第5片 傲慢
だいぶ今更ですが1話のネタバレがあります……。
「まだ、会議の再開時間まで時間が余ってんな……」
「俺はちょっと話さなくちゃなんねぇ奴がいる。だから、お前らは適当にくつろいでていいぞ」
「おいおい、待ちなよ、この僕がアッキーを一人にするとでも?」
「……お前ぇも確かに無関係では無い……か。いいぜ、好きにしろよ。瑞葵お前はどうする?」
「でしたら、こちらは他の家の方に偵察がてら、交流でもしてこようかと思います」
「それで、僕らはどこに行くのさ?」
「決まってんだろ。西鳥 白金のところさ」
短い通路を抜け、例の会議室に行くとどうやら、標さんと堅硬さん、坩堝さんの3人で雑談をしていたようで、そこに瑞葵さんも加わった。そして、僕たちは円卓を回り込み(相変わらず中央に敷かれた布団の中で甘羽良菜亜紗さんは寝ているようである、ネコみたいな睡眠時間の量だ)正面の扉へ侵入したのだった。
こちらも短い通路の先に扉があり、四方の構造はすべて同じであろうことが推測できた。
「そういえば、アッキー。他の陣営の部屋に行って良かったの?」
「こういう場での休憩時間ってのは水面下での取引とかすることも想定されてんだよ。それに堂々と緊縛堅硬の前を通ったがなんも言われなかっただろ? まあ今回は会議の内容からして裏の取引なんてそんなに必要じゃあないし、他の陣営のところに行くために中央の共用スペースを通らなくちゃいけねぇ関係上、公然の密約みたいなもんだがな」
「それにどちらかと言えば敵対するかもしれないんだろ?」
「どちらかとっていうかほぼ確定さ。野郎……、ふざけやがって……」
妹……か。
どうなのだろうか? 彼はアッキーのことをどう思っているのだろうか? それでも、少なくとも、アッキーは「最愛の妹」と。そう、呼んだのだ。わずかにでも嘘をつかずに他人と関わっている人間がどこにいる?
「人と関わるには誠意が必要だ」といつかアッキーは言っていたけれど、少なくとも彼は「最愛の妹」であろうと努力を続けてきたのであろう。その原動力が罪悪感だろうが別の何かだろうが……。
——僕にはとても、真似できない。
ドンッ。ドンッ。ドンッ。とアッキーが好戦的にドアをノックする。それは、入室前のマナーに則ったものではなく、交戦の意思を示す、宣戦布告のようであった。
「はいっ!空いてはりますよ」という若々しい声と、「オイッ、待てや羽澄ッ!」という声がしたがそんなのお構いなしにアッキーは扉を開けた。
白金青年は羽澄さんに膝枕をされていたっ!!!!!!!!!
「「…………!!!」」
僕たちが絶句したのは……、言うまでも無い。
「おっ、おまっ、えっ? はあ?」
アッキーは滅茶苦茶困惑していた。白金青年は頬を赤らめ、恥ずかしそうだった。いやいや、なんだよその顔は!?性格悪い嫌味な奴だとおもってたのに!
「もしかして、俺が最初のほうに言ったことって結構的を射ていた感じ……?」
「なんや、おかしいんか? 毎日羽澄に寝かしつけてもらい、今もこうして昼寝をしようとしてるジブンが!」
「開き直んなよ……」
アッキーはすっかり戦意が削がれてしまったようである。
「ああっ、クソッ、お前ら、よくも俺の妹に家にあんなことしでかしたやがったな。そんで、よくそんな堂々と挑発できたなぁ~。俺のオヤジが許そうが俺はお前ぇのことを許すつもりはねぇぜ?」
「あぁん? おどれはさっきから何の話をしとるんや?」
「ああっ? 今更しらを切れるわけねぇだろうがっ!! その女だよ。その女」
「羽澄がどうしたって言うんや?」
「『高槻』確かにそう名乗っただろお前?」
「はい……。そうですけど……?」
「じゃあもうそれがすべてだろうが……」
「あかんわ。ホンマにさっきから話が見えへんのやけど?」
「——えっ?」
「……っあの」
「なんや?」
「数か月前に東花家で何が起きたか把握していますか?」
「そんなもん知るわけないやろ? なんでジブンがおどれらの近況を知ってると思ったん?」
「—————っ!!!」
「つまり、そういうことだよ。僕らの早とちりだった。アッキー、白金青年は何も知らない。黒幕の関係者ですらない」
「じゃあっ!!何だよ……、その女はっ!!!!」
「別にそんなに珍しいことじゃないだろ『高槻』なんて名字は。もしかしてだけれど、最初から西鳥家のことを疑ってたのかい?」
「……。俺ら四家の使用人はな……自分たちの支配下の地名が名字になってんだ。そして、高槻って地名は俺ら東花家と西鳥家の勢力範囲の地名だ」
「えっ? そうだったの?」
「そうやで。本名だったり、源氏名だったりするんやけど……、まっアピールみたいなもんやな。「こいつらはジブンらの使用人なんやから手ぇ出したらわかっとるやろ?」ちゅう感じのな」
「ジブンが知っとる限り、うちで雇われとる高槻は羽澄だけや。それにこれは本名ちゃう。」
「うんうん。なにがあったかはもう何となく理解したで~。おおかたジブンらを疑い合わせるように仕向けようっちゅう魂胆やろ。東と西とでジブンらは特にライバル関係っちゅうのを意識しとるんは広く知られとることやもんなぁ?」
「君が何も知らされていなかったり、嘘をついているという可能性は?」
「ハッハッハッ。うちでやる企みをジブンが知らされてへんって? そりゃ無いわ、だって次の当主はジブンなんやから」
「弟らも別に器量は悪くないが良くてジブンよりもちょい上くらいや。うちは代々長男が当主になるから次の当主はジブンで確定。そいで、もしも、ホンマにジブン家がしでかしててたら。もっと、アキヒトがイラつくように煽るやさかい」
そう言って、白金青年はニタリと意地の悪そうな笑顔を僕たちに向けるのだった。
膝枕されたままで……。
西鳥家陣営の部屋を後にした僕たちは中央の会議室に行くための短い通路を歩いていた。アッキーはどうやら神妙な顔持ちであった。
「……。もしも、。あいつの言うことがすべて事実だった場合……。他の風南家か北月家が犯人ってことになっちまう……」
「しかも、かなりの悪意を孕んでいるよね。……念のため聞くけど四家以外の別の勢力ってことはないの?」
「ここまでくると無い、とは言い切れないな……。それでも、四家の使用人の名前を知り、高槻が忠誠を誓い、東花家にちょっかいを出してこようなんてするやつは他の四家のやつらぐらいしかなさそうなんだがな……」
会議室に出ると引き続き、堅硬さんと坩堝さんが雑談を交わしていたが標さんと瑞葵さんの姿はなかった。
「あれっ? 瑞葵さんどこ行ったんだろうね?」
「さあな? 部屋に帰ったんじゃねえの?」
「そういえば、会議が再開するまであとどれくらいなの?」
「んー、あと10分ってところかな。そろそろ準備のために帰ったんだろ」
後悔だとか、後ろめたさだとか、感謝だとか、罪悪感だとか、すべては自分がどうにかできる能力があった上でするべきことをしなかった。つまり責任を果たせなかったことで生じるものだ。
それは畢竟、自身の能力に対する過大評価を反映することもあって、僕のような人間の傲慢さを浮き彫りにする感情なのかもしれない。
———あぁ、だから、つまり。この後僕はそういった感情を抱いてしまうことになったというだけの話なわけで




