この先に大きな試練が待っている――本当に進みますか?
6月9日、日曜日。清々しい朝の陽射しの中、私は漣と残るメンバーの到着を待っていた。
時計を見ると5時38分、集合時刻まであと22分……。
沈黙を破ったのはもちろん漣だ。
「東リパ、行ったことある?」
「ない」
東リパ――東京・リリーフ・パテティーク。鈴音曰く意味は……何だったっけ。確か、○○の楽園。基本的にいつも混んでいるし、料金も高いのでそれほど行きたいとは思わない。
「ふーん。なんで?」
漣は花壇に腰掛け、足を組んで横目で私を見る。
「……別に行きたくないし」
私はその数メートル横に立っていた。なぜ、こんな早くにこいつがいる?
「あっそ。じゃあ今日初めてなんだな」
「そうだけど。何?」
特に中身のない会話を始めた漣の意図が読めない。不審に思いながら彼を観察する。
学校では制服なので私服を見るのは初めてだ。もっと激しく鋲とかチェーンとか付いた服なのかと思っていたのに、そんなことはなく普通だったのがむしろ残念でもある。何かしら英語が書かれた暗めのジーンズにやはり暗めな水色の開襟シャツ、その下には白ロング丈Tシャツを覗かせていた。私はファッションに興味がないため詳しくは分からないが、何かのブランドだったりするのだろうか。
「別になんでもねぇよ。なんか怒ってる?」
「こんな朝からあんたと話してて機嫌良いわけないでしょ」
漣はさも意外という顔をする。
「なんでだよ」
「なんででも!」
まったく……。今日の任務は不安でしかない。昨日からずっと嫌な予感がしていた。
暖かさを増した日光を葉の緑が照り返す。居心地の良くない静寂が自動車のエンジン音で破られた。
「おはよー! 2人とも早いね!」
5時55分、黒い高級車から元気に現れたのは鈴音だ。
「おはよ」
微笑んで挨拶し、漣も手を上げて応える。
「今日は……少しはましな格好で来たね」
本日の鈴音の服装は、膝上カーキのフレアキュロットに白いレースのトップス……靴はリボンの付いた黒のフラットシューズ。
私の言葉に鈴音は不満げだ。
「ましってひどーい! ねぇ漣君、どう思う?」
突然話を振られ驚く漣。
「は? どうってなにがだよ」
「なんでもいいよ?」
男子にそういうこと聞くのは良くないと思うな。しかし漣はもっともらしいことを言う。
「そうだな……。どうせ夜城にサンダルとかスカートはやめろって言われてんだろ? 最低限それを守りつつちゃんとそれらしい服装にしてる。そういうふわふわした服はお前に合ってると思うぜ」
そして余計なことに、横目で私を見ながら続けた。
「お前がファッションとかに興味ないのはまぁ思ってた通りだけど、今日は一応ペアイベントに行くんだからな? もう少しは女子っぽい服着て来いよ」
これでも少しは気を遣って選んできたのだが……。多少むかついたので冷たく見据え言い返す。
「うるさい、何を着ようと私の勝手」
「今日は俺の連れなんだぜ?」
「思い上がるな」
確かに今日は、私達は共に行動しなければならない。しかしこんなやつに連れと言われるのは御免だね。
「もう、仲良くしよーよ。でもさ、楓の服いつもより可愛い!」
そう言って鈴音はにっこり笑う。
「……ありがとう」
そんなにいつもが酷いのだろうかと少し考えた。次に私服を着る機会があったら……。
「ただのジーンズとシャツとカーディガンじゃん」
漣がつまらなさそうに言い、
「そっちだってただのジーンズとシャツでしょ」
私が言い返したところで一台の車が目の前に停まる。
青い軽自動車の窓が開き、運転席から会長が私達を呼んだ。
「全員いるな。早く乗れ」
すぐ急かすよな。私と鈴音は迷うことなく後部座席に座り、小さくため息をついた漣も助手席に乗り込んだ。
「出発するぞ」
「はい!」
もう戻ることはできないか。覚悟はできた、準備は万端とは言えないが、できることはした。あとはもうどうにでもなれだ!
『この先に大きな試練が待っている――本当に進みますか?』
『――はい』
長い長い1日が、ようやく始まろうとしている。




