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救世チュートリアル  作者: 紫吹
第二章:拠点調査
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たどり着いたのは

 男の尾行を続けること10分、今のところ特に問題はなく、順調に任務を遂行している。彼の後ろ8~10メートル程度の位置を付かず離れず進んだ。通る道はどれも人通りが多い大きな道ばかりなので私たちに気づく可能性は少ないだろう。

 駅前に差し掛かり大分通行人も増えてきた中、彼はとくに周囲を気にする様子もなく一定の速度で歩いていく。

 見失わないよう少し距離を詰め、5メートル程度の位置を保った。

 前方の信号機が点滅し、渡る前に赤になる。歩行者に交ざって男の真後ろで止まった。

 彼はおもむろにスマホを取り出し耳に当てる。

「%#▽○&%、☆※◎▽●、○……」

 え!? な……日本語じゃない……!! 男の口から出る片仮名の羅列に危うく叫びそうになった。鈴音、鈴音は分かるのだろうか?

 そっと様子を伺うと、彼女も眉間にしわを寄せじっと虚空を見つめている。

「Δ◎▽★※&#、●☆%●」

 英語じゃないな、さすがにこんなにも分からないはずがない。せめてなんと言っているのかだけでも記憶して鈴音に翻訳してもらおうと思うのだが、訳が分からなすぎて聞いた側から消えていく。ラシュ……セ……?

 うん、諦めよう。

「……トゥドゥ ルーフェ」

 彼は最後にそう言って電話を切った。to do? ルーフェってなんだろう。

 信号が青に変わり、雑踏に紛れ鈴音に囁いた。

「さっきの、何語?」

 彼女は難しい顔で首を傾げる。

「わっかんない。最初はフランス語かと思った……けど……」

 そこで言葉を切ると顎に手を当てて考え込んだ。

「どうしたの?」

「……フランス……ドイツ? 英語、か」

 なんだなんだ。分からないので鈴音が解決してくれるのを静かに待つ。

「最後、なんて言ったか覚えてる?」

 最後……えーと、何だったかな。うろ覚えで申し訳ないが、

「トゥドゥ ルーフェ?」

 そう言うと鈴音はにこっと笑って頷く。

「やっぱりそうか。……うん、分かったかも!」

「ほんと!?」

 さすが鈴音! かっこいいぞマルチリンガル!

「文法的には英語と同じみたいだけど、フランス語とドイツ語混ぜて使ってるっぽいね。一部知らない単語もあったけど、前半と後半で違う言語組み合わせてる感じだった。最後のやつ、また連絡するって意味なんだけど、フラ語だとア トゥドゥ スウィッツ。ドイツ語だとイッヒ ルーフェ。ね、混ぜてるでしょ」

「へぇー、そういうこと。で、なんて言ってたの?」

「ちょっと待って、今考える」

 あの呪文みたいなやつを覚えたのか……。私の中での鈴音の尊敬度が3程上がった。

 邪魔をしないよう、静かに男を観察しておくことにする。歩き方にこれといった特徴はないし、特に癖らしきものも見当たらない。私が気付けていないだけなのか、どこにでもいるような凡人なのか、それか手がかりを残さないよう訓練しているすごい人なのか……。いやいや、世界を終わらせるだなんて小学生みたいな目標掲げてる奴らにそんなすごい人いないかな。

 ただ、世界を救う会とか設立しちゃう五十嵐もなんとなくすごい能力持ってそうな気配するし、意外と侮れない。

「分かったよ!」

 達成感をにじませる鈴音。

「お願いします」

「ふふ、やっと私も役に立てるね! 大体の意味は、『二人組を追っていたけど見失った、関係があるかは分からない。一旦そっちに戻る。何かあればまた連絡する』て感じかな」

 鈴音をじっと見つめているとばっちり目が合った。

「な、何?」

「いや……すごいなーと思って。尊敬するよ」

 素直に言うと彼女は照れたように目を逸らして、

「そんな真面目に言わないでよ、恥ずかしいなぁ」

 なんて言いつつ嬉しそうに笑う。

「頼りにしてるよ」

「やった、ついに私の真価が分かったようだね?」

「分かってたって。いつもそれくらい真面目に考えてくれれば……」

「はーい。努力しまぁす」

 全く、せっかく良い頭を持っているのにもったいない。鈴音が本気出したら本当に世界くらい変えられるんじゃないだろうか、と一瞬思ってしまいそうになった。まさか、ね。

 今はこうして世界を救う方向に動いているけれど、もしその興味が違う方向へ……例えば、終わらせるような方向に向いてしまったら? 鈴音に限ってそんなことはないだろうけど、そう考えると少しだけ不安な気もした。

 でも、もしそうなったとしても……。私が必ず、止めてみせる。


 なんだか変な決意をしてしまったが、そんなことをしているうちに辺りは静かな住宅街になっていた。人が大幅に減ったので距離を広げて慎重に尾行する。

「そろそろ、かな」

 なんとなくの勘だがそんな気がした。

「……あ、ねぇ!」

 鈴音が緊張した声を出す。自分で言うのもなんだが、私の勘はよく当たるからな。

 私たちが息を殺して見守る中、彼は大きな一軒家に静かに入っていった。

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