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救世チュートリアル  作者: 紫吹
第三章:入会審査はほどほどに
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彼はどんな人間か? 結論と結果

 翌日。私は朝から大変イラついていた。

「よぉ。遅かったな」

 昇降口にて私の行く手を阻んだ(さざなみ)冬真(とうま)がにやりと笑う。

「……何か用?」

 ぶっきらぼうに尋ねた。なぜイラついているのかって? ……色々あったのだ。

 まず、大前提として私は学校というものが嫌いだ。人付き合いが苦手な私にとって、多数の人間と狭い空間で長時間過ごさなければならない高校生活は苦痛でしかない。だから学校にいるとき私は、基本的にテンションが低く機嫌が悪いと言える。

 さらに今日は登校中突然雨に降られ、それだけならまだしもトラックに盛大に水をかけられた。珍しいことに、鈴音は寝坊したと言って使用人に車で送ってもらっていたため、彼女に被害が無いだけ良かったが制服が濡れるのは面倒で嬉しくない。

 しかもそんな時に限って歩道の整備が始まっており、昨日までは使えた道が通行止めになっていた。もちろんそのことは看板で告知されていたので見ていなかった私が悪いのだが、迂回したことで遅刻ギリギリにやっと到着したと思ったら、漣のやつに声をかけられたというわけだ。

「てかおまえびしょ濡れじゃん、どうしたんだよ」

 前髪から滴る雫を払った。

「どうでもいいでしょ。どいて」

 漣が私の靴箱の前にいるせいで上履きを取ることができない。そろそろ朝のSHRが始まるというのに。

「俺も入会させてくれるならどいてやるよ」

 またそれか……。大きく息を吐き出した。

「……私、今すごくイライラしてるの。邪魔」

 最大限の敵意を込めて睨み付けた。自慢ではないが、私が一目見るだけで騒ぐ男子どもが黙りこむくらいの冷たさは持っている。

 ところが漣は、さすが元不良といったところか微塵も怯んだ様子はなくすっと私を見下ろした。

「あぁ? おまえが俺に勝てるとでも思ってんのか?」

 視線を逸らした方が負けな気がして、数秒間そのまま睨みあう。これが漫画なら激しく火花が散っているところだ。

 そんな拮抗を破ったのは、パタパタと足音を響かせて登場した鈴音だった。

「あ、楓! 良かった、心配してたんだよ……あれ、漣君じゃん」

 思わず2人とも彼女の方を向いてしまう。

「ねぇ、もうチャイム鳴る……って楓、なんでそんな濡れてんの? びしょびしょじゃん! ハンカチじゃ足りないか、保健室行こ。あ、でもその前に教室行った方がいっか」

 忙しない鈴音に口を挟む隙がない。

「そういえば2人何してたの? 楓、早く靴替えて。漣君そこどいて?」

 鈴音の勢いに負けおとなしく横にずれる漣。

「おまえらに話があるんだけど」

「今じゃなきゃダメ? あ、じゃあ昼休みに3組に来てよ。そしたらちゃんと聞いてあげるからさ」

 なお食い下がる漣をなんなくかわす。

「鈴音! そんなの聞く必要は……!」

 反対するものの、

「まぁいいじゃんそれくらい。そんなことよりもう時間ないんだから、早くしないと!」

 やけにてきぱきした鈴音に引っ張られ仕方なくその場を後にした。


「……楓が怒るなんて珍しいね」

 1時間目は現代文の授業だったのだが、先生に言われ保健室に来ていた。面倒だった私はすぐ乾くから大丈夫だと言ったものの、「風邪引かれたら困るから、如月さん連れてってあげて」ということで鈴音とともに授業を抜け出すことになったのだ。

「私、漣苦手なんだよね。なんかイライラするんだよ」

 冷静に対応すれば、いくらでも切り抜けることはできたはずだ。あんなやつに張り合うだけ無駄と分かってはいるのに……。それにしてもさっきの鈴音は頼りになったな、私がいない方が彼女はしっかりするんじゃないだろうか。

 借りたタオルで髪を拭きながらため息をついた。このまま彼が入会することになれば、またあいつと会い、話し、協力する羽目になる。協力……? そんなの不可能だと思うのですが?

「仲良くなろうよ、そんなに悪い人じゃないって言ってたじゃん」

「いやー……この前会った瞬間暴言吐かれたし……」

 私の心象は最悪なのだ。

「それはおまえが突然現れたからだろ」

 いきなり背後から声をかけられた。

「びっくりしたー!」

 驚いて立ち上がった鈴音が振り返る。

「突然現れたのはそっちじゃん」

 横目で一瞥(いちべつ)すると漣は意地の悪い笑みを浮かべた。

「油断してただろ、隙だらけだったぜ?」

 油断も何もなぜ学校で、しかも保健室で気を張っていないといけない?

「今授業中なんですけど、よく抜け出してきたね」

 さすが元不良。

「なんでここにいるって分かったの?」

 鈴音が尋ねる。これからは彼女に会話係になってもらおうか。

「しょーがないだろ、気分が悪くなったんだから。あんなにずぶ濡れのやつが授業受けさせてもらえるわけねーじゃん」

 悪びれもせず、私たちの向かいの椅子に座った。

「昼休みまで待つかよ、今聞いてもらうぜ」

「いやだ」

 即座に断ると鈴音になだめられる。

「ねぇ楓、まぁいいんじゃない?」

「……分かったよ。入会したいんでしょ、なんで私たちに言うの?」

 諦めてそう尋ねると、漣は衝撃的なことを言う。

「おまえらが怪しげな会に入って怪しげな活動してるって話、すげぇ噂になってんだよ。だからおまえらに連れてってもらおうと思ったわけ」

 なんだその噂は、なんて迷惑な! 誰だ、そんな根も葉もない……ことはないか。確かに怪しげではあるしなぁ。怒りのやり場がなくなってしまった。

「えぇー、そんなこと言われてるの? 失礼だな、私たちは世界を救ってるのに」

 鈴音、そういう問題じゃないと思う。

 とはいえそこまで話が広まっている以上、今さら隠しても無駄だろう。むしろ我々の正当性を主張したいくらいだ。

「そもそもなんで入りたいの?」

 素朴な疑問を口にしたところ、漣の答えは……。

「面白そうだからに決まってんじゃん」

 こいつ、鈴音と同レベルだな。


 その日の放課後、漣を五十嵐会長に引き合わせた。私たちにしたような面接をその場で行い、あっさり入会が決定したのだった。

 彼はどんな人間か、私の結論を出しておこう。集団生活を好まない、自分本意な性格の持ち主。ただある程度仲良くなってしまえば恐らく仲間思いでなんだかんだ慕われている。どのような事に興味が向くのかはまだ分からないが、とことん追求しようとするあたりに鈴音的な危うさを感じた。そして、恐らく私とは相容(あいい)れない。馬が合わないというべきか。

 好奇心で余計なことに首を突っ込み、そのくせ周りの迷惑は考えない。本当に厄介な奴だ。


鈴音が迎えの者とともに帰り、漣も帰宅した後、私は会長に残るようにと言われていた。

「で、何かありました?」

 蛍光灯の薄暗い明かりの下、私たちは向かい合って立つ。

「漣冬真についてだ、何をそんなに心配してる?」

 今日何度目か知らないため息をついた。

「不安なことは前に言いましたよね。その時反対もしました」

 その答えに満足しなかったようでもう1度聞かれる。

「それだけじゃないんだろ。何を考えている?」

 もしかしたら会長も、私と同じことを思っているのかもしれない。

「……漣はSOのスパイなんじゃないかと。私たちがここに来たのは2週間くらい前です、なぜ今さら接触してきたのか? 直接ここに来るわけでもなかったし、私たちと関わりがあれば怪しまれないと思って漣を使ったのかもしれない」

 心なしか嬉しそうに会長が言う。

「なぜそれを本人に言わなかった?」

「言ったところでですよ。スパイじゃない証明なんて出来ないし、こっちもスパイだとする証拠がない。今はとりあえず信用した振りをして、彼を近くに置いて監視したほうがいいと思いました。そういう風に考えてること、漣にバレちゃ意味ないですからね。あぁ、そうだ、本当にスパイだったら嘘の情報流して撹乱できますね」

 自然と微笑んでいた。楽しい、いっそスパイであってくれと思ってしまう。

「楓って結構悪いやつだよな」

 なんて言いながら会長も楽しそうだ。敵を騙すには味方から、鈴音には悪いけれど当分私だけで漣を監視することになった。

 だから本当の意味での入会審査はまだ、終わっていない。

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