Stage1――敵との遭遇
「美青、大丈夫? 怪我してない?」
建物と建物の隙間、人二人がギリギリすれ違えるほどの狭さの路地に逃げ込んだ。真っ先に鈴音の無事を確かめる。
「うん、大丈夫……」
彼女の声が震えていた。そっと肩をさする。
路地の外をおびただしい数の人が通りすぎていくのが見えていた。秩序とは真逆の、訳の分からない混乱が場を支配している。皆が走ればとりあえず自分も走る、これは日本人の国民性なのだろうか? こんな時こそ自分の置かれた状況をよく把握し、最善の行動を取るべきではないのか。
そして今の私達の最善手は……。
「会長、時雨についてはまた後で教えてください。とりあえずミッションについて整理しよう」
皆緊張の面持ちで頷いた。
「ねぇ、時雨……って人は何がしたいの?」
鈴音が早速究極の問いを投げ掛ける。私は会長を見るが、彼は頷くだけで何も言わない。……そうですか、私の考えを聞きたいと。
まだ全てに結論を出したわけではないが、とにかく話し始める。
「単純な目的は半分の人の殺害……。ミッションの説明聞いてる感じ、私たちに潰しあいさせたいのかな」
「潰しあい?」
漣が反応した。
「うん。だってさ、ミッションの成功報酬が相手の命と他の誰かの命、どっちを犠牲にするかの選択権だよ?」
一瞬考えた漣が呟く。
「そうか、二人で残ったペアは自分達が助かるために他ペアを潰すミッションをする。てことは結局、実際に生還できんのは半分もいない?」
「そういうことか……。でもどうだろう、皆どっちを選ぶんだろ?」
鈴音が首を傾げ続けた。
「相手のために死ぬ覚悟なんてあるのかな」
おぉ、彼女にしてはなかなかシビアなことを言う……。
「いくら100万で救えるって言ってもさ、そんなのそうそう払えないよ。それに皆本当に死ぬことになるって思うのかな、悪い冗談か何かだと思いたくなるよね。そこに現実感を出すために時雨が何かするかどうかだけど……」
私の後に続いたのは会長だ。
「詳しくはまた後で話すが、あいつならやりかねない。どんな手を使ってでも命の駆け引きを意識させるだろうな」
なんだか漫画のような展開になってきた。借金にまみれた男達が命を懸けてギャンブルをする、そんな話があったような……。まぁいい。
「それなら簡単ですね、誰も自分が残るなんて言わない。かといって相手に死んでくれと言うのも出来ない、或いは相手が認めない。そうなったら二人で残って周りを蹴落とすしかないじゃないですか。まぁよっぽど金持ちとかなら話は別だけど」
「それにさ、二人で残るって決めたとするだろ? でもその決定の操作って一人でするんだよな。相手が自分だけ生き残る方を選んでないかは分かんないんだよ」
漣に言われこのミッションのさらなる恐ろしさに気づいた。
「そっか。そうなると簡単には回答者を決められない。1ペアがミッションをクリアするのにも相当な時間がかかるね。タイムリミットまでにミッションに参加できず、そのまま抽選権を失う人が出てくるかも」
今のこの混乱が一旦落ち着き、ミッションに参加するものが出てくれば、皆そのことに自然と気がつくだろう。アトラクションの列は進まず、焦り始める。自分が生き残るために、他者を蹴落とす競争が始まる。それはとても醜い、愚かな乱闘。きっとどこかで私達の様子を見ている時雨が嘲笑う。「ほら見ろ人は、結局自分のことしか考えない」と。
「時雨は島に残った人には沈んでもらうって言ったよね。どうするつもりなのかな?」
鈴音に言われ彼の言葉を思い出してみる。
「えーっと……。『残された半数或いはそれ以上の方々には海の底へと沈んで頂きます』だったっけ。それと『あの時計の針が10を指した時、この島と本土とを繋いでいる橋を破壊し、皆様を島ごと墓場へ誘います』。墓場っていうのが海底なのかな」
会長は顎に手を当てて少し考えていたが、徐に口を開く。
「そうだな……。あいつのことだ、自分の言葉を文字で表すなら、大方“大海原”とでも書いて"はかば"と読ますんじゃないか?」
え……なにその厨二的なルビは。多少呆れにも似た感情が芽生えた時だった。
「ふふふ……流石飛牙、よく分かっているね」
どこからともなく響く冷たい声に背筋が凍りつく。
振り返った先、白い光を背に立つ男の影が長く伸びていた。




