猫を追いかけて
「あっ! 動き出した!」
鈴音が小さく声をあげる。
「よし、行こ!」
待つことおよそ15分、ようやく尾行が開始できる。
「楓、あの猫に名前つけない?」
唐突に鈴音が提案した。
「うん、いいよ。何がいい?」
考えてあったのだろう、どこか得意気に、
「クレアとか、どう?」
クレア? あまり鈴音が付けそうな名前ではない気がする。
「かわいいけど、何か意味でもあるの?」
彼女はよく聞いてくれた! という顔で答えた。
「creation、フランス語で創造とか結成って意味。あの任務で私たちのコンビが始まったんだからぴったりでしょ?」
そういえばこの子、フランス語話せたんだったなぁ。普段の様子からは考えられない才女なんだよ、実は。
「へぇ、いいじゃん。……別にコンビ組んだ気もないし、あれを結成と捉えるなら昔からコンビだったようなもんだけどね?」
クレアはゆったり尻尾をくねらせながら悠々と歩いていく。このまま付いていくだけでいいのだろうか。人間相手の尾行ならまだ経験があるが、猫を追うのは初めてだ。正直どうしたらいいのか分からない。
「え? 私と楓が組んだら最強だよ?」
私のコンビ結成への否定を軽く流した鈴音。
「なんの自信なの……」
「最高の相棒になれるよ」
「……真顔で言わないで、恥ずかしいな」
視線をそらすが、鈴音は気にせずにっこり笑う。
「五十嵐さんも混ぜてトリオになりたいなぁ……あ、そういえば五十嵐さんに聞きたいことってな――」
「あぁ!」
鈴音の言葉を遮ってしまった。なんの前触れもなくクレアが駆け出したのだ。追うべきか否か一瞬迷うが、既に猫の姿は豆粒ほどになっている。
「やめよ、追い付けない」
走り出そうとする鈴音を引き留めた。
「えぇ、でも……」
不満そうな鈴音に言う。
「明日までにちゃんと作戦考えてくるからさ」
「んー、楓が言うならしょうがないかぁ。じゃあ明日は朝から捜索するからね!」
せっかくの休日なのに1日探すつもりなのか……。気は進まないが、鈴音が1度言い出したらどうしようもない。
「分かった。鈴音も考えてきてよ?」
「はーい」
……怪しいなぁ。
「ふふ、明日楽しみだなー。ねぇ、相棒」
くるりと振り返りスカートをひらめかせる鈴音を見ながら、
「楽しみというより不安なんですけど……?」
なんて言いつつ、相棒と呼ばれるのは嬉しくなくもないのだった。
「…………はぁ」
大きく溜息をつく。かれこれ1時間、クレアの軌跡と睨みあっていた。
やる気に満ち溢れる鈴音が指定した集合時間は驚異の朝7時。普段起きるより早いじゃないか!
時計に目をやると既に21時を過ぎている。あと11時間……。なんとか方針くらいはたてておかないと。
今日クレアを発見し後を追った道は、GPSを付けたまま歩いた道ではなかった。私たちが手にいれた軌跡は猫の決められたルートではなく、ただの気まぐれ散歩ルートなのだろうか。しかし、それを言うなら今日の方が散歩だろう。少なくとも前回はメッセンジャーという役割があったのだから。
もう1一度クレアを見つけだすのは難しいかもしれない。
「はぁ……」
ベッドに仰向けに倒れ込む。尾行については多少考えがあるが、肝心のターゲットを見つけられなきゃ意味がない……。
五十嵐はこの地図をヒントだと言った。私が何かを見落としている?
もう一度地図をじっくり眺めた。
「…………ん?」
起きあがり、明かりの下でじっと目を凝らす。これ……もしかして。
「そういうことね」
1人呟き微笑んだ。
見つけた。これが、クレアを発見する方法だ。




