Stage3――反撃開始
「―――――っ!!」
頭を抱え、声にならない声で呻いた。
「おい……彩花」
漣が肩を揺らしてくる。無視していると軽く頭を叩かれた。
「ったく、いつまでそうしてんだよ! さっさと美青探しに行って、ついでに時雨の野郎ぶん殴ろうぜ」
「…………」
「いい加減にしろ! ここにいたってなんの解決にもなんねぇんだぞ!」
「……うるさい、分かってる!」
手を振り払って立ち上がり漣を睨みつけた。彼は驚いてその場に固まる。
「あ……ごめん」
鈴音を簡単に捕らえられ自分の甘さを激しく悔いる私を彼なりに励ましてくれていたであろう漣につい八つ当たりをしてしまったことを、すぐに後悔した。
「そうだよね、早く探さなきゃ。……ありがと」
決まり悪そうに顔を背けた漣はぼそぼそと呟く。
「なんだよ、やけに素直だな。お前らしくねぇじゃん、そんな顔するなよな」
どうやら私は常に厳しい顔をしていないといけないようだ。
「らしくないって何よ。まぁいいや、今はそんな場合じゃない。会長、そろそろ時雨のこと教えてもらえますか?」
気を取り直し、心ここにあらずといった様子で地面の一点を見つめる会長に頼んだ。
「……美青を探すんじゃないのか?」
会長にしては珍しく鋭さのない目で私達を見る。
「闇雲に探すより、時雨の趣向を知ってからそれなりに見当をつけた方が効率良いと思います。あの人、絶対見つからない自信があるみたいだったので」
「確かにな。……分かったよ」
会長は大きく息を吐き出すと壁に背中を預けその場に座り込んだ。私達も同じように座る。これから何が起こるか分からないのだ、体力はなるべく温存しておいた方がいい。
「時雨とは高校の時からの付き合いだ。最初は嫌な奴だと思っていたが、なんとなく気が合ってな、いつからかつるむようになっていた。勉強、スポーツ、ゲーム、あらゆることであいつと競ってた。同じ大学に行って……そこでも主席を取り合ってたな」
昔を懐かしむように、会長は静かに語った。彼らの学生時代、そしてその後のことを。
「大学卒業後、大学院への進学を決め情報分野の研究を続けた時雨に対し、俺はIT系の会社を起業した。自分で言うのはなんだが圧倒的頭脳と画期的なアイデアで、3年で業界トップに上りつめる。海外へ進出し、最先端の開発者達と一年間修業した。一方、時雨は恩師の誘いで渡米、某有名大学で教授をしながら研究を続けていた。2年後には独自の研究室を持つようになる。
俺達が再会したのは大学卒業から4年後の夏、きっかけは時雨から送られてきたメールだった。なんの前振りもなく、俺とお前どっちが先に世界を牛耳れるか競おうと持ち掛けられる。乗り気でない俺に時雨は、自分が世界を終わらせ、才ある者以外は滅ぼすと宣言した。
最後に会った時……あれは去年の今頃だったが、あいつは別れ際こう言った。
『楽しいなぁ、飛牙……世界が終われば俺の勝ち。もし出来なかったらお前の勝ちだ』」
「あいつは今の社会を壊そうとしている。そして俺はそれを防ぎたい。俺の主張はな、たとえ秀でた才能なんてものがなくたって、人間には価値があるってことだ。あいつに他人の命を奪う権利があるはずがない。だから一般人から仲間を集めて、あいつに示そうとしていた。お前が滅ぼそうとしてる命の中に、お前が言う生かすべき人間ってのもいるんじゃないか。その可能性を皆が持っているんじゃないか、ってな。それしか……あいつを止める方法を、思いつかなかった」
会長が絞り出した声は、苦痛に満ちていた。昔の友が間違った道に進んでいる。それを止めることのできない己の無力さに苦しんでいる。私に出来ることは……。
「簡単じゃないですか。私達で美青を見つけ出して、爆弾も解除してここにいる人達全員を救う。そして時雨に示しましょう。会長が言うように、人が……私達が持っている可能性を」
私が淡々と言うと、彼はしばらくぼんやりと私を見つめていたが、やがて俯いた。
「…………」
何か呟いたが喧騒に掻き消されて聞き取れない。
「会長?」
「……ふふ、ふふふ――――そうだな。そのとおりだ、彩花!」
突然笑い出したかと思うと顔を上げる。そこにはいつもの冷たい微笑が浮かんでいた。
「俺としたことが弱気になっていた。ありがとな、お前達」
すっくと立ちあがり、時雨が消えた路地の先を見据える。
「あいつのねじ曲がった考えを、叩き直してやろうじゃないか」




