Scene2 ―― 提案があります
「ここには……いないか……」
膝に手をつき息を整える。楓、会長と別れてから全力で走りここまで来た。残念だがはずれみたいだ。
楓に鈴音を探そうと言われて俺たちが城を出たとき、もう周りを囲んでいた奴らはいなくなっていた。中には機械などなかったとさっき出ていった男たちが広めたのだろう。そうなれば城に入ろうとする奴らはいなくなり、同時に食い止めようとする奴らもいなくなる。
なんで時雨はこんな真似をしたんだろう。まったく意味が分かんねぇ。
とにかく俺たちは会長と合流した。鈴音からの連絡は一度きりで、もちろん鈴音の居場所も分からないまま。
なんか知らないが楓に観覧車の周り、半径200mくらいで怪しいところを見回れと言われ、三人手分けし探しているってわけだ。
そろそろらしい。もし鈴音が自力で脱出できたなら、そろそろ地上に戻っているはずだという。ったく、なんでそうなるんだか。ちょっとくらい説明しろよな……。
適当に走り回るうちに湖に突き当たっていた。杭に手をついて少しだけ休憩する。ここから何か見えないだろうか。
水面に反射した夕日が眩しい。目を細めて端からゆっくり見ていった。
「ん。誰かいる」
少し遠くの桟橋のようなところで、こちらに背を向けている人の姿があった。
遠いな、よく見えない。全身黒で、男だとは思うんだが……。
他にもいるな。さらにその奥に二人くらいいるらしい。もしかして楓の言った通り、鈴音が脱出してたのか? そうだとすれば、あの黒いやつが時雨か。あぁ、たしかに黒い服を着ていたような気もする。
ここにいてもできることはなにもない。すぐに楓達の元に向かうべく駆け出した。
「……分かりました。それなら、一つ提案があります」
提案、という言葉に時雨は軽く眉を寄せる。その表情は喜んでいるようにも見えた。
「なぜか知りませんが、美青にこだわっているようですね。でも、代わりに私を人質にしてください」
「何言ってるの!? ダメだよ、そんなの」
後ろから私の腕を揺すって鈴音が言う。振り返って微笑んだ。
「私は大丈夫だから」
心配そうな彼女にウインクをする。これから私のすることに合わせてねという合図だ。
「残念だが却下する。美青は我々の内部情報を得た可能性があるからね、自由にするわけにはいかないんだよ」
もちろんそうなるだろうと思っていた。あとは、ここからどれだけ上手く巻き込めるか、だな。
「では、私を人質にするメリットをお教えします。あなたが知りたがっている私達の本名ですが……私は如月鈴音です」
何か言いかける鈴音を遮って続ける。
「で、この子は夜城楓」
時雨は腕を組むと口を開いた。
「如月鈴音に夜城楓、ね。お前はあの如月一家のご令嬢だと言うわけか。俺がそれを信じると思うのか?」
「証拠ならありますよ。私達しか知らない、データベースにアクセスするためのパスコード」
強気に返した。これは鈴音のご両親から私用に与えられた、いざという時のための非常信号でもある。このパスコードでデータベースにアクセスすると、偽のページに飛ばされ、さらに鈴音のご両親に知らされる。私達は外部との連絡を遮断されているが、この方法なら鈴音の危険を伝えることができるってわけ。
「それを俺に教えると。なぜそこまでする?」
「……私には楓を守る義務があります。というか、如月家の人間として人々の命を危険にさらすわけにはいかない。ですから、提案はこのようになりますね……私を人質にする代わりに、ここにいる人達全員を無事に解放してください」
某名探偵が子供になるあのシーンが、本当に観覧車の下だったのかは分かりません。




