拠点調査 完
翌日。鈴音とともに五十嵐の待つ本部を訪れていた。
「……それで、その写真がこれなんですけど」
昨日撮った写真を見せる。
「会長ならどうにかできるんじゃないですか?」
会長? 五十嵐も怪訝な顔でスマホから鈴音へ視線を移した。
「どうにかできないこともない。それより、なんだ急に会長って」
彼女はにっこり笑って、
「一度呼んでみたかったんですよー。それにこれなら楓も呼びやすいかなって」
……ん? 私が呼びやすいだって?
「え、なんで私?」
「楓、人の名前全然呼ばないじゃん」
「そうかな」
特にそんな気はしなかったが、
「そうだよ! だって五十嵐さんのこと本人の前で呼んだことないでしょ?」
そう言われればそうだったかもしれない。
「……まぁなんでもいいさ」
五十嵐は小さくため息をつく。
「では会長、これどうにかしてください」
確かにいいかもしれないな、この呼び方。
私の差し出すスマホを受け取り、五十嵐、じゃなくて会長は軽く首を傾げて呟く。
「そうだな……あれ使ってみるか」
「あれ?」
鈴音が聞き返すのには答えず、さっさと隣のコンピュータールームに入ってしまった。私たちも後を追う。
「にしても楓」
パソコンの前に座った五十嵐が画面に向かいながら言う。
「はい?」
「変装するものは持ってるのに暗視スコープはなかったんだな」
「ないですよ。普通、高校生はそんなもの持ってません。変装って言ってもほとんどファッションですし」
伊達めがねにしろエクステにしろ、お洒落な人たちは普段から使っているはずだ。まぁ変装のために使う人は少ないだろうが。
「鈴音が言うにはお前、ファッションに興味ないんじゃなかったのか?」
「あぁ……。そうなんですけどね」
じゃあなぜ服やらなにやら沢山持っているんだ、と会長が鋭い目で尋ねてくる。
「……親がファッション関係の仕事をしてるんですよ。それで、私が着ない服ばっかりあるわけです」
会長はどうにも信用できないのでなるべく情報を漏らしたくはないが、眼力に負けて言ってしまった。
「ファッション関係だと……? デザイナーか、モデルか?」
肩をすくめてやり過ごす。すぐ詮索してくるから恐ろしい。
「母親が、か? 父親も――」
「もういいですよ! 写真はどうなんですか?」
しつこい会長を遮り彼に近づいた。鈴音も私の肩を支えにして一緒にパソコンの画面を覗きこむ。
例の写真が画面いっぱいに表示されていた。
「お前さぁ、わざわざ他の写真全部消したのか?」
呆れたようにため息をつかれる。
「そんなに多くなかったので」
短時間とはいえ会長にスマホを渡すことになるため、念には念を入れておいた。ちなみに、開いておいたアルバムを閉じると電源が切れるように設定してある。秘匿性重視のスマホを買っただけはあるな。
「そんなもの見るわけないだろ」
「1枚しかないと分かったのは枚数の表示を見たから、ですか?」
「何を疑ってんだよ、全く」
疑うっつーの。
「早くしてくださいよー」
何が起こるのかワクワクしている鈴音に後ろから急かされ、会長はもう一度ため息をついた。
「分かったよ。いいか、いくぞ」
何をするのかと思えばエンターキーを1度、カチリと押す。
「……!」
驚くべきことに、粗かった画像がみるみる鮮明になっていくではないか。
「すごい……!」
鈴音が息を呑む。
「これって……?」
私を横目でちらりと見て会長は不敵に笑った。
「俺が開発したソフトだよ。ものすごく簡単に言うと、高画質な写真とその画質を落としたものを比較して特徴を学ばせてある。お前のスマホの機種さえ分かれば適用できるようにな。今では簡単にできるようになっているが、俺の作ったこいつが最古にして最先端だ」
矛盾してないか? 要はそれだけすごいということなのだろう。珍しく嬉しそうに語る会長を尻目に写真の男たちの面相を記憶した。
「ここが拠点てことで合ってますか? この人が私たちを尾行してたんですけど知り合いだったりします?」
1番後ろを歩く男を指し尋ねる。
「状況的に判断してそうなんだろうな。なぜ知り合いだと思う?」
「敵対してるグループの顔くらい既に知ってますよね(特にあなたの情報網なら)? 相手の規模がどれくらいかわかりませんけど、この人が今までにも情報収集してるんだとすればより顔見知りかなーと」
もしかしてあなたが送り込んだスパイなんじゃないですか、とは聞かないでおこう。
結局私の問いには答えず、会長は意味ありげな笑みで肩をすくめた。
絶対に言わないけれど、今私が1番疑っているのは……。
本当は、あなたもSOの一員なんじゃないですか?




