彼はどんな人間か? 調査中
昼休み、一瞬で昼食を終えた私たちは漣冬真について聞き込みをすることにした。
さすがに彼のいる6組に押し掛けるわけにはいかないので、とりあえず5組に向かう。ちなみに私の知り合いはいないので完全に鈴音頼みだ。
「なんて聞けばいいかな?」
「……漣君ってどんな子なの? でいいんじゃない」
「なんでって言われたら?」
考えておいたほうがいいだろうな、絶対何人かには聞かれるはずだ。
「どうしようかな……。友達に聞いてきてって言われた、とか?」
「それでごまかせばいいか。よし、行こう!」
軽やかに歩く鈴音の斜め後ろをついていきながら、私は会長の真意について考えていた。なぜこんなにも大反対している漣を入会させようとするのだろう。あの人のことだ、なんとなく面白そうだから、という理由も考えられなくはないが、それだけではない気がする。そもそもなぜSSを作ったのか、SOとどんな関係があるのかもまだ分かっていない。……考えるだけ時間の無駄かもしれないな。
「ねーねー、ほのちゃん! あのさ、漣冬真君て知ってる?」
早速鈴音が情報を集め出す。
「え? 知ってるけど?」
「どんな子なの?」
“ほのちゃん”は首を傾げて少し考えた。
「どんな子かな……。たまに乱暴なとこがある気がする。私はちょっと怖いかな」
さすが元不良といったところか。そりゃ乱暴でしょうよ、口悪いし。
「なんで怖いの?」
「なんかね、目つきが……。睨んでくる気がするんだよ、気のせいかもだけど。あんまり笑ってるとこ見たことないし、まぁ話したこともないんだけどね。体育が一緒でさ、その時に見かけるだけだから」
そうか、2、5、6組は合同で体育の授業があるんだった。だから今朝話を聞いた女の子……名前忘れたけど、あの子も2組だから漣のこと知ってたんだな。
「へぇー、怖そうだね。なるほど……。5組に漣君と仲いい人いたりしない?」
鈴音すごいな、がんがん攻めるじゃん。私は近くで聞いているだけでいいので、こういうところはすごく助かる。
「サッカー部の人に聞いてみたら? ……ほら、優君とか」
ほのちゃんが視線を向けたのは、中学が同じだったためかろうじて私でも見覚えがある男子生徒だった。5人ほどの男子と駄弁っている。
「優君か、聞いてみる! ありがとね」
「ありがと」
お礼くらいはと私も微笑みかけ、鈴音と目を合わせた。あの集団の中に突っ込んでいくのはなかなか勇気がいる。
「楓……。行く?」
「…………行きたくはないよね。でももっと情報欲しいでしょ?」
こくりと頷いた。仕方ないな、ここは私が……。
「次は私が行くよ」
意を決し、ずんずんと優に歩み寄った。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そう切り出すと、6人が一斉に私を見る。私は優だけを見つめた。
「……え? 俺?」
驚きを隠せない優に頷く。
「突然で悪いけど、漣冬真ってどんな子?」
彼らは怪訝そうに顔を見合わせた。当たり前だ、ほとんど面識のない他クラスの女子がいきなりこんなことを聞いてきたら不審に思うに決まっている。先手を打つことにした。
「あのね、誰かは言えないんだけどさ、友達が漣君のこと気になってるらしくて。で、どんな子なのか知りたいんだって」
いたずらな笑みを浮かべて見せる。
「あぁー、そういう……」
「いいじゃん、教えてやろうぜ!」
単純で助かった。一気に協力的になった彼らは口々に教えてくれる。
「怒ると怖いよなー、喧嘩強いし」
「機嫌悪い時には余計な事しないほうがいいな」
「でも基本悪い奴じゃないぜ? 委員の仕事とかさ、割と手伝ってくれるし」
「サッカーは上手い、多分あいつ部活のためだけに学校来てるな」
「勉強はマジでしない。追試常連だし、テストも真面目に受けてないけど……でも、頭は良いと思うぜ。一回あいつと数学の模試でガチで勝負したけど普通に負けたし」
「そんなことしてたのかよ。じゃ、ほんとに勉強してないだけなんだな」
私の後ろから鈴音が口を挟む。
「人間関係はどんな感じなの? もしかして彼女とか……」
真っ先に答えたのは優だった。
「いや、彼女はいないと思う。……そういうの興味ないようなふりしてるけど、でも俺は興味持ってるやつはいると思ってるよ」
「男子とは幅広く仲良いかな。女子と関わってるとこあんま見ねぇけど、どうなんだろう」
「漣って雰囲気が狂暴だからさ、女子のほうが近寄らないんじゃね」
雰囲気狂暴ってどういうことよ。そんな奴と一緒に活動なんかしたくない。
「まぁあれだな。基本やる気ねぇし、授業とかめんどくせーって感じで怖がられてるとこもあるけど、仲良くなっちゃえば普通に良い奴だよ。……ってな感じでその子に伝えてやって」
優が楽しそうに締めくくる。
「分かった、ありがと!」
「あ、このこと漣君には内緒だからね?」
最後に確認しておくと、分かってるよと親指を立ててくれた。これで一安心かな。
放課後、鈴音と次の作戦を立てる。漣が大体どんな奴かは分かったし、いつまでも聞きまわっていたらそのうち本人の耳にも届いてしまいそうなので聞き込みはひとまず終了としよう。
「じゃあそろそろ、尾行でもしてみる?」
相変わらず瞳を輝かせる鈴音。
「それやりたいだけでしょ。でもそうだね、あとは本人の様子見るくらいかな」
「行こう行こう! あ、でもきっと部活してるよね。しばらく待ってないと」
鈴音は習い事が多いのと家の人に反対されたのとで部活には入っておらず、それに合わせて私も帰宅部だった。こういう時部活という制約がないのは素晴らしい。
「18時くらいまで暇だね。どうする?」
鈴音は腕を組んで考える。
「うーん、特にすることはないよね……。そうだ、サッカー上手いって言ってたし、見に行ってみよ!」
「分かった。グラウンドに行くのは怪しいから、どこか見えるとこ……北舎の3階とかどうかな」
「見えそうだね、行こ!」
スカートをはためかせて階段を駆け上がる。
窓から外を見下ろすと、多少木々が邪魔をするもののグラウンド全体を眺めることができた。
「漣君、いる?」
鈴音に聞かれ首を横に振った。
「待って、まだ探してる」
サッカー部の人達って皆髪型似たような感じだし、距離があるからなんとも……。
先に彼を発見したのは鈴音だった。
「あ、あれじゃない? 今真ん中にいる……赤い靴の人」
たしかに、言われてみればそんな気がする。味方からパスをもらい、ゴール前まで突っ走っていく。
「へぇー、ほんとに結構上手いんだね」
敵のディフェンスを華麗に交わし、そのままゴールめがけて鋭く蹴った。
「おぉー!」
ゴールバーギリギリをかすめてシュートが決まる。二人で小さく歓声を上げた。
「鈴音、これずっと見とくの?」
「え、もう飽きたの? 楓ってほんと人に興味ないよね」
人に興味がないというか、サッカーに興味がないのだ。
「部活終わったら多分家帰るだけだよ。明日昼休みの様子とか見に行けばいいんじゃない?」
鈴音は少し不満そうだったが諦めてくれた。
「うん、それもそうだね。明日にしよっか」
「さぁ、早く帰ろー」
階段を降りて教室に向かう私の後ろで鈴音が呟く。
「なんでSSに入りたいんだろうね」
「……さぁね」
彼の考えていることは分からない。ただなんとなく、理由があるとすればそれは鈴音がSSに入りたがった理由と同じようなものなのではないかと思った。




