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確かめても、まだ分からない

敵から密書が届いた。

「信じる?」

「無理」

即答したら、孫二娘が笑った。

「でも捨てないんだねェ」

「だって本当だったら困るでしょ!」

「疑いながら利用価値を考える。成長したねェ」

「褒め方が怖い!」

顧大嫂が絹を覗き込む。

「で、送り主は誰なんだい?」

「唐斌って人」

「知ってるのか?」

「知らない!」

また知らない人である。

孫二娘が肩を揺らした。

「じゃあ確かめればいいよォ」

「最近みんな簡単に言うのよね、それ!」

そして確かめた。

本人は実在した。

関勝とも縁があった。

ただし――

今も信用できるかは分からない。

「確認した意味ある!?」

……壺関、いつまでアタシを待たせる気なの?

中には、小さな文字がびっしり書かれていた。

玉楼が絹を灯りへ近づける。

「読める?」

「はい、少々お待ちくださいませ」

アタシも横から覗こうとしたけれど、字が小さい。

しかも漢文っぽい言い回しまで混じっていて、途中から目が滑った。

「……もっと大きく書いてよ」

「密書だからねェ」

孫二娘に言われた。

「文字まで隠密にしなくていいでしょ!」

「大きく書いたら絹も大きくなるだろ」

顧大嫂まで正論である。

玉楼が一通り読み終えると、顔を上げた。

「送り主は、唐斌という方でございます」

「誰?」

また知らない人が増えた。

孫二娘が笑う。

「ほらァ。田虎軍の名前、嫌でも覚えることになっただろ?」

「こんな増え方すると思ってなかった!」

唐斌は抱犢山にいる将らしい。

今は山士奇に呼ばれ、壺関へ入っているという。

密書によれば、本心から田虎に従っているわけではなく、山士奇から梁山軍の背後を襲うよう求められているという。

そして機会があれば、その話を逆に利用して壺関をこちらへ渡したい――

そこまで読んだところで、アタシは玉楼を止めた。

「待って」

「はい」

「罠じゃないの?」

ものすごく怪しい。

昨日まで攻めても落ちなかった城から、夜になったら突然「実は味方です」と手紙が飛んできたのである。

そんな都合のいい話を、今のアタシが簡単に信じるわけがない。

「罠である可能性はございます」

玉楼もあっさり認めた。

「あるんじゃない!」

「ないとは申し上げられませんので」

孫二娘が絹を覗き込む。

「信じるか疑うか、今ここで二択にする必要はないんじゃないかねェ」

「じゃあどうするの?」

「確かめる」

簡単に言う。

密書の最後には、関勝に尋ねれば自分の素性が分かる、と書かれていた。

林冲のところへ持っていくと、左腕に包帯を巻いたまま絹へ目を通した。

「これ、どうするの?」

「確かめる」

孫二娘と同じ答えが返ってきた。

「それ、今日の流行?」

「何の話だ?」

「何でもない」

林冲は唐斌の名をもう一度確認すると、使者を出すよう命じた。

すぐに信じる必要はないけれど、だからといって捨てる必要もない。

使える情報なら、まず確かめればいい。

どうやら、そのくらいでいいらしい。

問題は――確かめている間も、壺関がそこにあることだった。

翌日、こちらは再び兵を進めた。

山士奇は出てこない。

攻め寄せれば、城壁から矢が降る。

盾を重ねて近づけば石が落ち、梯子を運べば狙い撃ちにされる。

「石!」

反射的に身を引くと、頭上を大きな石が通り過ぎた。

孫二娘が後ろから声をかけてくる。

「ちゃんと避けてるじゃないかァ」

「嫌いなのは変わらない!」

「怖くなくなる必要なんてないよォ。避けられるなら、その反応も役に立ってる」

思ったより真面目な答えが返ってきたので、少しだけ拍子抜けした。

「……今日は犬の話しないの?」

「してほしい?」

「いらない!」

顧大嫂が盾の陰で笑っている。

その日は城壁へ取りつけなかった。

次の日も、大きくは変わらなかった。

山士奇はこちらが誘っても出てこず、関の上から必要なだけ兵を動かす。

無理に勝とうとしているわけではなく、ただアタシたちをここから先へ通さなければいいと思っている。

それが腹立たしい。

「出てきなさいよ!」

壺関を見上げて言うと、玉楼が隣で首を傾げた。

「出る必要がございませんので」

「玉楼はどっちの味方なの!?」

「もちろん三娘様でございます」

即答だった。

「では何で敵の気持ちを代弁するのよ!」

「事実かと」

何も言い返せない。

さらに数日が過ぎた。

食べ物が足りないわけではない。

後ろから兵糧は届き、傷ついた兵と入れ替わる者もいる。

馬も休ませられているし、武器の手入れもできる。

戦える。

なのに、進まない。

これが意外なくらい疲れた。

正面から敵が来るなら、何をすればいいか分かる。

刀を抜いて、玉楼と動いて、紅玉の声を聞けばいい。

でも城門が閉じているだけだと、待つしかない時間が増える。

「暇」

幕舎の外でぼそっと言ったら、孫二娘が横から身体を寄せてきた。

「退屈っていうのも結構なストレスなんだよォ」

「だからって何でくっつくの?」

「安心感の共有?」

「疑問形で言わないで!」

「三娘、暇なんだろ?」

「暇だからって抱き枕になるとは言ってない!」

顧大嫂が呆れた。

「戦場で何やってんだい、あんたら?」

本当にその通りだった。

玉楼は止めに来なかった。

見ると、少し離れた場所で武具を整えている。

「玉楼!?」

「お呼びでしょうか?」

「見えてるでしょ!」

「はい」

「助けて!」

「三娘様がお嫌でしたら、そのように二娘様へお伝えになればよろしいかと」

急に自己決定を尊重し始めないで!

孫二娘が嬉しそうに笑っている。

結局、自分で引き剥がした。

さらに日が過ぎても、壺関は落ちなかった。

紅玉は毎日、城壁を見る。

旗が一本増えた、兵の交替が早い、今日は門の内側に馬が多い――小さな違いを拾うようになっていた。

けれど決定的な変化はない。

「見えてるのに、分からないです」

ある夕方、紅玉が悔しそうに言った。

「それでいいわよ」

「ですが……」

「アタシだって分かんないもの」

見えているもの全部から答えが出るわけじゃない。

それでも見ていれば、何かが変わった時には気付ける。

そう言うと、紅玉はもう一度城壁を見た。

十日を越え、半月が近づくころには、最初に届いた密書のことを考える時間さえ減っていた。

関勝からも返事は来ていた。

唐斌という男は確かに知っており、以前の彼なら田虎へ心から従うような人物ではないという。

ただし――

今も同じ考えかまでは保証できない。

「確認したのに、結局分かんないじゃない!」

返書を読んだ時、思わず叫んだ。

孫二娘が笑う。

「人間の保証書なんてないからねェ」

「心理学者がそれ言う!?」

「心理学者だから言うんだよォ」

それでも、最初よりは材料が増えた。

唐斌という人物そのものは実在し、関勝とも縁がある。

けれど、本当にこちらへ寝返るのか。

そこだけは分からない。

林冲は返書を畳んで、

「待つ」

とだけ言った。

待つ。

またそれだ。

壺関の前では、戦うより待っている時間の方が長い。

日が暮れるたび、梁山泊へ帰る日は遠くなっている気がした。

李俊の舟を見る約束だって、いつになるのか分からない。

今頃あいつは何をしているんだろう。

この前は林冲の怪我を見て心配になったけれど、今日は何も起きていないのに顔が浮かんだ。

……何も起きてないのに?

そこに気付いて、自分でちょっと嫌になった。

「三娘?」

孫二娘が近づいてくる。

「何でもない!」

まだ何も言われてないのに先回りしてしまった。

孫二娘の口元がゆっくり上がる。

「アタイ、まだ何も聞いてないけどォ?」

「顔を見るだけで分かるのよ!」

「お互い観察力が上がったねェ」

「そういう成長いらない!」

顧大嫂の笑い声が響いた。

その夜、見張りから呼ばれた。

また矢が飛んできたという。

アタシと玉楼が駆けつけると、今度の矢にも細い絹が巻かれていた。

「また唐斌?」

玉楼がほどく。

今度の文は短かった。

明朝――

文仲容と崔埜の兵が梁山軍の背後へ迫ったように見せる。

山士奇はそれを合図に、壺関から出る。

唐斌は山士奇と共に動き、その途中で反転して関へ戻り、門を奪う。

そこまで読んで、アタシは黙った。

「……本当にやるの?」

玉楼は答えない。

林冲のところへ持っていく。

密書を読み終えた林冲は、しばらく何も言わなかった。

左腕の包帯はもう薄くなっている。

「乗る」

やがて、それだけ言った。

「罠だったら?」

「その時は破る」

簡単に言う。

「簡単に言わないでよ」

「簡単ではない」

そう言いながら顔が全然変わらない。

孫二娘が後ろから覗き込む。

「不確実性が残ったまま決めなきゃいけない時もあるんだよォ」

「今それ聞きたくない!」

「でも三娘、前ならもっと早く突っ込んでたんじゃないかい?」

顧大嫂に言われて黙った。

確かに……

今は疑って、確かめて、それでも分からない部分を残したまま動こうとしている。

全部分かってから戦えることなんて、たぶんほとんどない。

だから自分で見て、見えないところは誰かに任せる。

それでも違っていたら戻ればいい。

今のアタシにできるのは、それくらいだった。

夜のうちに兵の配置が変えられた。

アタシと玉楼も伏せる場所を決める。

紅玉には旗を見るよう言った。

孫二娘と顧大嫂は後ろを支える。

誰も唐斌を完全には信じていない。

でも、信じないから何もしないわけでもない。

夜が明ける少し前、アタシは馬上で壺関を見ていた。

風が冷たい。

城壁の上には、まだ松明が残っている。

やがて東の空が白み始めた。

兵の間に緊張が広がる。

アタシは手綱を握り直した。

約束の刻だ。

夜明け前。

壺関の城門が、ゆっくりと開いた。

玉楼でございます。

三娘様は、ずいぶん「待つ」ことがお上手になられました。

「昔なら三日目くらいで壁を殴ってそうだねェ」

孫二娘様が笑っております。

「そこまでではございません」

「玉楼、否定が弱いよ」

顧大嫂様まで。

もっとも、待っている間は二娘様に抱きつかれておられましたが。

「アタイなりのストレス対処だよォ」

「三娘様を使わないでくださいませ」

「今さら止めるのかい!?」

そして今朝、ようやく壺関の門が開きました。

半月近く、あれほど開かなかった門でございます。

顧大嫂様が目を細めます。

「で、本当に唐斌は味方なのかい?」

……それを確かめるのは、これからでございます。

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