Stage16 ―― 再会
ず、ずず……。
僅かに開いた隙間から差し込む光に目を細めた。
ずずず、ずず……。
あと少し、全体重をかけて石の塊を押す。膝や腕が擦れることを気にする余裕もなかった。数分間の格闘の末、十数センチの隙間を無理やり通って外へ出た。力の入れすぎで震える両手を握りしめ、傾いてきた太陽を反射する水面の奥にそびえ立つ城を見つめる。
やっと、出られた。
ほっとしてる暇はないか。脱出しながらタブレットの中身にはざっと目を通していた。今起きている状況についてなら少しは把握できたと思う。ただ、屋内は電波が悪くてまだ皆に伝えられていない。
連絡するのが先か、また捕まる前に逃げるべきか、どうしたらいいんだろう。
迷っていたのは一瞬だった。すぐに走り出す。やっぱり一度逃げて、隠れるべき。人混みに紛れてしまえば見つからないはずだ。
すぐの角を曲がると、目の前に立ちはだかる人がいた。慌てて立ち止まる。
「やぁ。そろそろ次の局面に進もうか? 美青さん……いや、教えてもらおうか。君は誰だ?」
時雨……! 私達の距離は1メートルもないだろう。こんなに近くにいるのに、なんだかふらっときえてしまいそうで掴みどころがない。どことなく会長と似た雰囲気を感じた。私はじりじりと後ずさりながら、時雨の姿を目に焼き付ける。
細身で長身、体型に特徴はなし。身長は……170~180、くらいだと思うけど自信ない。服装は、全身黒で統一。スニーカーまで黒いなんて徹底してる。黒いジャケット、黒いジーンズ、どれも特徴なし。ブランドの特定もできない。髪型も……どこにでもいそうな感じ。顔は思ってたよりかっこいい。じゃなくて、なにより印象に残る、切れ長ですごく冷たい目。この人の目にはきっと、私なんて映ってない。そんなことをふと思った。それくらいこの人の目には温度がなかった。
背中に何かが当たる。湖のふちの柵だ。もう、逃げられない。
「ふふふ……何をそんなに怖がってるのかな。それで、君の本当の名前は?」
本当の名前、ね。偽名ってことはバレてるけど、でもまだ私達の正体には辿り着けていないということか。私が如月鈴音であること、きっと知られてはいけない。
「美青です」
「違うよねぇ」
即座に否定された。私は口をつぐみ、これ以上話すつもりがないとアピールする。
「……はぁ。教えるつもりがないなら仕方ない。じゃ、一緒に来てもらおうか」
有無を言わせない口調で時雨が一歩近づいた。
「い……嫌、です」
声が震える。
「なにか言った?」
冷たい。ぞっとするほど冷たく時雨が問う。いや、違う。これ以上しゃべるなと言っている。
……それでも。
「嫌です! なんでこんなことするんですか? 皆を困らせるのが――」
「うるさい」
その一言で、もう言葉が出なかった。怒鳴られたわけでもないのに、身体が動かなくなる。
「一緒に来いと、言ってるんだよ」
ゆっくり右手が伸ばされる。
「あぁ、そうだ。そのタブレット。中、見たの? どれだけ知った」
彼の視線が私の腕の中に向けられた。
「返してもらおうか」
ぎゅっと力いっぱい抱きしめた。中身にはいちいちロックが掛けられていて、私が見れたのは今回の件に関する情報と、あとはほんの少しだけ。会長に渡せば、全部の情報を得られるはずだ。
「早く……ぐっ!!」
突然呻き声とともによろめいた。何が起きたのか分からず目を丸くしていると、
「美青に手出すなって言ったよね」
時雨の背後に楓が、包丁を握って立っていた。




