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救世チュートリアル  作者: 紫吹
第四章:海上の死踏会 ~愛は闇夜で輝くか~
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Stage16 ―― 再会

 ず、ずず……。

 僅かに開いた隙間から差し込む光に目を細めた。

 ずずず、ずず……。

 あと少し、全体重をかけて石の塊を押す。膝や腕が擦れることを気にする余裕もなかった。数分間の格闘の末、十数センチの隙間を無理やり通って外へ出た。力の入れすぎで震える両手を握りしめ、傾いてきた太陽を反射する水面の奥にそびえ立つ城を見つめる。

 やっと、出られた。

 ほっとしてる暇はないか。脱出しながらタブレットの中身にはざっと目を通していた。今起きている状況についてなら少しは把握できたと思う。ただ、屋内は電波が悪くてまだ皆に伝えられていない。

 連絡するのが先か、また捕まる前に逃げるべきか、どうしたらいいんだろう。

 迷っていたのは一瞬だった。すぐに走り出す。やっぱり一度逃げて、隠れるべき。人混みに紛れてしまえば見つからないはずだ。

 すぐの角を曲がると、目の前に立ちはだかる人がいた。慌てて立ち止まる。

「やぁ。そろそろ次の局面(ステージ)に進もうか? 美青さん……いや、教えてもらおうか。君は誰だ?」

 時雨……! 私達の距離は1メートルもないだろう。こんなに近くにいるのに、なんだかふらっときえてしまいそうで掴みどころがない。どことなく会長と似た雰囲気を感じた。私はじりじりと後ずさりながら、時雨の姿を目に焼き付ける。

 細身で長身、体型に特徴はなし。身長は……170~180、くらいだと思うけど自信ない。服装は、全身黒で統一。スニーカーまで黒いなんて徹底してる。黒いジャケット、黒いジーンズ、どれも特徴なし。ブランドの特定もできない。髪型も……どこにでもいそうな感じ。顔は思ってたよりかっこいい。じゃなくて、なにより印象に残る、切れ長ですごく冷たい目。この人の目にはきっと、私なんて映ってない。そんなことをふと思った。それくらいこの人の目には温度がなかった。

 背中に何かが当たる。湖のふちの柵だ。もう、逃げられない。

「ふふふ……何をそんなに怖がってるのかな。それで、君の本当の名前は?」

 本当の名前、ね。偽名ってことはバレてるけど、でもまだ私達の正体には辿り着けていないということか。私が如月鈴音であること、きっと知られてはいけない。

「美青です」

「違うよねぇ」

 即座に否定された。私は口をつぐみ、これ以上話すつもりがないとアピールする。

「……はぁ。教えるつもりがないなら仕方ない。じゃ、一緒に来てもらおうか」

 有無を言わせない口調で時雨が一歩近づいた。

「い……嫌、です」

 声が震える。

「なにか言った?」

 冷たい。ぞっとするほど冷たく時雨が問う。いや、違う。これ以上しゃべるなと言っている。

 ……それでも。

「嫌です! なんでこんなことするんですか? 皆を困らせるのが――」

「うるさい」

 その一言で、もう言葉が出なかった。怒鳴られたわけでもないのに、身体が動かなくなる。

「一緒に来いと、言ってるんだよ」

 ゆっくり右手が伸ばされる。

「あぁ、そうだ。そのタブレット。中、見たの? どれだけ知った」

 彼の視線が私の腕の中に向けられた。

「返してもらおうか」

 ぎゅっと力いっぱい抱きしめた。中身にはいちいちロックが掛けられていて、私が見れたのは今回の件に関する情報と、あとはほんの少しだけ。会長に渡せば、全部の情報を得られるはずだ。

「早く……ぐっ!!」

 突然呻き声とともによろめいた。何が起きたのか分からず目を丸くしていると、

「美青に手出すなって言ったよね」

 時雨の背後に楓が、包丁を握って立っていた。

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