Masquerade Of Nightmare
「時雨っ……!」
会長が小さく叫んだ。
「知り合いですか? この喋ってる人?」
尋ねると彼は素早く頷く。
「望月時雨だ、間違いない。あいつ、何を――」
焦った様子の会長の言葉を遮って謎の男の声は続けた。
『ふふふ、ようこそ皆様、楽しい悪夢の世界へ……。私が大変勝手ながら“悪夢の仮面舞踏会”と名付けさせて頂きました遊戯を、そろそろ開演致しましょうか……。さぁさ、ご準備は宜しいですか……?』
聞くだけで薄気味の悪い笑みを浮かべる男の顔が浮かんでくるような、そんな不穏な話し方だった。言いようのない恐怖を感じる。この男……時雨といったか、ただ者ではなさそうだ。
『おっと、説明を忘れていましたね……これは失礼。皆々様にはもれなく、私共がご用意致しました遊戯にご参加頂きます……。なに、規定は至って簡単。ちょっとした課題に挑戦して頂きまして、成功ならば解放、失敗ならば……死を以て償って頂くだけに御座います……』
私達の困惑、混乱を気にすることなく時雨は淡々と誰にともなく語り続ける。
『課題につきましてはまた後ほど、詳しく説明致しますとして、規定並びに仕組の詳細をお伝えせねばなりませんね……。残念ながら皆様、ここで悲しい発表が御座います。本日この遊園地からお帰り頂けますのは、多くとも皆様の半数で御座います。言い換えますと、残された半数或いはそれ以上の犠牲者にはこの島諸共、海の底へと沈んで頂きますので何卒記憶に留めて頂きたく……』
広場にはざわめきと失笑が広がっていた。誰もこんなゲーム、本気にしてはいない。成功すれば解放、失敗すれば死……? 普通なら手の込んだ演出か何かだろうと笑って終わるところだが、顔面蒼白な五十嵐を見てはそうもいかない。彼のこの反応、時雨とかいう奴は本気で……。
『恐縮ながら皆様の外部への連絡は不可とさせて頂きました……お許し願います。現在ここにいる八万六千七百三十四名の皆様の力のみで課題の達成を目指して頂きましょう。終了時刻は夜22時、閉園時間と同じに致します。中央の時計をご覧ください……あの時計の針が10を指した時、この島と本土とを繋いでいる橋を破壊し、皆様を島ごと大海原へ誘います。あぁ、あくまで私共の狙いは皆様、お一人たりとも決して漏らさず殺して差し上げますのでご心配なさらず……』
直接的な表現に寒気が走った。ここは人工の浮島に作られた海上遊園地、確かに連結部を全て破壊すれば夢の国は逃げ場のない“密室”と化す。あとは生かすも殺すも自分たちの思うまま、というわけか。
彼の説明を聞きながらスマホを開いていた。外部への連絡は不可、そんなルール私達が守るとでも……。
試しにと親に送ったメッセージが、『送信できません』の表示と共に返ってくる。まさかと思い掛けた電話も『お掛けになった電話は――』というテンプレが流れるだけだった。鈴音、漣も同じようで険しい顔を見合わせる。
この異変に気が付いたのは私だけではない。大きな不安が人々の間に広がっていた。それでもパニックが起こらないのは、まさか本当に命の危険があるとは誰も思っていないからだろう。86……734人だったか、この人数でパニックが起これば最後、大混乱は避けられない。時雨とかいう奴がどんなミッションを課す気か知らないが、出来ることも出来なくなる。
『時間まではまだ半日以上御座いますので、焦らずじっくり、お楽しみ頂けるかと存じます……。さて、下らぬ無駄話はここまでにして、いよいよ本題に入りましょうか。ご傾聴頂ければ幸いに御座います……』
そして時雨は語った。恐ろしくも意趣卓逸なミッションの全容を……。




