彼はどんな人間か? 調査開始
「会長、SSに入りたいって言う人がいるんですけど!」
なんとか漣の追求を知らぬ存ぜぬで乗りきった私は、奴に尾行だけはされないように気をつけて、即SS本拠地を訪ねていた。
「……なんだ? 楓か、お前が慌てるなんて珍しいな」
コンピュタールームから出てきた会長は面白そうに目を細める。私をなんだと思ってるんだ、人並みの感情は持ち合わせているさ。
「それで、どうしたらいいですか?」
「そいつには何て言ったんだ?」
「そんなの知らないで押しきりました」
せっかく変装までして身分を隠していたのだから、私たちが会員であることは言わない方がいい気がしたんだ。……入会する時、鈴音が皆の前で私を誘ってしまっているが。
会長は少し考え込んだ。
「ふーん……。まぁ新会員は常時、募集中だしな。楓の知り合いなんだろ? どう思う?」
品定めするように私を眺める。そんなこと言われても……。しかたない、思っていることを正直に言おう。
「私は反対です。あんなやつを入れたらめちゃくちゃにされかねません。いや絶対されます」
会長はうっすらと笑みを浮かべた。
「ふん……。じゃあまず、そいつがどんなやつなのか詳しく教えてもらおうか」
漣冬真。私たちと同じ茜西高校2年生。彼とは中学も同じで、高校に入ってからはクラスが違うということもあり、私の情報は中学時代で止まっている。
一言で言えば、漣は不良だった(過去形にしたが今は違うとも言い切れない)。授業をまともに受けず、備品を壊し、女子にもよくちょっかいを出して皆から嫌われていた。
当時から鈴音と仲が良かった私が漣を初めて認識したのは、確か彼が鈴音に絡んできた時だったと思う。
可愛くてお嬢様な鈴音は漣の格好の標的で、しつこく付きまとうあいつの対処には私も手を焼いたものだ。ある意味、今の私の鉄壁の守りは漣との攻防で身に付いたと言えなくもないから、そういう点では感謝すべきなのかもしれない。
私が邪魔ばかりしたからだろう、やがて漣は私を狙うようになっていった。壮絶なバトルのエピソードは色々あるが、特に語るべきものでもないので省略しよう。私の唯一のライバルだと言ってやってもいい。
漣はテストの点も酷いもので、成績だって最悪だっただろう。そんなあいつがなぜ、どうやって私たちと同じ高校に入ったのかは大きな謎だ。最近は特に目立った話も聞かないため少しは落ち着いた大人になったのかとも思っていたが、出会いざまにあんなことを言われたら、ねぇ。残念ながら成長は見受けられない。もしかしたら不登校の可能性もある。実際、今までほとんど会ってなかったわけだし。
つまりだ、悪戯が好きでいつも物事を引っ掻き回す、迷惑の塊のような漣が入会なんてしようものなら任務の失敗は目に見えている。どうせ一時の好奇心で首を突っ込んできたのだろうし。
「……ですから、絶対入れないほうがいいです」
強い否定で締めくくった。私の話を静かに聞いていた会長は、徐に頷く。
「なるほど。お前が言うことはよく分かった。……じゃあ、その漣冬真を入会させようか」
……はい? 入会させる、だって?
「あの、えぇ? 本気ですか?」
大真面目に頷いた。
「もちろんだ。楓とやりあう勇気のあるやつなんだろ、そいつは。面白いじゃないか」
そう言ってくくく、と笑う。うわー、すごく意地の悪い笑いだ。
「知りませんよ、どうなっても。私は反対したんですから」
ところが会長はさらりと言う。
「何かあったら責任はお前が取れよ。新人の教育は楓に任せたからな」
「そんな……! 教育なんてできませんよ!」
「いいからやれ」
有無を言わさない会長に引き下がるしかなかった。あぁ、前途多難だ。
翌日、鈴音に一連の出来事を報告する。
「漣、冬真君? なんか懐かしいねぇ。仲間が増えるのは良かったじゃん!」
早速入会の件を漣に伝えに行こうとする鈴音の腕を引っ張って止めた。
「ちょっと待って! まだあるの。今の漣がどんな奴なのか調査しろってさ」
途端嬉しそうな顔をする。
「じゃあ次の任務は身辺調査ってこと? すごい、ほんとに探偵みたいだね!」
「……うん、まぁ。どちらかと言うと素行調査だけどね」
「よし! まずどうする? 様子見にいく? 聞き込みでもしてみる?」
鈴音のやる気がすごい。
「うーん……。顔バレしてるからな、あんまり近づくのもダメだし。そもそも何組なの?」
鈴音も首を捻った。
「そんなの知らないよね。じゃあとりあえず発見しに行こうよ」
「……うん。行くか。最悪見つかってもどうにかなるだろうし」
授業が始まるまで5分もないが、鈴音を先頭に2組と1組を覗きに行く。
後ろのドアを細く開けて中を見るが、ざっと見た限りではいない。
「……あ、花奈ちゃん!」
社交的な鈴音が知り合いに声をかけた。
「あ、鈴音じゃん、どうした?」
「漣君って2組にいる?」
すごく直接的だが本人に伝わったりしないだろうか? 鈴音に変な噂がたっても困るなぁ。
「漣? ううん、違うけど。何か用だった?」
案の定怪訝な顔をされる。
「えっと……」
困った鈴音が私を見た。
「さっき返されたノートに漣君のやつが混ざっててさ、届けなきゃいけないの」
とっさに考えた言い訳をする。
「ふーん。6組とかじゃなかったかな」
「そっか、ありがと。……あ、漣君てどんな人? 全然知らないんだけど」
何か知っているかもと聞いてみると、
「えー、そんなには知らないな。サッカー部で……よく追試受けてる」
有力情報が手に入った。追試か、勉強には力を入れていないようだ。
「ありがとう! じゃあねー」
「ありがとね」
最低限のお礼だけ言い、にこにこと手を振る鈴音を見ながら人脈は広い方がいいと改めて思う。でも私自身の交遊関係が狭くても、顔が広い鈴音と繋がっているからいいのではないか?
「6組行こ! まだ間に合いそう!」
小走りの鈴音を追いかけた。あと2分なんですけど……? 途中、廊下で次の授業の先生とすれ違う。
「もう授業始まるぞー」
「はーい!」
「すぐ戻りまーす」
適当に返事をし6組まで駆け抜けた。
足音をそこそこたてながらたどり着き、そっと窓から覗く。
「……どう? どんな髪型だったっけ」
鈴音が彼と会ったのは恐らく1年くらいは前だろうから分からなくても仕方がない。鈴音の肩越しに教室を見回し、見覚えのある顔を発見する。
「……あそこ、1番後ろの奥から2列目」
素早く囁き、彼に見つかる前に頭を引っ込めた。
「ん、あの人か。ちょっと変わったね、成長したのかな」
「早く戻ろ!」
呑気な鈴音の腕を引っ張って駆け出す。教室に入った瞬間、ジャストタイミングで授業開始のチャイムが鳴った。




