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救世チュートリアル  作者: 紫吹
第四章:海上の死踏会 ~愛は闇夜で輝くか~
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Stage12 ―― in 緑の城

「誰か! 裏から中に入られる! 誰か来てくれ!」

 喧騒の中、ひときわ大きく誰かが叫んだ。

「なんだ、どうなってんだ?」

「裏の人手が足りないらしい」

 ざわめきが広がる中、さらに急かす男の声。

「おい! 誰かいないのか、もうこっちがもたないんだ!」

 姿は見えないその者に向かって、ある男が叫び返す。

「あぁ、でもこっちもギリギリなんだよ!」

 私は人と人の間を抜け、ようやく彼の前に辿り着いた。

「あ、あの! 私達がここ、手伝います! ……あっ、あれ見せた方がいいですよね、スマホ……」

 慌てて鞄を探っていると、人をかき分けて現れた男が荒々しく言う。

「どうすんだ、中に入られたら俺らの保証がなくなる! なんだよ、全然余裕そうじゃねぇか!」

「あ、じゃあ私達が裏に――」

 提案するが、すぐに遮られた。

「子供じゃ弱い……こっちの方がまだ人も足りてそうだな。おまえら、こいつらと交代してくれ!」

 私達……私と漣を城の方へと押しやり、代わりにそこにいた男性二人の腕を引く。

「おまえ達もこっちに残ってくれ! 頼んだぞ」

 男……五十嵐会長が、私達の後ろにいた男女四人に目配せした。彼らは頷いて答える。

「あ、待てまだ確認してない!」

 会長が連れて行こうとしていた男二人のうち一人が思い出してしまった。私達が仲間かどうか、つまり城の中に人を入れたくないサイドの人間かどうかの確認だ。

「なんだよ、急いでんのに! おい、スマホ!」

「は、はい!」

 私は慌てて会長に自分のスマホを手渡した。適当なメールの画面が開いてある。

「……ん。いいだろう、任せた!」

 会長はその適当な画面を適当に確認し、男達に見られないうちに私に返した。

「はい! ここは大丈夫です!」

 なんて茶番で男二人を入り口から引き離すことに成功する。私達は七人で緊急的にチームを組み、ある作戦を実行していた。詳細を説明しておこう。


 遡ること三十分。

 少し前に私が声をかけ、城に群がる人達が何をしているのか教えてもらったカップル(藤野さんと向井さん)と、その時すぐ近くにいたカップル(安藤さんと利田さん)、合わせて四人に声をかける。自分達の目的を話し、協力してくれないかとお願いしたところ快く承諾してくれた。実際どこまで信じてもらえたのかは分からないが、彼らはとにかく城に入れさえすればいいのだ、とりあえず利害が一致したということだろう。

 仲間が七人に増えたところで、私達が考えておいた作戦を伝える。

 状況としては、お城には正門と裏門があり、その両方が男たちによって封鎖されている。その周りには城内に入りたい人達が群がり、暴力沙汰にまではならないものの険悪な雰囲気が漂っていた。私達は強行的にではなく、安全に城の中に入りたい。

 そこでだ。会長を除いた六人が正門へ向かい、自分たちも手伝いたいと申し出る。一方、会長は城に沿って正門へ向かい、「裏門から城内に入られてしまいそうだ」という情報を流す。

 私達が正門へ辿り着けば、向こうは私達が本当に仲間なのかを確かめようとするだろう。新たな仲間の藤野さんによると、時雨からの指示はメールで送られてきているとのことなので、恐らくそのメールの画面が仲間かどうかの確認に使われるはずだ。私はスマホを出し、確認してもらおうとする。ところが私には、本物のメールは届いていない。

 その丁度いいタイミングで会長が到着する予定だ。とにかく来てくれと急かし、入り口を塞いでいる男性陣を数人と私達六人を交代させる。この時、仲間かどうかの確認も会長が済ましてしまわなければならない。あとは適当な理由を付けて城の中に入れてもらい、制御装置を起動させるだけだ。

 ちなみに、裏門に男の人達を誘導した会長がその後どうなるのかは考えていない。私達が城内に入るまでは、嘘だということがバレなければいいのだけど。


「あの……お城の扉、閉めた方が安全じゃないですか?」

 会長達の姿が見えなくなったところで、私は横にいた敵サイドの男性に声をかける。

「それはそうだろうけどな、俺らじゃ閉められないだろ。内部のどっかで動かすはずだからさ」

 待ってましたとばかりに漣。

「実はさ、俺の兄貴が昔ここでバイトしてたんすよね。だから、城の中のことちょっとは分かんだよ」

「私達が中に入って、扉閉めれないか試してみます!」

 元気にそう提案するが、男の人は渋っているようだった。そうすぐに信用できないのは当たり前か。実際私達は裏切るつもり、というかこの人たちを騙していることに変わりないのだ。

「あの、ここに来る途中で聞いたんですけど……」

 藤野さんが口を挟む。

「なんか、これから一気に城に攻め込もうって計画してるらしくて、人数もどんどん増えてるみたいですよ」

 今城を取り囲んでいる人達の半分くらいは、おそらくただの野次馬だろう。もちろんそんな計画なんて聞いていないが、本当に考えていてもおかしくはない。適当な人たちを巻き込んで強引にでも押し入ってしまえば彼らの勝ちなのだから。

「そうだよな……。いつまでもここで守りきれるとも思えないし、扉さえ閉められれば……」

「中の機械さえ触らなければいいんだよな。俺らも一緒に入って、最悪見張っとけばいいんじゃないか?」

 あ、そうなのか。もしも時雨からの指示が「誰も城に入れるな」だったとしたらこの計画は破綻、嘘をついていることがバレて大変なことになるところだったが、最悪の展開は免れたようだ。もちろん、まったくの運任せというわけではなかった。藤野さんによれば、時雨からのメッセージはこうだ。

『城の中に機械を設置した。この機械を作動させたならば、このメッセージを受け取っている者達全員の命を保証しよう』

 作動=全員の命ということは、逆の立場からすれば不作動=全員の命ということになる。城に入るか入らないかは問題ではないはずだった。

 私はさらに促す。

「じゃあ、一緒に入りましょう」

「……しかたないか」

 私と漣は子供で、大人に比べ力も弱い。もし私達が機械を作動させようとしても押さえつけられると考えたのだろう、男二人が一緒に行くという条件で中に入る許可を得られた。

 四人で城門をくぐり、そのままへ城内へ走り込む。

 美しい色だった。全体がエメラルドグリーンで統一されている。こんな時でなければ、意外と楽しめたかもしれなかったなと柄でもないことを思った。

 周りに気を取られている私達を男が急かす。

「で? どうやって閉めるんだ?」

 兄貴がバイトしていた、なんていうのは嘘だ。そもそも漣にお兄さんはいない。しかし、会長の素晴らしい情報網を駆使し、事前にこの城の内部構造は把握していた。

「こっちだ」

 漣を先頭に、男二人と私が続く。さりげなく最後尾に回ることができたが、この人たちは呑気というか人がいというか、私達を見張るつもりはあるのだろうか。

 漣はぐるぐると城中を巡る。装置がどこにあるのかまでは分かっていないため、なんとか見つけ出さなければならない。

「おい、ほんとに分かってるのか?」

「だいぶ前に聞いた話だし、詳しく覚えてないんだよ。探すから待ってろ」

 男の人に疑われ、漣はぶっきらぼうに答える。一階の部屋を全て回ったが、それらしいものはなかった。続いて二階を捜索するが、やはり見つからない。

「結翔……」

 私が呼ぶと、ちらりと振り返った漣は素早く頷き、ある部屋に置かれた観葉植物の裏、ひっそりと隠れている縦横五十センチほどの小さな扉を開いた。ちなみに鍵は夜間以外かけられていない。

「これか……。やっと見つけたぜ」

 漣は身をかがめて扉の奥へと消える。興味本位で私も中に入った。

 顔を上げて拍子抜けする。会長のマンションのような、モニターとか機器とかが色々ある部屋を想像していたが、そこはコンクリート丸出しの壁、無造作に床を這う黒いコード、中央にはごつめの四角い機械。

 機械……。これが制御装置、なんてことはないよね。

「これ、だな」

 呟いた漣が透明なボタンを押し込むと、ウィーンいう機械音とともに微かな振動が足に伝わる。数秒後、ゴゴ……と低く響いて静かになった。

「閉まったの?」

 尋ねると、黙って点滅するパネルを指さした。完了、という文字が浮かび上がっている。

「見に行くか」

 男性二人は階下へ向かった。すぐに、「閉まってる! 大丈夫だ!」と聞こえてくる。いい人たちなんだろうが……悪いけど、大人しくしていてもらわないとね。制御装置を起動させれば、爆弾が爆発することはない。時雨の企みの95%を阻止したと言ってもいい。そのことを説明すれば信じてもらえるだろうか。

「ま、その辺に縛りつけとこうぜ。黒紫館のやつみたいにさ」

 物騒なことを言う。

「ロープ、あと一本しかないけど」

「えぇ、それは面倒だな……。どうする?」

 こっちを見ないでくれ、私も困ってるのに。両手を縛るくらいなら、半分に切ったロープでも出来るだろうが、大人の男性二人を相手にして無事でいられるのかは疑問だし、本当は手荒な真似はしたくない。

「じゃあ……あれでいこうか」

 不思議そうな顔をする漣に、最後のロープを差し出した。

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