Stage2――新たな課題
「時雨! お前、何考えてんだ! 下らないゲームなんてやめろ!」
ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる男に向かって会長が叫んだ。こんなに必死な会長を見るのは初めてで、時雨への警戒を強めてしまう。
「ふふ、やめるわけないのは分かってるだろ。折角こんなにも素晴らしい舞台を用意したんだ、楽しませてもらわなきゃ」
薄気味の悪い笑みを張り付けて時雨は続ける。
「なぁ飛牙、お前の言う救う価値のある人間ってのは、まさかそいつらのことか?」
視線だけをこちらに向けた。汚い物でも見るような、冷たい侮蔑の目。この男はきっと、なんの躊躇いもなく私達を傷つけることができるだろう。そんな気がした。
この男、鈴音にだけは……。鈴音?
はっと振り返る。ついさっきまでそこにいたはずの鈴音の姿がない!
「……っ!」
鈴音、と叫びそうになるのを必死にこらえた。時雨の目の前で本名は呼べない。
すぐに漣も鈴音の失踪に気が付いた。
「美青!!」
私は叫ぶ。駆け出そうとする私の足を止めたのは時雨の押し殺した笑い声だった。
「くくく……なんてことはない。飛牙! お前と一緒にいたのはこいつだな。随分特別扱いしてるじゃないか。よっぽどすごい人間なんだろうなぁ!」
屈強な男に引きずられて、鈴音が時雨の後ろに現れた。そんな、いつの間に……!?
手を後ろで縛られているのか、口も布で塞がれている。
「その子に……手を出すなっ!」
会長が苦々しく声を絞り出した。
「美青っ!」
駆け寄ろうと一歩足を踏み出したところで時雨が両手を広げる。
「おっと、いいのかな? こいつがどうなっても?」
人質ということか。仕方なくその場で立ち止まる。
「それなら私を連れてけばいい! 美青を離して!」
私の悲痛な叫びは時雨に軽くかわされた。
「お前に用はない……美青か。おい、調べておけ」
ここからでは姿が見えないが、向こうにはまだ仲間がいるらしい。迂闊な真似はできないか。
誰かにそう命令した時雨は鈴音を捉える男になにやら耳打ちする。
頷いた男は鈴音を連れて行こうとするが、鈴音もおとなしく従うわけではない。しっかり足を踏ん張って時雨を睨み付けた。
「ふふふ。今、この場の主導権を握っているのは私だ」
強気な発言と共に手を一振りすると、さっと駆け寄った細身の男が白い布で鈴音の鼻を覆う。
「――!!」
身を捩り抵抗を見せた鈴音だが、すぐに力が抜けぐったりと膝をついた。すかさず男二人が両側から彼女を支え、私達の視界の外へ運んでいく。鈴音に何したの……? やめて、連れて行かないで!
「美青……」
なす術なく立ち尽くした。守らなきゃいけないのに、どうしたらいいのか分からない。ただの高校生でしかない私に、一体何ができるというの……?
「お前、ざけんじゃねぇ……。卑怯だろ! 美青をどうする気だ!?」
漣が語気を荒げる。
「いいのか、そんな口をきいて? あいつをどうするかは俺次第なんだぜ」
時雨は口を歪ませて笑った。どうしたらいい? どうすれば、鈴音を返してもらえるの?
「……何が望みですか。どうすれば、美青を返してもらえますか……?」
声の震えを必死に押さえて、静かに尋ねた。鈴音を返せと叫びたくなるのをなんとか堪える。時雨は面白そうに目を細めた。
「良いね。己の無力さを思い知った顔ってのは、やっぱり良い。特に君のような――」
何か言いかけた時雨を遮って、
「時雨っ……!」
会長が一歩前に出た。
「くくく……なぁ飛牙、そろそろはっきりさせようか。お前と俺、どっちが正しいのか」
そろそろ? 何の話をしているの? そんなことより、鈴音を……!
「お前達のために新しい課題をだしてやろう。この島には爆弾が仕掛けてある! 止めるには制御装置を作動させるしかないがその場所はお前たちには教えない! ここにいる屑共の命を救いたいのなら、爆弾が爆発するときまでに装置を作動させてみろ。そして――」
捲し立てた時雨は一旦言葉を切り大きく息を吸い込んだ。
「園内のどこかに美青とやらを監禁した! 助けたいんだろう? 大事な人間なんだろう? 見張りは置かない、助けてやればいい。見つけ出せるものならな!」
もし時間内に見つけられなければ……彼女の命は、もちろんない。時雨はそう締めくくった。




