第3片 名
「のうそこの奇抜な恰好をした根暗そうな青年」
なんか僕の方を見ている気がするんでけど?
「……僕ですか?」
「そうじゃ、そちじゃ」
「えっと……、なんでしょう?」
「オヌシこの場に参加するのは初めてじゃろう。」
「そうですね」
「ふむふむ、なればすることはひとつじゃろうて。それに顔を見えたことがないものらもいるじゃろうしの」
「それは一体?」
「自己紹介じゃ」
「…………」
「わしらから行こう。わしは北月家三女 北月喜黒
じゃ。そしてこやつは北月家の召使いの長万部坩堝
じゃ。ほれ、一礼せい坩堝」
そう言われた坩堝さんは綺麗なお辞儀をした。見た目からは年齢が推測できないけれど、あの礼の綺麗さからして年齢を重ねているであろうことは察することができた。
「そういうことならアタシも名乗るわ。アタシは風南家長女 風南赤煌羅よ。アタシのことによーく注目なさい、アタシのことで頭いっぱいになりなさい。アタシはこの世で一番目立ちたいの。ホラあんたも名乗りなさい」
「畏まりました、お嬢様。わたくしめは風南家の執事を勤めております。苓北標と申すものでございます。皆様、以後お見知りおきを」
ペコリ。
坩堝さんほどではないが日常的に頭を下げ続けている人間の礼だった。
「ああんこれもジブンもやるながれやんか? まあ、ええか。どんな虫ケラが相手やろうと上に立つものとして、礼儀は示さんとなぁ。西鳥家長男 西鳥白金。よろしゅう。こっちは西鳥家の従僕 高槻羽澄や」
「どうもよろしゅうおねがいします!」
おっと、なんだっけ? 東花家に居た見習いバトラーの彼みたいな初々しさがある礼だった。
…………? 高槻?
ふと見えたアッキーの横顔が、とても怒りに満ちていたような気がした。
「俺らも名乗るとするかな」
あぁ~……、ちょっと困るかも。
「俺は東花家次男 東花暁人。そんでこいつは東花家のバトラー 鳴沢 瑞葵だ」
「鳴沢です。よろしくお願いします」
「そんでこいつが——」
さすが我らが瑞葵さん。完璧で過不足無いお辞儀だ。ただ一言、言わせてもらえるとしたら完璧過ぎて個性があまり活かせていないかもしれない。これからに期待である。
「おいっ。なにボサッとしてんだよ。お前も名乗っとけ」
小声で耳打ちしてくる。
「……アッキー。かわりに名乗ってくんない?」
「なんだよその人見知りの子供みたいなお願いは? 一応身分的にはお前から名乗った方が良いんだって」
「あー。うーん。そうかもしれないけど。僕。自分の名前が分からないんだ」
「はあ? んなことあるかよ? 冗談言ってねぇで——」
「お願いだ。アッキー。頼む」
「……分かったよ、後で理由を聞かせろ」
「こいつは—————。探偵だ。この間プロになったらしい」
「アッレェ。アキヒトんところのツレは自分で名乗ることこともできひんの?」
「やめんか白金。なにかしらの事情があるんじゃろ。でなければこんな無礼なことするわけなかろうて」
喜黒さんはフォローしてくれたと見せかけて、よっぽどののっぴきならない事情でもなければ、許されないことだと暗に圧をかけてきた。
とはいえ、これでひとまず全員の自己紹介は終わった。ここからが本番だ。
「で? 今回は何のためにアタシが呼ばれたわけ?」
「それについては不肖、このわたし緊縛堅硬がご説明させていただきます」
「今回皆様にこうしてご足労いただきましたのは、ここ最近各地で被害を出している『怪人』達の対処法を検討なさってもらうためであります」
———『怪人』?僕が知らないだけかと他の参加者の顔色を窺ってみたがどうやら誰一人として心当たりがある言葉ではないらしかった。
「『怪人』とな? それは一体どういう者なんじゃ?」
「『怪人』の具体的な定義はございませんが……、異常な現象を起こし、人々を混乱に陥れる歩く災害のような者達のことです」
「さっき『怪人』達って言ったよな。生憎そんな奴らがいるなんて話、俺は聞いたことが無かったんだが?」
「それはおどれが世間知らずなだけやな。ジブン家の治める地域は既に被害が出てるで? それが『怪人』とか呼ばれとんのは、知らんかったけどなぁ」
「自分のテリトリーが荒らされているってのにそれを誇らしそうに言いふらすなんて流石、西鳥の人間は名前の通り頭が軽そうねぇ」
「あ?」
「仲が良いのは結構じゃがのぅ、ちぃと話が進まんから後にしてもらって良いかの?」
「ああっ? ……ちぃ、クソが。後でお前らまとめてジブンに傅かせてやるさかい。今のうちに媚びの売り方でも学んどけや」
喜黒ちゃん? はこの中だと窘め役のようだった。最年少であるはずなのだが彼女の言葉には意外にも重みがあるらしい。
「……続けましょう。怪人達はそれぞれ『白黒無常』、『ドントマインド』、『皇帝』そして、『人類最果て』と呼ばれております」
「それで、そいつらの詳細な情報は?」
「それもご説明いたします。しかし、先に断っておきますと、ほとんど推測の域を出ない情報があることもご了承ください」
「『白黒無常』。性別・年齢は不明。ただし、白色と黒色が混在した特徴的な見た目をしているため、一目でその者だと分かるはずです。物体を入れ替えるというカラフルピースか特殊技術を持っているようです。この者は今のところ被害者は出していませんが能力から要警戒対象です」
「『ドントマインド』性別は男性。年齢は15歳前後。主に白いワイシャツの上にセーター、学ランのズボンを履いているという格好での目撃情報が多いです。彼は自身が通う学校の生徒を数名殺害しております。カラフルピースは不明ですが。何かしら認識に作用するものだと思われております」
「『皇帝』性別は男性。年齢は23歳。服装は目撃されるたびに変化していますが、共通することとして異彩を放つ特徴的な服装であるそうです。殺害数こそ一桁ですが重傷者、軽傷者の合計被害者数は百名は超えるとのこと。カラフルピースは『存在感』。とてつもない存在感を常に纏っています。危険性は彼の言葉にもそれが適用されるということです。彼に「死ね」と命令されるとそのことしか考えられなくなってしまうとか」
「『人類最果て』性別は女性。年齢は28歳。服装は白いレースのワンピースの可能性があります。彼女は過去に町を一つ潰しております。封印されていましたが何者かのせいで彼女は解放されました。現在は行方不明ですが動けばすぐにわかるでしょう。何故なら彼女を直接見た者は死ぬからです。彼女の完全性によって、人々は自殺したくなるのです。過去の時点では必ずしもそうではなかったのではないかとも言われていますが成長し、更に完全性が増した彼女はその特性が強化されていることは想像に難くありません」
『人類最果て』その言葉が出た瞬間に場の空気が一層張り詰めた。
僕にその名の覚えなんてなかったけれど。「町を潰した」このフレーズは最近聞いた。とある怪盗の女性に。町を消してしまえるような存在が多くいるとも思えない。だから、きっとその『人類最果て』とやらがきっと彼女が追い求める敵に違いない。
「『人類最果て』じゃと?」
「ちょいちょい、待てや、なんやて? あの『秘匿人類特異点』が?」
「…………」
えっ、何その、あいつかみたいな顔は? アッキーは知ってたの!?
「なんなの? そいつは?」
「おいおい、なんで一応四人の中だと最年長の赤煌羅ちゃんが知らないんだよ? あの文書をまさか読んでないわけないいだろ」
「文書? アタシ堅っ苦しい文章なんて読む気にならないのよねー。えっ? なによ」
執事の苓北さんがなにやら小声で耳打ちしている。
「前に話したことがある? えーーっ。あっ! 思い出したわ。アタシがこの世で一番完璧なんだから、そんな奴気にする必要が無いって決めつけたんだったわ」
……。苓北さんが気を利かして小声で話しているのに本人はそんなことお構いなしにそこそこの音量で話していた……。
「一体どこの馬鹿がそんなことしでかしたのじゃ?」
「……。それについては後ほどお話しましょう」
「なんや、なんか含みがありそうやんけ」
「ここまでで何か質問がある方はいらっしゃいますか? もちろん従者の方もお聞きして下さり結構です」
「あのー。すいません」
「はい。何でしょう探偵さん?」
「この前、テロリスト狩りに参加したんですけど『怪人』には対応して、彼女達にはそうしないのは何故なんですか?」
これだけは少し気になっていた。
すっと反対側からもおそるおそる手が挙がる。高槻羽澄さんだ。
「実は私も気になってました」
緊張しているのだろう。声もどこか震えていた。
「……ワタシの口から言ってしまってもいいのでしょうか?」
「ここにいる者達にはお教えしてしまっても大丈夫じゃろう」
「……ありがとうございます。———この世には理があります。我々はその理の下で生きているのです。出る杭は打たれ、世界間のバランスが保たれることにより、我々は平穏な暮らしを送ることができているのです。しかし、その規則から外れる者達がいる。それが『怪人』」
「そん中にも理が適用されそうなやつらがいたやろ? どういうことや?」
「先ほど出てきたテロリストの方々は主に海外で活動しております。しかし、今回の議題である『怪人』達は日本で暴れている。ルールが適用されるのはかなりの被害を出した上で世界間のバランスを崩す存在であると認定される必要があるのです。あちらも人手が足りませんから。理が介入してくるころにはこの国が壊滅的な被害を被った後かもしれない。そういったことも考慮しております」
「つまり、『怪人』の定義は一、どこの世界観に所属しているかが不明瞭。二、理が適用されるにしてもそのころには甚大な被害がこの国に出ている可能性がある。ってところですか?」
「理解が早くて確かります」
「アタシたちがその『怪人』の解決策をどうにかしろって?」
「そうなります」
「もし、わたくしめも質問があるのですが」
今度は風南家の執事である標さんが発言した。
「なんでございましょう?」
「そちらの探偵さんのようなEENのプロの方々ではなく、どうして我々に声がかかったのでしょうか」
「確かに、最もな質問でございます。端的に説明いたしますと影響力でございます。『怪人』は神出鬼没、加えて、甚大な被害が出る可能性がございます」
「つまり、いざというときに大勢を動かし、避難などさせる必要も出てくるため、初めから四家の皆さんが主導で動いた方が良いということですか」
「なるほど、確かにわたくしめらが協力すればこの国の脅威はどうにかできるかもしれませんね」
「そろそろさっき、ぼかした『秘匿人類特異点』を逃したアホタレの話をしてもいいころやないか?」
「良いでしょう。実行犯は隣国になります」
「「なんやて((じゃと)(だと))」」
相変わらず赤煌羅だけは興味を持っていないようだったが、他の三人は露骨にいらだちを隠しきれていないようだった。
「どう落とし前つけさせたろうかの」
「いんや、だが待つのじゃ、『人類最果て』を封印しておるのは太平洋側じゃ。いくら隣国とはいえ、まさか我々に全く気付かれずにちょっかいを出すことなぞできるのかのう?」
「つまり、なんだ? 俺たちの中に共犯がいるってことか?」
露骨に全員の表情が険しいものとなった。もはや、一触即発の状態だった。
「待ってください。第六原則の方は何故それを止めなかったのでしょうか」
……第六原則だって?
「どうやら、かの者は『人類最果て』を始末したいようじゃの? あわよくばちょっかいをかけ始末してくれればよし。もし失敗したとしても危険性が高いから排除するという大義名分ができればそれでいい」
「待ってください。大義名分って……。それはつまり」
「せやな、大量虐殺。18年前の再来や」
昨日ポイントをくださった方ありがとうございます。本当にモチベに繋がります。
とはいえ、この作品を見つけてブラウザバックをせずに読んでいただけているというだけで私は嬉しいです。




