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救世チュートリアル  作者: 紫吹
第二章:拠点調査
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まだまだ猫を追いかけて

 完璧な変装を終えた私たちは、鈴音が直感で選んだ地点に向かう。運が良ければそのうちクレアが来るはずだ。

「今日は敵のアジトを探すわけだし、せっかく変装までしてるんだから名前も変えない?」

 そう提案すると思った以上のやる気を見せる。

「いいね! 今日はちゃんとそれで呼ぶ、この前のリベンジだから!」

 ギュッと右手を握りしめた。鈴音は負けず嫌いだからな。

「何がいいかな」

「楓考えてないの?」

 さも意外そうに言われる。

「え……うん、ごめん」

 なんとなく謝ると鈴音は微笑んだ。

「全然いいんだけどね。じゃあ私が考えるよ!」

 なんたが知らないが乗り気だし、ここは任せておこう。

「お願いしまーす」

「どうしようかな、めいだからな……」

「あんまり変な名前にしないでよ?」

 鈴音は悪い笑みを浮かべる。

「えへへ、私に任せるって言ったよねぇ? でも大丈夫だよ、ちゃんとそれっぽい名前考えるから」

 本当に大丈夫なのかな……。

 数分後、鈴音が発表する。

「ではでは、今日……ていうかこれからずっとでいいよね、私たちのコードネーム発表しまーす」

 ずっと? 一体いつ使うつもりなの……。

「夜城楓、今日からあなたは……吉田彩花(よしだあやか)です!」

「あやか……」

「で、如月鈴音は、河原(かわはら)美青(みお)になりましたー!」

「おおー」

 とりあえず拍手をしておく。

「なんで美青なの?」

「理由なんかないよ、なんとなく」

 そうか、なんとなくか。

「水っぽい名前だね」

「河と青? 可愛いでしょー」

 自慢気な鈴音を見て私も微笑み、

「じゃあ美青、今日は頑張ろうね」

 違和感がすごいが慣れるしかない。

「うん! 絶対見つけ出そう、彩花!」

 伊達メガネごしに輝く瞳でそう意気込んだ。


 到着したのは、遊具のない小さな公園、というかベンチが2つだけ置かれた狭い空間だった。

 時刻は9時6分、端のベンチに腰掛け気長に猫を待つ。

「1週間くらい前かな、坂田君がね――」

 鈴音は次から次へと話題を変えていて、学校の話からクラスの男子の話へと移っていた。

「私クラスの連絡グループに入ってないじゃん? だから連絡先教えてって言われてさぁ」

「え、それいつの話?」

 学校にいる間、基本的に私は鈴音と行動を共にしている。友達だというのもあるし、彼女の両親からも面倒を見てくれと秘かに頼まれているからだ。鈴音の家は厳格で必要以上の人付き合いをよしとしない。しかし、本人が呑気で親の言いつけを守らない(気にしない)ため、私がお目付け役というわけ。

 そんな私の監視をかいくぐって連絡先を聞いただと? 坂田め、なかなか勇気があるじゃないか。

「1週間くらい前だってば。えーと、そうそう、彩花が先生に呼び出されて私が待ってたときだ。あれ結局なんだったの?」

 あぁ、そんなこともあったな。

「んー、私にもよく分かんなくてさ。なんか委員会のことで聞きたいことがあるとか言われて。生活委員主催の行事をやるのかって聞かれたんだけど、私そんなの知らないし……あれ?」

 嫌な考えが頭をよぎった。

「ん?」

 何も気にしていなさそうな鈴音に向き直って尋ねる。

「それで坂田に教えたの?」

「あー、ううん、あの日スマホ持ってなかったから」

 それは持っていたら教えていたってことね。

「計画的犯行だ……。私がいると美青に近づけないから、先生に呼び出させたのか。親に連絡先交換は禁止されてるでしょ? ダメだよ教えちゃ」

 どこまで規制するべきなのか私にもよく分からない。鈴音だってもう高校生なのだし、ちょっと過保護かもしれないとも思う。ただ、茜西高に鈴音に見合う男がいるとは思えないし、変なやつに付きまとわれでもしたら……。

「そうなんだけどさー。断るの悪いし」

「断った方がいいこともあるよ?」

 私の心配をよそに鈴音は微笑んで、

「でも、彩花がいてくれるから大丈夫でしょ?」

と相変わらず変な信頼を寄せる。

「いつもじゃないじゃん」

 いつまでも、でもないし。

 今ほど一緒にいられなくなっても、鈴音とずっと親友でいられたらと、そんなことを思っていた。


 11時半過ぎ、まだクレアは現れず、私たちは今のうちにとお昼ご飯を食べていた。

「ねぇ、なんかさ、クレアがここに来る合図とか思いつかない?」

 玉子サンドを頬張りながら鈴音が聞いてくる。

「考えてるんだけどね……。場所が決まってないとしたら、どこにいても分かるってことだもんな」

 少し俯いた鈴音は数秒間黙考し、

「……あ!」

 小さく声をあげた。嬉しそうに振り向く。

「ねぇねぇ、あれじゃない!? 音楽が流れるじゃん!」

「あぁ!」

 顔を見合わせた。なぜ今まで思いつかなかったのか。

 私たちの住む茜市は、正午と午後5時の2回、何かの曲が流される。確かにその放送ならどこにいても聞こえるし、いい合図になるだろう。

「パブロフの犬か……」

「なにそれ??」

「犬に餌を与えて、その度にベルを鳴らすの。それを繰り返してるうちに、ベル=餌っていう風に条件付けられてベルが鳴るだけでよだれがでるようになったっていう実験のこと。そんな感じで、音楽が流れたらこの場所に行くように覚えさせられてるんだと思う」

 鈴音はもっともらしく頷いた。

「なるほどね。猫ってさ、意外と記憶力いいって聞いたけど?」

「まぁね。特に食べ物に関しては結構いいよ。クレアも最初は食べ物で釣られてたんじゃないかな」

「12時と5時に餌が置かれて、その場所と音楽を覚えたってこと?」

「恐らく」

「……じゃあ、もうちょっとで来るかもしれないね」

 正午の放送まであと18分。クレアは本当にやって来るのだろうか。

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