第6片 ほのかな死の香り
僕たちが部屋に帰るとそこに瑞葵さんの姿は無かった。
「あれっ? 東花家陣営の部屋に居ないってことは他の家の部屋を訪ねてるってことかな……」
「だろうぜ。偵察してくるって言ってたしな。瑞葵のことだ、上手く他の陣営の懐に潜りこんでいるだろうよ」
瑞葵さんは結局会議が再開するほんの数分前に戻って来たのだった。少し疲弊しているようだ。額に汗もにじんでいる。
「でっ、成果はどうだったよ瑞葵? もう始まっちまうから手短に頼むぜ」
「北月家と風南家の何となくの方針が分かりましたねー」
「北月家は一言で言えば手段を選ばぬ迅速制圧『怪人』の捜索に死力を尽くし、発見次第的確な人材で制圧or抹殺。特に『人類最果て』に関してはミサイル等の兵器の利用すら検討しているようです。それで多少の犠牲が出ようとも『怪人』により、生まれる被害に比べれば大したことない。という考え方のようです。意外と物騒ですねー」
「『怪人』の捜索はやっぱり大事なんだけどね……。果たして武力で本当に解決できるのだろうか……。下手すると刺激して、猛威を振るいかねないかもね」
「発見して、制圧に乗り出す前に俺らの案を割り込ませるってのはどうだ?」
「そこまで徹底的に駆除すべき対象だと思っているのなら難しいだろうね」
「風南家は敢えて後手に回ることでの一撃必殺。こちらはほとんど捜索をしません。各地に人々の操作・情報の統制に長けた人物を配置。『怪人』が現れたら付近の住民を全員逃がし、封鎖。その後に全霊を持って排除するとのことです」
「意外だね、ちょくちょくツッコミたいところはあるけれど。人を避難させようなんて。あんまり、下々の人間を大事にしているとは思えなかったけれど」
「ああいうタイプは自身を称賛してもらうために案外、労力を惜しまないもんさ。それにそんなに破綻した作戦でもないぜ? 確かに捜索に回す人員をすべていざというときの対応に回せれば俺ら四家の影響力なら実行可能だな。北月家が短期決戦ならこっちは長期決戦か。赤煌羅ちゃんらしい大雑把で派手な作戦だがカウンターを狙う慎重さだったり、実現可能性を考えられた計算高さだったり、あの執事の男なかなかに赤煌羅ちゃんを上手くコントロールしてるみたいだな」
「こちらの作戦に転用できる感じはしませんがその慎重さは通ずるところがあるかもしれませんねー」
別に使用人と召使いの関係でも明確な上下関係があるわけではないのか。それとも上下関係というモノ事体が僕の思っているよりも色々な形があるのかもしれない。
人間関係か……。
ここ最近はアッキーや瑞葵さんと少なくない関係を築けている……、と思いたい。願わくばこのまま二人と仲良くしていきたいな。『怪人』とやらの対処が終わったら、三人で遊びに行ったりしてもいいかもしれない。僕はお金が無いから、アッキーに奢ってもらうけどね。
会議室には僕らの陣営が二番目に集まった。一番目は風南家で僕らのあとに西鳥家そして、一番最後に北月家が—————。
集まらなかった。
正確には喜黒ちゃんが来なかった。
坩堝さんはずっと堅硬さんと話をしていたようである。(すごいな。一時間近くも何をそんなに話していたのだろう? 自己紹介の時には寡黙な印象を受けたが案外お喋りなのだろうか)西鳥陣営までは再開の指定時間までに来たのだが数分待っても喜黒ちゃんは部屋から出てこなかった。
「なんや? 昼寝でもしとるんか? 意外と喜黒ちゃんも子供らしいとこあるやないの」
……、ツッコミ待ち?
「坩堝氏、そろそろ喜黒様をお呼びしに行ってもいいころかもしれませんね」
「……」
堅硬さんの呼びかけに坩堝さんは無言でうなずいた。
「そういうことなら、ジブンも行ってええか? 喜黒ちゃんの寝顔を拝みたいわ」
「僕も行っていいですか?」
「んっ? どうしたんだよいきなり?」
「……ちょっとね」
別に論理的な理由があったわけではない。確固たる確信があったわけではない。でも、なんとなく、嫌な予感がしたんだ。僕が今まで経験してきた、事件が発覚する前の嫌な気配が。取り返しのつかない何かが既に進行済みのような……。
———こういうときは決まって雨の匂いを思い出すんだ。
そして、今回も忘れることが出来ない、僕を苦しめる記憶の皺が脳に刻み込まれることとなった。




