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第3片 マンハント

作品内での設定やキャラクターの言動は作者の思想とは必ずしも一致しないということをご了承ください。

 というわけで舞台は冒頭に戻る。

 石川礫(いしかわれき)の予告状は一言で言えば「(今現在からみると)3日後にクトクア・ショウ=ホーウを殺しに参る」というものでその際に他の二人も動くという情報が入っているとのことだった。クトクア氏は当日、自身の所有する高層ビルにこもり上層は私兵隊数名とプロのボディーガード一人(かなりの腕利きらしい)しか入れないとのこと。だから僕たち急遽雇われた組は下層の警備とこの三日間で潜伏しているテロリストたちを捜査するのが主な仕事らしい。

 絶対大した成果出ないだろ、こっち側。

 空港から少し離れた建物の一室に十数人の人々が集められていた。見たところ全員日本人であるため、            今回の参加者であるようだ。真ん中には箱のようなオブジェクトがあり、マイクが一本と二人の人間が居  た。

 一人はサングラスをかけた女性。もう一人は十代の半ばぐらいの初々しさが残る少年だ。女性は30代ぐらいに見えるが歴戦のオーラを放ち、見た目以上の年齢かもしれない。赤髪でショートカット。前髪の片側を後ろに流しピアスがきらりと光るのが見える。もう片方はサングラスの4分の1ほどを覆っていた。それだけでもかなりかっこいいが。モデル体型で等身が高く、よりカッコよさが強調されていた。

一方少年の方は茶髪で前髪をすべてかきあげ、まとめた髪をしばりポニーテールにしていた。表情はどこか自身なさげで背中も丸まっているからだろうか、どこかなさけなさを感じてしまう。


「皆さーん。こっんにちはー。今日来た人たちはこんなもんですか。あたしは八天凄體(はってん せいたい)。戦争屋です。皆さん日本から遠路遥々よくぞ御来しくださいました。皆様の活躍を期待してまーす」

「……っと。前置きはこのくらいにして」


ドンッ。と足を鳴らす。


「お前ら。いいか。これは戦争だ。お前らとテロリスト達とのな。私はどちらの味方でも敵でもない。私の仕事はただ戦争を起こし、一儲けすることただそれのみ。戦争とは人の遺伝子に組み込まれた本能だ。おかげであたしは食いっぱぐれることはない。あたしは戦争を起こすが別に戦争を否定も肯定もしない。強いて言うなら飯のタネだ。いつか起こることを私がきっかけを作ってやっているだけに過ぎない。みな、大いに戦ってくれ、大いに金を動かしてくれ、このあたしのためにな」

「ほら、お前も一言言いなさい」


この言葉は鼓舞だろうかそれとも、プロ特有の拘りなのだろうか。

マイクを渡された少年は緊張で震えていたが言葉を発するときにはどこか堂々としていた。


「開戦だ!」




集会のあと、皆どこかへ行ってしまった。この軽佻浮薄な怪しい男一人を残して。


「ややっ、どうもどうもお若いねぇー、君何歳?」


 キノコの傘みたいな形で花柄のカラフルな帽子に黒いサングラス。だぼだぼでぼろいジャケット。それでも無精髭は生えていないし、身長が高く、スタイルもいいからなぜか様になっていた。


「…………。ナンパですか」

「早とちりすんなって俺は至ってノーマルだ。とはいえ君の方から口説いて来るってんなら考えてやらんこともなくってよ」


………。嫌いなテンションだった。


「名乗ってもらっていいですか?」

「そんなに気になるかな//俺のこと/////」 


 うっっっっっざ!


「うわっ、そんな顔すんなよ。ジョークじゃんジョーク」

「俺の名前は蠱蔵井賢治(こぐらいけんじ)プロの廃墟探索者だ。ヨロシク。あんちゃんの名前は?」

 

 僕の名前?それは、

 —————。

 ぐっ。いつもそうだ。

 自分の名前を思い出そうとすると頭の中にノイズがかかったようになる。他人から呼ばれても認識ができない。

 この前もそうだった。


「別に、僕が名乗る義理はないでしょう。呼びたければ、探偵とでも呼んでくださいよ」

「アッハッハッハ。やっぱ面白いぜ。声をかけてよかったよ。探偵さん」

「どうしてこの仕事を受けたんです?廃墟探索者とやらが役立つ仕事だとも思えないですけれど」

「面白半分ならぬ。面白全部ってところさ。だって行きと帰りの飛行機代やらなんやらアッチが負担してくれるらしいじゃねぇか。そりゃ暇だったら行ってみるだろ。というか観光するだろ。廃墟の」


 動機が不純だった。と言うか働く気がなさそうだった。


「プロなのにそれでいいんですか?」

「名目としてはテロリストたちが根城にしているかもしれない廃墟をプロの俺が探すってことになってる。まあ十中八九見つからんだろうがね」


 成程。それなら確かに結構仕事しそうな感じに聞こえるな。


「そういうあんたは宛はあんのかい。探偵さん」

「………。無いですけど」

「そしたら俺について来るかい?」




 瓦礫が散乱し、至る所に植物が生えた廃墟。


「足元に気をつけろよ」

 

 足元に気をつけたところで建造物自体が崩壊してしまいそうであった。人の管理しなくなった建物というのはもはや人の手から離れ、自然に帰るものだ。だが自然の中にある人工という逆説がえも言えぬ雰囲気を醸し出していた。

 ここはニューヨーク市イースト川。僕は蠱蔵井(こぐらい)に連れられて、ノースブラザー島に来ていた。


「これって許可取ってるんです?」

「何言ってんだ。取ってるわけないでしょ」


 深夜の誰もいない時間帯にこっそり入ってきたので許可など取っているわけはなかったのだが、責任を蠱蔵井(こぐらい)に押し付けられるように一応聞いてみた。


「待て、誰か居るな」


 腕を僕の前に出し静止させる。さっきまでのお茶らけた態度が一変し、突然シリアスな顔になる。

 そして、フルマスクを被った、いかにもな悪党という格好の男が物陰から二人出てきた。

 一人は肥満体形で歩くたびにドスッ、ドスッと音がしそうな大男。もう一人は体は細いが異様に身長が高いこれまた大男。

 何やら英語で話しているようだが僕英語わかんないんだよね。

 どうやら二人での話し合いが終わったらしい。肥満体形の男が懐からナイフを取り出し襲い掛かってきた。


「下がってろ」

 

 僕は突き飛ばされ尻もちをつく。ひんやりするなー。


 瞬間。蠱蔵井(こぐらい)が男を地面に叩きつけていた。


 (何が起こったのか。それは余りに速すぎて、見えていた範囲から何が起こったかを推測したに過ぎないのだが)男が切りかかろうと伸ばしてきた腕と胸元を掴み、投げたのであろう。

 もう一人の男は数秒ぽかんとしたが、これまた胸元から取り出した拳銃を蠱蔵井(こぐらい)に突きつける。

 バンッ!と拳銃の破裂音が鳴る。それとともに細長い大男の拳銃が空に舞う。反動で吹き飛んだのか。いいや、違う!これは弾き飛ばされたのだ。蠱蔵井(こぐらい)が撃った銃弾によって!!

 そのまま蠱蔵井(こぐらい)は男を殴り飛ばした。

 ……。えーっ、強すぎでしょ。


「大丈夫か?探偵さんっ♪」

 

 差し出されたその手は何故だか冷たいような気がした。

 二人の大男は完全にのされていた。


「あ~っと。これはしばらく起きないな。俺が後で色々聞きだしたりしとくから先帰っといてくれ、連絡先はこれね」


 そう言うと電話番号の書かれたメモ帳を渡してくれた。




 翌日電話で決めた待ち合わせ場所のカフェで落ち合った。

 蠱蔵井(こぐらい)が聞き出した情報によると、どうやらあれは鷗森喜咲(おうもりきさき)のシンパとのことらしい。過去に助けたテロリストが所属する組織の構成員とのこと。


「危ない目に合わせちゃった代わりと言っては何だけど。石川礫(いしかわれき)に関する面白い話をしてやろうか?」


 鷗森(おうもり)の方ではなく、石川礫(いしかわれき)


「そりゃまあ気になりますけど……」

「今回の件でEENで情報収集をしようと思わなかったか?」

「しましたね。いくつか情報がありそうなのは見ましたが、ちょっと高くて」

「そうだよなぁ。そうだとも。そりゃあ基本的にそういうの売ってんの情報屋か、たまたま手に入れた情報を高値で売る奴だからなー。かなり高い」

「買ったんですか?」

「いやいや、なわけないでしょ。昨夜たまたまちょっと働いちゃったけど基本的には観光目的で来てんだから」

「はあ。ということは。あなたが後者の人ってことですか」

「正解☆ haikyomania@een.comとはわたくしのことよ」

「ここだけの話だぜ」

 

 口元に手を当て僕の耳もとに近づき小声で話す。うっわっ。なんかいい匂いする。気持ち悪!!


「実は俺この前禁足地の廃墟に踏み入っちゃったんだよ」

「禁足地っていうとなんか。オカルト的なやつですか?」

「おいおい。あんま大きな声で話すなよ~。もっと小声で話せ」

「はぁー」


 どうせ周りに聞かれてもここはアメリカで、僕たち話している言語は日本語だから何言ってるか分からないはずなのに。何をそんなに恐れているんだ?


「それで、どんな建物の廃墟だったんです?」

「ふふーん。よくぞ聞いてくれた。実は建物じゃない。違うか。だけじゃない、かな?それは………」

「それは?」

「『町』さ。存在を抹消された、な」


 言われてみればかつて炭鉱で栄えていたが現在では無人になってしまった島があると聞いたことがある。あれも廃墟というのだろうか。


「俺が警戒しているのはその存在を抹消した存在さ」


 そう蟲蔵井(こぐらい)は語る。


「最低でも日本国政府。あるいはもっと得体のしれない「何か」が隠蔽に関わっている」

「何が根拠なんです?」

「情報だよ。あまりにも完璧に統制され過ぎている」

「現に探偵さんは聞いたことあったか?」

「まあ確かにありませんでしたが……。それって僕が単に世間知らずなだけなのでは?」

「そんなことは無い。世界中の。特に日本中のあらゆる廃墟にアンテナを張ってる俺が。プロの廃墟探索者であるこの蟲蔵井賢治(こぐらいけんじ)ですら知らなかったんだ」


 そう言われると確かにおかしなこと。—なのだろうか。


「とはいえ都市伝説的にそういうのがあるみたいな話は在ったんだ。眉唾ものだろうと思ってたんだがな。一応プライドというものがあるから俺も駄目元で情報を集め、駄目元で探してたら、な。見つけちゃった」

「しかも、何が恐ろしかったか。それは。あまりにも最近だったんだよ。少なく見積もっても恐らくあれは20年前までは人が住んでた」

「町だぞ。数千人規模の人数が20年以内には住んでたってのに。何で、誰もその町の存在を知らねぇんだよ。元々住んでた住人は?近隣の町は?離島なんかじゃない、本州だぞ。そんな簡単に存在を抹消できるはずがないんだよ」


 蟲蔵井(こぐらい)の横顔は恐怖というよりはどこか怒りとほんの少しの好奇心に満ちていた。


「そこまではまあ分かりましたけど。何でそこから話すんですか?それって僕も知っているのはあまり良

くなさそうな話なんですが………」

 

 流石にぼくも内心穏やかではなかった。

 すると蟲蔵井(こぐらい)は僕の耳元から顔を離し、頬を少し赤らめ口をすぼめる。なんでちょっとかわい子ぶってんの?


「共犯が欲しかったんだよ」


 こいつ!危険な目に合わせた代わりとか言いつつさらに迷惑をかけてきやがった!!


「あれー。もしかして怒ってるー?機嫌治してよ。ネッ。これから2000万円(蟲蔵井(こぐらい)制定)の情報を教えるところなんだからさ~。」

「……。もうここまで来たら聴きますよ。」

 

 まったく、こんな不審者と関わらなければよかった。


「よーーし、来た来た。行くぞー。ドゥルゥドゥルゥドゥルゥドゥルゥドゥルゥドゥルゥドゥン」


 口で下手なドラムロールをする。とてもムカツク。


石川礫(いしかわれき)はその町の出身だ」


 ふーむ。なるほど。これは確かに面白い情報かもしれない。リスクに見合っているかは置いといて。


「それって彼女が先ほどの「何か」との繋がりがあるかもしれないってことですか?」

「そうかもね」

「あれ、でもそれじゃあ今回の話はどうなるんですかね?「何か」とやらは介入してこないんですかね?というかそもそも彼女が存在が秘匿されるべき人物だったら国際指名手配なんてされないのでは?」

「さあね。でも余計なところで俺はリスクを取りたくないからね。だから観光主体で本格的に関わろうとしないのもそれが原因だったりする」


 出自が不明なら確かに色々犯罪はしやすいのかもしれない。


「ところでどうする?また俺と一緒するかい?」

「いえ、それは遠慮させていただきます。」


 さすがにもう銃を向けられるのは御免被りたいのであった。

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