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救世チュートリアル  作者: 紫吹
第四章:海上の死踏会 ~愛は闇夜で輝くか~
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Scene4 ―― 教えてくれないか? 君のこと

 緑の城。その塔の最上部に設置された、小さなオルゴール箱。

「これだな」

 五十嵐は迷いなく15個の音を打ち込んだ。再生ボタンを押すと、ゆっくり回り始める。

 澄んだ音が部屋内だけでなく、チャイムとなって園内に響いた。

「なんかの曲?」

 漣が尋ねる。

「いや……俺達の高校のチャイムだ」

「へー。高校って……なんでそんなのが解除の条件なんだよ」

「なんでだろうな。何かしら伝えたいことがあるんだろうが……意外となんの意味もないのかもしれないしな」

 そう答えながら五十嵐は高校時代のことを思い返していた。あの頃が恐らく、俺達が最も同じ方向を向いていた時だったんだろうな。いつの間にか、こんなにもバラバラな道を歩むようになってしまった。分岐点はどこにあったのだろう。

「でも、これで爆弾は解除されたんですよね。そうなるとあとは、彩花を取り戻すだけですね!」

 意気込む鈴音に、五十嵐は優しく微笑んだ。大変なのはこれからなのだが、それでも鈴音の明るさに救われる。

「爆弾について確認しておこうか。仕掛けられているのはここと本島との連絡経路を絶つための爆弾が四つ、この島を破壊するための爆弾が一つ。今オルゴールで演奏したことで、すべての爆弾が解除されているはずだ」

 そう、現段階では園内にいる人々にとっての脅威はなくなっている。そのことを知っている人はいないが。

「しかし、爆弾は時雨が持っているスイッチで手動で起爆させることができる。これをネタになんらかの交渉を持ちかけてくる可能性は大いにあるな」

 三人は頷きあった。結局のところ制御装置がどうのこうのというのは単なるお遊びに過ぎないのだ。時雨はいつでもどこでも、好きに爆弾を起動させられるのだから。彼の性格を考えれば無条件に爆破なんて興のないことはしないだろうが、五十嵐側が不利な点に変わりはない。

「そして重要なのが、爆弾を解除するもう一つの方法だ。これには犠牲が伴う。潜水艇の中に誰か一人を拘束、そのまま自動操縦で沖へ向かい、その後爆発する。拘束した時点で島に仕掛けられた爆弾は一時的に停止し、潜水艇の爆発で完全に解除される」

「時雨の目的はこっちかな」

 漣が呟いた。

「どういうこと?」

 尋ねる鈴音をちらりと見て答える。

「入園者に出したややこしいミッション、制御装置、こんなのはどうでもいいってことだよ。いやまあ、何かしら意味はあったのかもしれねぇけど、一番重要なのは一人を生贄にしてその他全員が助かるっていうシステムだろ?」

 鈴音は顎に手を当てて考えた。

「じゃあ、私を監禁したのは……私を生贄にするつもりだった。……ううん、違うかな。私か他の誰かか、どっちを生贄にするのか選ばせるつもりだった?」

 五十嵐は深く溜息をつく。

「その可能性はある。お前自身に選ばせるか、俺達に選ばせるか。どっちにしろ楽しい選択ではないな。あとはまぁ、俺達四人が助かる代わりに、あいつが言っていたそもそもの計画を見過ごす、つまり半数以上の人間を見殺しにするって選択肢が入るかどうかだろう」

 どれを選ぼうと精神的なダメージを負うことになる。それが時雨の狙いだろう。もしかしたら爆弾なんてものは始めからないのかもしれない。しかし、誰かを犠牲にするという選択をしたが最後、実際どうであったかは関係ないのだ。

『自分の命と他者の命を天秤にかけ、他者を切り捨てた』

 その事実は心に重く残る。

 そんな経験を楓や鈴音、漣にさせるわけにはいかない。いざとなれば自分の手を汚すまで……。五十嵐はひそかにそう決心した。


 チャイムが鳴り響く――。

 はっと楓が城に目を向けた。

「そうさ、今のが制御装置の起動条件。つまり爆弾はもう解除された」

 感情もなく淡々と時雨が告げる。楓は慎重に頷いた。冷たい風が髪を揺らす。

「私達の勝ち、ということでいいんですか? あなたが言ったように、美青を見つけ、爆弾も解除しました」

「だがお前がここにいる」

 夕日を背に受けて時雨の表情は見えなかった。

 今自分がどこにいるのか、楓は分かっていなかった。鈴音が脱出する際に通ったであろう隠し通路を時雨に連れられて歩き、しばらくして外に出た。随分と高い位置にあるバルコニーのような場所だった。遊園地を一望できる。正面には緑の城が見えていた。今、あの塔の最上部に鈴音達がいる。

「さて。ここならゆっくり話せるだろう」

 柵に肘をついた時雨の顔は笑っていた。しかし、喜びを抑えられないというようなその笑みは楓には見えていない。

「話す?」

 警戒の色を強める楓に彼は大きく頷いた。

「あぁ。言っただろう、君と俺は似ていると。教えてくれないか? 君のこと。勿論、俺のことも教えよう」

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