表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/105

曾家の長男

曾頭市って、多分、“真っ直ぐ勝たせてくれない場所”なんだと思う。

林を抜けても終わらない。

外柵を破っても終わらない。

中へ入ったら、今度は路地と屋根と火が噛み付いて来る。

しかも――

今度は曾家の長男まで出て来た。

「長男って事は、真面目そうだねぇ」

孫二娘が笑う。

すると顧大嫂が即座に返した。

「アンタよりは真面目だろうさ」

「何だよ、それ」

「アンタは絶対、守る側に向いてない」

「うるさいねェ。守る前に壊した方が早いだろ」

「だから毎回、話が雑なんだよ!!」

またまた始まった。

いつも、矢が飛んでる最中でも普通にやる。

でも――

周囲の兵は、少しだけ笑っていた。

……まあ。

曾家の長男も、 こんなのが相手だとは思ってないでしょうね。

外柵を抜けた瞬間、空気が変わった。

でも――

誰も、終わったなんて思っていない。

曾頭市は、まだ奥がある。

路地、土塀、櫓、屋根、さらに奥の柵。

むしろ―― ここからが、本当の正念場だった。

「散って!」

アタシが叫ぶ。

次の瞬間、屋根の上から矢が降った。

「上よ!!」

梁山泊兵が盾を上げる。

でも、正面だけじゃない。

左の路地奥で、怒声が響いた。

「横から来るぞ!!」

敵兵だ。

狭い路地から、一気に流れ込んでくる。

しかも――

右側の通りでも火が動いた。

玉楼が即座に叫ぶ。

「右路地、敵増援です!」

顧大嫂が顔をしかめる。

「どこからでも湧くねぇ!」

孫二娘は逆に笑った。

「曾頭市ごと噛み付いて来るじゃないか!」

本当に、そんな感じだった。

史文恭は倒れた。

でも、曾頭市そのものは、まだ死んでいない。

奥から、次々に声が飛ぶ。

「曾塗隊、正面を維持しろ!」

「曾密隊、左へ回れ!」

「屋根へ弓隊を上げろ!!」

命令が飛んでいる。

つまり―― まだ戦える。

玉楼が囁く。

「各隊が、外側へ散り始めています」

「包む気ね」

「はい」

外柵を破った梁山泊軍を、 今度は市街の中で包囲する気だ。

アタシは周囲を見る。

正面は槍。

上から弓。

左右から増援。

曾頭市は、中へ入った方が危険だった。

だからこそ――

突き進むしかない。

「顧大嫂!正面押さえて!」

顧大嫂は分かっている。

「任せな!」

「孫二娘! 左を崩して!」

孫二娘も負けじと、突破に係る。

「行ってくるよ!」

玉楼も槍を構える。

「右はお任せ下さい」

火が揺れ、煙が流れる。

屋根の上で、また弓が動く。

でも―― さっきまでと違う。

史文恭がいない。

あの黒い槍が、 もう戦場の中心には居ない。

それだけで、曾頭市側の動きは少しずつ揺らいでいった。

「第四軍、進め!!」

アタシが前へ出る。

顧大嫂が正面を押し潰す。

孫二娘が崩れた左へ飛び込む。

玉楼が右路地の槍を止める。

その瞬間――

曾頭市の内側で、新しい銅鑼が鳴った。

今までより、さらに近い。

そして奥の通りから、 また新しい軍勢が姿を現した。


新しく現れた軍勢は、今までの敵兵と動きが違った。

走らない。

怒鳴らない。

でも――

速い……訓練されている。

隊列が揃ったまま、通りへ広がってくる。

前列が盾を構える。

その後ろで槍兵が揃う。

さらに後ろには、弓兵がいる。

玉楼が即座に言った。

「立て直し部隊です」

分かる。

隊列が空いた場所へ、最初から入れる前提で待機していた。

顧大嫂が舌打ちする。

「まだ出て来るのかい!」

孫二娘は逆に笑った。

「しつこいねぇ!」

その時――

敵陣の中央から、一人の男が前へ出た。

大柄だった。

鎧の上からでも分かる。

重そうな身体。

しかも、ただ大きいだけじゃない。

歩くだけで、周囲の兵が自然に道を開けていた。

玉楼が目を細める。

「曾家の者だと思われます」

男が前へ出る。

長刀を地面へ叩き付ける様に構え、そのまま怒鳴った。

「史文恭殿は討たれた!!」

声が、曾頭市の通りへ響く。

一瞬―― 敵兵の空気が揺れた。

でも、男は止まらない。

「だが、曾頭市はまだ落ちん!!」

その瞬間、 後ろの兵が、一斉に槍を打ち鳴らした。

重い音。

さっきまで崩れかけていた敵兵が、 そこで初めて踏み止まる。

顧大嫂が顔をしかめた。

「面倒なのが出て来たねぇ!」

孫二娘も笑みを消す。

「立て直して来るぞ」

分かる。

史文恭は、“戦場の槍”だった。

でも――

今出て来た男は違う。

玉楼が低く呟く。

「曾塗でしょうか……」

男――

曾塗が長刀を上げる。

「門前を死守しろ!!」

次の瞬間、 曾頭市側の槍兵が、一斉に前へ出た。

今度は死守する気でいる。

アタシは双刀を握り直す。

火、煙、狭い通り、屋根の弓。

その全て――

曾頭市そのものが、まだ牙を剥いている。


曾塗が長刀を上げた瞬間、曾頭市側の空気が変わった。

崩れかけていた槍兵が、そこで止まる。

逃げていた兵まで、振り返った。

「前を埋めろ!!」

曾塗の怒声が響く。

「路地を空けるな!!」

次の瞬間、曾頭市側の盾兵が一斉に前へ出た。

狭い通りを、完全に塞ぎに来る。

顧大嫂が顔をしかめた。

「今度は押し返す気だねぇ!」

孫二娘も舌打ちする。

「さっきまでと違うねェ!」

史文恭が“槍で崩す戦”なら、 曾塗は“守る戦”だ。

玉楼が前を見る。

「左右を使っています」

見ると、 路地奥の槍兵が勝手に動いていない。

曾塗の声に合わせて、 一斉に位置を変えている。

火の向こうで、隊列そのものが形を作り直していた。

アタシは双刀を握る。

「真正面から行ったら、抜けないわね」

「はい」

玉楼も即答する。

その瞬間――

曾塗が踏み込んだ。

大柄な身体のまま、 真正面から押し込んでくる。

長刀が振り下ろされた。

「ッ!!」

顧大嫂が盾で受ける。

鈍い音が響く。

そのまま地面が軋んだ。

「重ッ……!」

でも、 曾塗は止まらない。

受け止められる前提で、 次の一撃へ繋げてくる。

孫二娘が横へ回る。

「横がガラ空きだよォ!」

だが――

槍が出る。

曾塗の横に居た槍兵が、 同時に突き出してきた。

「チッ!」

孫二娘が下がる。

玉楼が即座に言った。

「周囲と連動しています!」

つまり、 曾塗だけを倒しても駄目だ。

周囲ごと崩していかないと、 この防衛線は割れない。

その時――

曾塗の視線が、 初めてアタシへ向いた。

「……女か」

低い声だった。

でも、 油断は無い。

むしろ――

最初から、“指揮官”を探していた目だった。

長刀が、ゆっくりこちらへ向く。

「なら、ここで止める」

空気が重くなる。

火、煙、狭い通り、押し合う兵。

その真ん中で――

曾頭市の防衛線が、再び第四軍の前へ立ち塞がった。


曾塗が長刀を構えたまま、前へ出る。

真正面から、第四軍を止めに来ていた。

「整列しろ!!」

曾頭市側の怒声が飛ぶ。

槍列が、一斉に揃う。

狭い通りが、さらに狭くなった。

顧大嫂が盾を押し込みながら怒鳴る。

「硬いねェ!!」

「止める気満々だよ!」

孫二娘も横へ回ろうとして、すぐ舌打ちした。

左右の路地まで槍兵が入っている。

逃がさない。

回らせない。

完全に、“通路そのもの”を塞ぎに来ていた。

玉楼が周囲を見る。

「上も使っています!」

次の瞬間―― 屋根の上から矢が落ちてきた。

「上だ!!」

梁山泊兵が盾を上げる。

だが、その一瞬で曾塗が踏み込んだ。

大柄な身体の割に速く、一直線に押し込んでくる。

長刀が横薙ぎに走った。

「ッ!!」

顧大嫂の盾が弾かれる。

その横へ、敵兵の槍が一斉に入った。

連動している。

曾塗一人じゃない。

“曾塗を中心に、防衛線そのものが動いている”。

玉楼が即座に叫ぶ。

「中央だけに集まらないで!」

今、真正面へ集まれば、 逆に押し潰される。

曾塗は、“寄せて止める”戦い方だ。

その時――

曾塗の長刀が、再び振り上がる。

狙いは、アタシだった。

「……!」

速い割に、重い……

真正面から叩き潰す気で来ている。

双刀を交差させる。

鈍い衝撃とともに腕が痺れる。

「くッ……!」

でも、曾塗は止まらない。

受け止められる事まで計算して、 さらに押してくる。

後ろでは、曾頭市兵が槍を合わせ始めていた。

このまま止まれば、 第四軍ごと押し返される。

その瞬間――

孫二娘が、屋台の残骸を蹴り飛ばした。

木片と火が、横へ散る。

「こっち見なッ!!」

曾頭市側の槍兵が、一瞬だけ視線を逸らす。

その隙へ――

玉楼の槍が、低い位置から走った。

地面を滑るみたいに、 曾塗の足元へ突き込まれる。

「ッ!」

初めて、曾塗の体勢が揺れた。

顧大嫂が即座に押し込む。

「今だよォ!!」

盾がぶつかる。

敵の槍列が歪む。

アタシは、その一瞬の隙間へ踏み込んだ。

曾塗の長刀が戻る前――

防衛線の呼吸が止まる。

そこへ――

双刀を、真正面へ走らせる。

曾頭市の中へ入ってからも、顧大嫂殿と孫二娘殿は、相変わらず騒がしいままでした。

「だから言ったろ! 横から突っ込めば早いんだよ!」

孫二娘殿が笑えば、

「アンタは毎回、“突っ込んだ後”を考えてないんだよ!!」

顧大嫂殿が即座に怒鳴り返す。

「突っ込んでから考えればいいだろ」

「だから第四軍は毎回うるさいんだ!!」

「うるさい方が生き残るんだよ!」

「アンタの場合は、ただ騒がしいだけだろうが!!」

そのまま二人で押し合いを始め、周囲の兵達まで笑っていました。

ですが―― 多分、ああいう声があるから、第四軍は止まりません。

そして―― そんな中でも、扈三娘様は、ずっと“流れ”を見ておられました。

誰が強いかではありません。

どこで止まり、 どこで崩れ、 どこで防衛線の呼吸が乱れるか。

多分、扈三娘様は、 戦場を“人の集まり”として見ておられるのでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ