憩時間が終わった2、3分後に御三方が北月家のお部屋へお向かいになられました」
つまり、休憩時間開始を0分だとすると、
10分 坩堝さん中央へ
15分 標さん中央へ
35分 僕たちが中央へ 僕とアッキーは西鳥家の部屋へ 瑞葵さんは雑談に加わる 標さんが北月家の部屋へ
40分 標さん風南家の部屋へ帰還
50分 瑞葵さんが北月家の部屋へ 僕たちは東花家の部屋へ帰還
55分 瑞葵さん東花家の部屋へ帰還
60分 会議再開
62分 僕、白金、坩堝さんの三人で北月家の部屋へ
さてさて、どうしたものか……




