中片 その日 その一部始終
グロ注意かもしれません。SAN値が低い人は注意してください。
人々の喧騒が、時間がたつにつれて大きくなってゆく。その喧しさからほとんどの町人がこのお祭りに集まって来ているように感じる。
手にはずっしりとほのかに甘い匂いがする赤い物体が手の中にある。意外と重いんですわよね、りんご飴って、でもこの重量こそが幸せですわ。そう思いながら飴の部分をガリガリと削って食べていく。あら。はしたないですって?そんなこと今日くらいは目をつぶってくれたっていいじゃありませんの。なんてったって今日は神立祭、わたくしたちが主役なんですもの。
祭りの会場は裏山の石畳を昇ったところにある神社ですわ。そこの社殿でその年にお祝いされる子供たちが着物を着てお披露目されますの。それまでは自由に動いて良いって両親から許可が下りましたわ。
「まだあの着物を着た子見つからないねー!!」
「重役出勤ってやつだね」
「ジュウヤクシュッキン?」
――明らかに頭にクエスチョンマークが浮かんでいますわね。
「まぁまぁ、まだわたくし達だって着物は着ずにこうやって屋台を回ってるじゃありませんの。晴れ姿というものはここぞというところで見せるべきですわ」
「さっすがレーちゃん! 見せかたってのが分かってるぅー!」
理解できる内容になったから露骨に話題をこちらにずらしてきましたわね……。別にいいですねど。
「確かに68日前にレーちゃんの大会を見に行った時も演技が始まる前までユニフォームの上にジャージを着てたね」
――だからそんなこといちいち覚えて無くってよ!
「まぁでも、言われてみればそうなのかもしれませんわね。母上からは「練習を本番のように本番を練習のようにやりなさい」と言われてますの。だから練習ではいつもユニフォームを着てて、本番では逆にジャージで少しゆるくしてるってのは無意識化でやっているかもしれませんわ」
でも、それって結局練習のようにゆるくやるときが緊張するようになるだけであんまり意味ねぇんじゃねぇですの?と思ったのは内緒ですわ。
シャリシャリとした触感からいつの間にかりんご本体までたどり着いていたことが分かる。りんご飴って周りの飴の甘さにりんごの部分が負けてますわよね。もはや飴が本体でりんごはおまけですわよね。
「おっっ! レーちゃん!りんご飴食べ終わりそうだねっ! 次はお好み焼き食べようよ!!」
「まだ全部食べて無くってよ。それに粉ものはたこ焼きを食べるって決めてるんですの」
「悪いねレイちゃん私も今日はお好み焼きの気分だ」
「なっ。こっ、このー。裏切りですわ。プーちゃんはたこ焼き派じゃなかったんですの」
「まあ普段はそうなんだが。去年たこ焼きを食べ満腹な私の鼻に入ってきたあのソースの香りが忘れられなくてね」
「このーですわ」
「あっはははははははっ! どうやら二対一みたいだね!!」
「フンですわ。わたくしは一人で食べるからいいですわ」
「はははっ」
そんなこんなで楽しんでいるとそれぞれの親からもうすぐ準備しろと連絡が来ましたわ。いよいよですわね。神楽殿の裏にある控え室で親に着物を着るのを手伝ってもらいましたわ。結局パーちゃんは赤と黄色の梅文様。プーちゃんは青の吉原繋ぎ。わたくしは紫の業平菱になりましたわ。
……、ちょっとあの着物に影響されて派手な気がしますわね。まあ一生に一度の晴れ舞台ですし、このくらい自己主張できた方が子供の成長は感じ取れるのではなくって。
「いやぁーもうすぐだね! もうすぐだね!! あたし心臓がばくばくし過ぎて爆発しちゃいそー!!」
「人の賑わいもかなり盛り上がってきているね」
「そうですわね」
あれ?でもおかしいですわね。ここに来る前にもすでに境内は人がいっぱいいましたのに。あれ以上盛り上がるものですの?それに楽しそうな声というよりも悲鳴のような甲高い声が時々聞こえてくるような気がしますわ。
「あの……、母上、外の様子が少し気になりますわ」
「ふぅん。確かにだいぶヒートアップしているみたいだな。狛江さん、零訂さん。少し様子を見てくるからうちの子を頼むよ」
「あたしゃ、構わないよ」
「ええ、いいわよ。任しといて石川さん」
わたくしはこの時のことは別に後悔していませんわ。別に遅かれ早かれというやつですもの。でも、……心残りがあるとすればそれはきっと――。
母上はしばらく帰ってきませんでしたわ。外の様子を見るなんて1分もかからないはずですのに。
人の声がどんどん大きくなってくる。
次第にわたくし達にも不穏な雰囲気が伝わってきましたわ。
何となく、嫌な空気。
取り返しのつかない何かが起こっているような。
いつの間にか、室内は静寂に包まれていた。より外の音が、鮮明に聞こえてくる。
——確実に悲鳴や叫び、呻きが混ざった声が。
しばらくすると神楽殿側の扉が開きました。どうして。まだ。お披露目の時間じゃないのに。なんて、牧歌的な考えた束の間。目に入り込んできたのはこの世のものとは思えない光景でした。血の匂いがどっと部屋の中に流れてくる。ある人は自分の首を強く締め、ある人は頭を地面に激しく殴打していました。
ところどころ積み重な太った肉の山の中にはまだ腕がぴくぴくと動いているものもありました。
よく見てみると兄上のものもありましたわ。
でもね、本当はそんなこと気が付きもしませんでしたわ。だって、それよりも目が奪われるものが有ったのですから。ついている赤色なんて気にならないような。見事な白銀の着物を身にまとった神々しい存在が。嗚呼、あの着物……ですわ。綺麗な白髪のロングヘアー。ルビーをはめ込んだかのような赤い瞳。その上からでもわかるような完璧なボディーライン。その整った顔立ちはきっと比較したら小野小町ですら自身の顔が醜悪に分類されると感じるだろう。立ち姿は一瞬一瞬が絵画の様で、その一挙手一投足に目が釘付けになる。自分とは比べ物にならないほど完成されたその姿は自身と同じ種族かどうかさえ、疑わしく思ってしまう。
私がこの人に勝てる要素があるだろうか。私の両親から感じることもあるが現役のプロアスリートというものはオーラが違う。姿勢や立ち振る舞いから、常人とは違う印象を受けるのだろう。それだけで相手との力量さが感じ取れてしまうほどに。
嫉妬すら感じてしまうほど惚れ惚れする。わたくしは。わたくしは。死ねべきじゃありませんの。突如として、強烈な自殺念慮に憑りつかれた。
わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。わたくしは。
生きている価値があるんですの?だって、こんなもの。見てしまったら。わたくしの今までの努力なんて。努力と言うことすら———。
憂鬱そうな、泣きそうな、哀愁をまとった表情だった。ゆっくりとそれが口を開く。どこか人を落ち着けるような頭にすっと浸透してくる、気き心地の良い声。
神様みたいだった。
「そうか。これは私の所為か。私はただ―――――――――――――――」
意識が遠のいていたわたくしは、もはや何を言っているのかの続きを聞き取ることはかないませんでしたわ。
わたくしは手足の鈍い痛みによって気が付きましたわ。わたくしの母上がどこからか持ってきた鉈をわたくしの
右足に、
左足に、
右手に、
左手に、
これでもかと力を込めて何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もひたすら繰りかえし、振り下ろしていましたわ。ぐちゃぐちと音を立ててわたくしの一部がただの肉片になっていくのが分かる。
切断というより、もはやわたくしの体を挽肉にしてハンバーグでも作りそうな感じでしたわ。




