11回目の鐘の音は
「彩花ー!!」
人混みの向こうから声が聞こえる。
「あーやかーー!」
なんであんなに楽しそうに呼ぶのだろう。急いで声の方へ進み、すぐに鈴音の姿を発見した。
「美青! 大声で呼ばないでよ、恥ずかしい」
文句を言うと彼女はてへっと笑う。
「だってさ、全然見つからないんだもん」
「こんなに人がいたら見つけらんねぇよ」
珍しく漣に同感だ。どんどん人が増えてきている気がする。
10:30、敷地中央にある広場に私達は集合していた。お互いの担当エリアを一通り見て回り、次の作戦について話し合う。
「何か成果は?」
主導権を握る会長に鋭い視線を向けた。
「美青に変なこと――」
言いかける私を遮って、
「してないしてない、ちゃんと連れてきただろ。ほっといて迷われた方が面倒だ」
心なしか早口に弁解する。怪しいな、会長にしては珍しい。
「……分かってましたよ、それくらい。それで、何か発見しました?」
あまり期待はしていなかったが一応聞いておく。答えは案の定、
「特に何もないな。とにかく人が多いだけだ」
会長はやれやれと首を振った。
「こっちもなんもねーよ、どうすんだこれ? ほんとにブツの受け渡しなんてすんの? そんな漫画みたいなさ」
「その情報ってほんとに正しいんですか?」
「そもそもどこから手に入れたんです?」
3人に矢継ぎ早に質問され会長も言葉に詰まる。
「えーっと、そうだな、正しいはずなんだがな。漫画みたいか、確かにそうだが……あいつのことだしやりかねない、いやむしろ率先してやるだろうし。今更嘘なんていわないだろうしな……。でもこれは明らかに俺達に不利、というよりもう打つ手ない気もしてるんだが…………」
後半はほとんど独り言のようにぶつぶつと呟き続ける。私達は顔を見合わせた。漫画みたいなことをやりかねないあいつとはいったい誰なのだろう。それにさらっと打つ手ないって言ったぞこの人……。
「あのー? 五十嵐さん……」
鈴音の呼びかけも聞こえないほど自分の世界に籠っている。漣は肩をすくめた。
「しょうがねぇ、彩花みたいなやつだな――」
それは聞き捨てならないな。
「――俺達で考えとこうぜ。例えばさ、なんでこんなイベントで人が多い日に設定したのか、とか」
いちいち突っかかっていても仕方がないので不満を飲み込み、その謎について考える。
「なんでだろう。混んでた方がどさくさに紛れて渡しやすいと思ったのかな? でもその分目撃されやすくなるかもしれないよね。はい結翔君」
鈴音により新たなルールが追加された。発言できるのは指名された人らしい。
「そうなんだよな。確かに通りすがりに受け渡されたら絶対見つけらんねぇけど、今までの感じ俺らにもチャンスはあるっぽいんだろ? なぁ彩花」
「ん、そう……だね。って言ってもあの猫を捕まえた時しか知らないから、私達が入会する前がどんな感じだったのかは分からないけどね。美青、何か聞いてない?」
「えぇ、聞いてないなぁ。会員って私達だけでしょ? まだこの会自体出来たばっかなんじゃないかな。結翔君はどう思う?」
「俺かよ、わっかんねぇって。五十嵐がなんとなく怪しいのは感じるけど。あ、そうだ美青、お前から見た五十嵐の印象って……」
「あ!」
ルールを破って声を上げてしまい2人に視線で責められた。
「あぁごめん。でもちょっと待って、分かったかもしれない」
「ほんとか!?」「ほんとに!?」
2人の圧がすごい。しまった、言うんじゃなかったな。
「あの、分かったっていうか仮説思いついただけなんだけど……」
「それでいいよ、言って!」
鈴音に輝く目で見つめられ切り出した。
「ずっと、五十嵐がどうやってSOの情報を得てるのか、なんでそこまで信用してるのか不思議だったの。でもその情報が、SO本人から流れてきてるとしたら?」
漣は眉を寄せる。
「本人から? それって……」
「私は、五十嵐もほんとはSO側の人間なんじゃないかって疑ってた。でもそれならこうまでして仲間集めたりする必要ないんだよね。勿論その可能性もないとは言わない、けど、それよりも五十嵐はSOと繋がってて、その上で何かしらの勝負のようなものをしている、そう考えた方がすっきりしない?」
喧騒がすっと静かになる。そのように錯覚するほど、私達は集中して考えていた。
「……じゃあ、私達は――」
数秒後、やっと発せられた鈴音の呟きを掻き消すように鐘の音が響き渡る。
リンゴーン、リンゴーン、…………
重々しい、現実離れした厳かなその音に、園内の人々の注意は引き付けられた。
リンゴーーーーンーーーーーーーー………………
無意識に数えること11回、澄んだ余韻が長く残る。時計を見ると針は11時を指していた。9時、10時に聞いた覚えはないが毎時鳴っていたのだろうか?
再び広場にざわめきが戻った時だった。
『Ladies&gentleman!!!! Welcome to masquerade of nightmare!!!!!!』
嘘くさいほどに美しい発音で、自分で言うには恥ずかしいような放送が自信満々に始まった。




