さらに猫を追いかけて
「楓、おっはよー!」
「おはよ。早速で悪いけどそんな服で行けるわけないでしょ?」
時刻は6時54分、静寂を切り裂いて駆けてきた鈴音はデートか! と言いたくなるほど可愛らしい格好をしていた。
「えぇー、いつもそんなこと言うじゃん」
「いつもじゃない。もうちょっとフリルとか刺繍とかない服持ってないの? あと、お願いだからズボンで」
鈴音はうーんと首を傾げる。
「でもこんな感じのしかないよぉ?」
さすがお嬢様は違うな。確かに、ズボン姿の鈴音なんて体育でしか見たことがない。
「私のでよければ貸すけど?」
そう提案すると彼女は微妙な顔をする。
「うーん、楓の服着てみたい気もするけど……でもなぁ」
「私のはダサいから嫌?」
「え!? そんなことないよ!?」
図星か。全く分かりやすい。
「失礼な、私だって少しはましなの持ってるよ。とりあえず私の家行こ」
「はぁい」
素直な返事に満足し、早朝の如月邸を後にした。
「へぇー……。なんだ、結構いいの持ってんじゃん」
私たちの家はわりと近所で、10分もかからず行き来ができる。鈴音はうちにつくなりクローゼットを物色していた。
「だから言ったでしょ」
持っているだけでほとんどの服は着たことがない。鈴音に着てもらえれば服も喜ぶだろう。
「あ、これとかすごい可愛い! ねぇ、ちょっとはいてみてよ」
楽しそうに取り出したのは半月ほど前に買った、私にしては女の子らしい黒を基調としたロングスカート。もちろんまだ着たことはない。
「だから、スカートは……」
スカートは走りにくいし座りにくい。私の意見を聞く気はないらしく、間髪を入れずに次を出す。
「じゃあこれ!」
オフショルダーのパステルピンクのトップスを鈴音の手からかすめ取った。
「私のはいいから! あんまり派手な色じゃないやつ選んでよ」
「分かってるって、どーれにしようかなぁ」
「あ……ちなみになんだけど、これ羽織るつもりだから」
振り返った鈴音は私の持つ薄手のカーディガンを見て歓声を上げる。
「すごーい! なにそれ、超可愛いじゃん! もう、なんでいつも着ないの?」
「だから、服に興味ないんだってば。これね、リバーシブルなんだ。いいでしょ」
鈴音に渡したものはペールトーンのピンクとブルー、自分のは白と黒になっている。
「うん、いいねいいね! じゃあそれに合うの選ばないとな」
何でもいいけど早くしてくれないかな……。やっぱり、単なるジーンズに適当なシャツを合わせただけの私とは違う。
「選びながら聞いてくれる?」
「うん!」
ちゃんと聞いているのか不安ではあるが、クレア探しの作戦を披露することにした。
「ほら、これ見て……(全くこちらに注意を払ってくれないので諦めて、)あー、後でいいや。この地図なんだけどね、クレアの移動した道が示されてるわけじゃん? で、よく見ると、この線がくねくねしてるとことまっすぐなとこがあるの」
「それでそれで?」
「あっ! ちょ、そこは違うから!」
躊躇いなく引き出しを開けようとする鈴音を阻止する。
「……えー、そうそう、それでね。まず、SOがどうやってクレアを見つけたのか、なんだけど」
「決まったー!」
絶対話聞いてない。
「ねぇ、鈴音?」
得意気な笑みを浮かべる鈴音が選んだのは、ハイウエストの青いワイドパンツに白いシースルーのコンパクトニットだった。
青と白、まぁいいかな。
「私たち体格だいたい一緒だから着れるよね!」
「多分ね。じゃ、早く着替えちゃってよ」
部屋の隅でそそくさと着替える鈴音。その間に荒らされたクローゼットを元通りにしておこう。
「よし! どう?」
目を向けると鈴音はくるりと回って見せた。
「やっぱり私が着るより似合うね。鈴音は可愛いからなぁ」
冗談めかして言うとえへへと笑う。
「可愛いついでに髪結んでみてよ」
差し出したゴムとくしを見つめるが、すぐに頷いて受け取った。
「で、今日の予定は?」
器用に髪を結い上げながらしれっと言う。
「……はぁ。だからね、クレアとSOは、待ち合わせ場所を決めてあるんじゃないのかなって」
「えーっと、さっき言ってた線の違いは?」
お、聞いててくれたのか。
「直線なのは3ヶ所あって、ほらこことここと……ここね」
ポニーテールになった鈴音が頷く。
「普段はうろうろしてるんだけど、何かのタイミングでこの場所に移動する。そこで落ち合えなかったら、次の時間まで好きに過ごして……」
「ここに向かうってことね」
トンとGPSが外された場所を指した。
「なんじゃないかな」
「なるほど。じゃあ今日はここに張り込むんだね! すごい、探偵みたい!」
目を輝かせる鈴音に微笑みかける。
「じゃあもっと探偵っぽくしちゃおうか」
「うん! なになに?」
「……変装」
目を丸くした鈴音は、満面の笑みで1度やって見たかったと言った。




