第5片 バックステージ
これは石川礫がクトクア・ショウ=ホーウのビルに侵入する一日前。
「八天。本当にお前の言う通りにすれば侵入者を誘導できるのか?」
「約束しましょう、ケビン」
「まったく今回の雇用主には困ったもんだよ。俺が戦っているところ見たいなんて……。だが相場の10倍もの金を積まれちまったらな」
侵入者の迎撃などケビンの本領では無かった。護衛対象との距離を限りなく近くしたうえで、いざとなれば自身の身を使ってでも絶対に守り抜く。そういうスタイルが本来彼の得意とするところなだが……。
「オレの嫁がさ。「預金はもう十分あるんだから。もう隠居しようぜ」ってさ。だからオレは今回で稼いだらさ。その金で家族を世界旅行に連れて行ってやろうかと思ってな」
「それにしても、あんたは本当に争いに関することだったらできるんだな。こういうのは詳しくないんだがそれでも、完成度の高いプランだと感じるな」
「ええ、戦争屋ですから」
「そっちはあんたのせがれか?」
「いいえ。弟子です」
弟子と言われた少年は恥ずかしそうに会釈した。
「それにしても気がかりなのは狛江パトスとやらの行方がまったく分からないことだな」
「そうですね。あなたにお売りした情報のとおり、鷗森のシンパが彼女を匿うため色々画策しているらしいですし、石川礫は彼女のものと見られる殺人がいくつか起こっていますね。凶器や被害者が凶悪犯罪者であることから彼女によるものと見て間違いはないでしょう」
「だが、狛江パトスの方は一切合切気配が無い。と」
「今回の件で最も警戒すべきなのはむしろ彼女の方でしょうね」
「わかってるさ。そんなこと。暗殺者とは何回かやりあったことがあるがあいつらは怖い。手強いといういうのとはちょっと違う。なんていうかな、殺意だけで動いてくるんだ。なんだったかあんたんところの国の話で首を飛ばされても岩に嚙みついたサムライがいる、みたいな話が無かったか?強いていうならああいう感じだ。死んでも護衛対象を殺そうとしてきやがる。自爆とかってのはさ、絶対にこの一発で殺すって感じだから。それを抑えちまえば良いんだが、やつらはずっと殺すことしか頭に無いんだよ。俺たちが予想もしないような形で護衛対象を殺そうとしてきやがる」
「この三日間通気口を始めあらゆる隙間から侵入することを警戒し、警備員も数を絞り、顔認証・指紋認証、合言葉。ありとあらゆる方法で入れ替わりも防いでいる。それでもどこか不安をぬぐい切れない」
「私は誰がこの戦争の勝者になろうがどうでもいのですが……。あえて言っておきましょう。ケビン。あなたの幸運を祈っておきます」
実際暗殺者狛江パトスはどこに居たのだろうか?
時は事件の一週間前。彼女は警備が強化される実に七日前に既にクトクアの部屋で待機していたのだ。誰が思うだろう。侵入を警戒する相手が既に自身の間近に潜んでいることなんて。どうしていつでもターゲットを殺せるのに待機していたのか。それはこの後に襲撃してくることが分かっている怪盗石川礫を囮にすることで比較的安全に脱出するためであった。さらに言えば侵入事体も礫のおかげでしやすかった。
想像してみて欲しい、大会、発表会、プレゼン、受験、この世には「本番」というものが有る。当然その本番にかけて人々は仕上げてくるのだその一週間前から誰が最高のコンディションになっているだろうか。そんなことしたら本番ではパフォーマンスが落ちるに決まっているのだから。つまり一週間後という明確な警戒すべき日があったおかげで侵入も容易だったのだ。
当日。そうしてすべては彼女の計画通り、無警戒の場所から殺害対象に自分が死んでいることすら気づかせず。殺しおおせたのであった。
「僕はね。自分が一番大切なんだ。自分さえ幸せだったらそれで良いって。そう思ってる。でもね、僕の幸せには僕の周りの人々が幸せが必要なんだ。他人のことはどうでもいいけど他人ではない者達のことは他人事とは言えないんだ」
「だから。まあ、それが君を行かせる理由かな、喜咲さん」
白衣に身を包んだ、サラサラとしたロングの黒髪が似合う大人びた雰囲気の女性だった。髪はセンターパートになっており、ジト目になっている黒い瞳がよく見えた。ヤマトナデシコらしい女性であった。手には彼女が持ち運びには少々重そうな白くて四角いスーツケースを両手でなんとか持っていた。
「感謝するわ」
「それに少々君は極端だが、人を救うのに理由なんかいらないと思うしね。ちょっとした雑談なんだけれど、君の犯行動機を聞いてみてもいいかな?」
「……。この世界を滅茶苦茶にしてやること。そして、ままに会うためよ」
「まま?」
「そう。私が置いてきてしまったの。死んでしまったと思っていた。でもね。指名手配犯として顔と名前を見たときにままに間違いが無いと思ったわ」
「「まま」と言うけれど君たちは同い年じゃなかった?」
「そうね。実年齢はね」
「今は時間が無いけれどまたいつか時間があったら私の記憶がある内の話はしてあげるわ」
「それか、ままに聞いてみるのが良いかもね。一番あの日起こったことを正確に把握しているのがままのはずだもの」
「よく分からないけれど。行ってらっしゃい」
「ええ。またいつか会いましょう。探偵さん」
もしもリクエストがありましたら、そのうちキャラ名の由来(あるキャラに限る)とかも話せたら良いなって思います。




