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救世チュートリアル  作者: 紫吹
第四章:海上の死踏会 ~愛は闇夜で輝くか~
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Stage6――Another Side

 ん…………。

 ゆっくり目を開けた。ここ、どこだろう。

 まずは状況確認だ。右から左へとゆっくり周囲に目を凝らす。辺りは薄暗く、照明はない。数メートル離れた正面には薄汚れたコンクリートの壁、そして同じく薄汚れたコンクリートの床。左右には同じような空間が続き、その先は闇に飲まれて見えない。

 私は壁にもたれて座っていた。両手は背中でロープか何かで縛られている。そのロープは恐らく何かしらに結ばれているので、移動はできない。

 立ち上がろうとしてみたが、ロープに制限されて少し腰を浮かすことくらいしかできなかった。

 で……。ここ、どこなんだろう。結局何も分かんないや。

「はぁ…………」

 こんなとき(めい)なら……。もっといろんなことを発見して、いろんなことが分かってるんだろうな。

 あのとき、時雨が登場して私達の注意は完全にあの人に引き付けられた。私は突然何者かに口をふさがれ、手もガムテープで巻かれて連れて行かれた。

 すごい力で押さえられて逃げることはできなかったし、正直どうしたらいいのか分からなかった。でも、私だっていつまでも楓に頼ってばかりいるわけじゃない。

 昔、楓が言っていたことを思い出す。

『本とかドラマとかでさ、よく薬品嗅がされて眠らされるとかあるじゃん。あれ、実際あんなに上手くいくと思えないんだよね』

『いい? 不意打ちとかされたらまぁしょうがないけど、多少心の準備ができてた時はただ息しないようにするんだよ。そこからは演技力もいるっちゃいるけど、寝たふりでもしとけば多分相手は油断するよね』

 それで、二人でよりリアルな捕まった演技を練習したこともある(ちなみに中学の卒業記念の劇では私が被害者、楓が犯人で誘拐されるシーンを担当したりもした)。

 だから時雨が話しているのを聞きながら、私はちゃんと準備していた。口をふさがれた瞬間息を止め、少し抵抗したあと力を抜いて眠った演技をする。内心バレてるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、なんとか大丈夫だったらしい。そのまま連れて行かれ二十分くらい歩き、男の人二人は私をここに座らせ、ガムテープをはがしてロープで縛りなおした。

 念のため辺りが静かになってからも数分じっとしていて……今に至る、というわけ。

 意識があれば、縛られる時に多少の細工ができる。背中に近い側……今回は右手を、左手首に垂直に当てる。左手もなるべく斜めにして、両手の接する面積を少なくした。これも楓に聞いたことなんだけど、こうしておくと手首とロープの間に隙間ができて、縛られた後でも抜け出せるらしい。

 試したことはなかったけど、今こそその効果が明らかになる。上手くできたか不安を抱えつつ、少しずつ手首を捻って隙間を大きくしていった。確かにさっきまできつく食い込んでいたロープにゆとりが生まれる。

 少し痛いが、力いっぱい引き抜いた。肌がすれ、残った右手が締め付けられる。

「んー!」

 突然、すぽんと手が自由になった。すぐに右手も抜け立ち上がることができる。擦れて赤くなった腕を擦りながらもう一度周りを見回した。私が持たれていたのは太いコンクリートでできた柱で、ロープはそれにぐるぐると巻き付けられている。

 少し考えてからロープをほどき服の下に巻いた。楓みたいだなとつい笑ってしまう。それにしても、本当に抜け出せるなんてびっくりだ。もしも誰かに縛られる際にはぜひ、この方法を試してほしい。

 時雨は大きな油断をしている。私が本当に眠っているかろくに確かめもせず、こうして一人で残しているのがいい証拠。その隙をつくしかない。

 ゆっくり歩きながら考えた。天井や壁を走る太いパイプを眺めながら、何かないかと探していく。やがて突き当り、出口がないのを確認して元の場所へ戻った。私をここに連れてきた人たちはもうここにいない。つまり、必ずどこかに出入り口があるはずなんだ。

 何度か行ったり来たりを繰りかえし、あることに気がつく。壁のある一か所だけ、パイプが通っていない。近づいて表面を撫でた。何の変哲もないただの壁、だよね……。押してみるがびくともしない。掌で叩いても何も起こらなかった。もしかしたら、外からなら開けられるようになっているのかもしれない。

「どうしよう……」

 もう一度、ぐるりと部屋の中を歩く。一辺八メートルほどの、狭い部屋。柱は三本、天井や壁にはパイプ……。ふとどうして真っ暗じゃないのかが気になった。どこかから光が入ってきている?

 壁と柱の間の狭い隙間を覗き込んだ。パイプが邪魔だがよく見ると、下のほうは壁ではなく空間があるようだ。なるほど、ここから外に繋がっているのかも。

 パイプさえなければ入り込めないこともなさそうだが、なんといってもこれが邪魔すぎる。こうなったら壊してしまおうか?

 手をかけて揺らす。見た目ほど頑丈ではないらしく、大した力をかけずとも左右に動いた。なんだ、これなら壊せちゃうかも!

 意を決し全力で引っ張った途端、かくんとパイプが横にスライドした。

「……きゃあ!」

 勢い余って床に倒れこみ、肩を打ちつける。じーんと痛みが広がった。

 ――ゴゴ、ゴゴゴ……

 鈍い振動を感じた。慌てて起き上がり、後ろに下がって様子を見る。揺れは次第に大きくなり、私に見守られて柱が動き出す……!

 直径五十センチはあるだろう柱が、ゆっくり天井に収納されていった。ズーンという地響きとともにパラパラとコンクリートのかけらが降ってくる。今まで柱があった場所にはぽっかりと穴が開いていた。

「すごい……」

 思わず呟く。きっとからくりだ。からくり屋敷みたいでかっこいい。

 こわごわ覗き込んだ。そんなに深くない。すぐそこで横に折れ、さらに奥に続いているようだ。

 入ろうとして、明かりが漏れていたあの空間を思い出す。見てみるとそこには鉄格子がはまっており、その奥は明るい。試しに格子を揺するがこちらはしっかり役目を果たしていた。この先に進むのは無理そうだ。

 意を決し、穴の中にすとんと降りた。狭いけど通れないことはない。なんのための穴なのか分からないけど、所々下から光が入ってきているため真っ暗じゃないのが少し心強かった。

 両手両膝をつき、ゆっくり穴の中に入り込んだ。この先がどうなっているのかは分からない。でも、なんとしてもここから逃げ出して楓と合流しなくちゃ。

 私が連れていかれたあと時雨が何か話していたようだけどその内容は聞こえなかった。私が人質になっていたりするのなら、自力で脱出できたら楓たちに大きく貢献できる。

「楓……頑張るよ」

 私だって、やればできるもん!

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