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歓迎されている

鉄羅漢から、青霓島へ来いと言われた。

「三娘ォ、行くんだろォ?」

「行くけど、今日は行かない!」

孫二娘がこっちを見た。

「……誰だい?」

「アタシよ!」

「三娘が敵から呼ばれて、その日のうちに突っ込まないなんてねェ」

「アタシだって学習するの!」

昨日は初陣だった三百人にも、休む時間が必要だ。

それくらい分かる。

「じゃあ明日は?」

「行く!」

「即答だねェ」

「休んだんだからいいでしょ!」

孫二娘が笑った。

「三娘ォ、敵が本当に待ってたらどうするんだい?」

「待ってるって言ったんだから、いるでしょ」

「そうじゃなくてさァ」

……何よ?

「ものすごく丁寧に歓迎されたら?」

それはそれで怖いんだけど……

「鉄羅漢様は青霓島で待っている」

捕らえた敵将の言葉を聞いて、アタシは海の向こうを見た。

青霓島はここからでは見えない。

だから余計に腹が立つ。

人の国へ勝手に兵を上げて、浜を荒らして、負けたら今度は自分の島まで来い。

何なの、その招待状。

「じゃあ行く?」

李俊が即座に答えた。

「今は行かない」

「何で!?」

「お前、さっき成長したんじゃなかったのか」

「成長したから理由を聞いてるの!」

横から孫二娘が笑った。

「三娘ォ、成長って自己申告制だったのかい?」

「今日ちゃんと三百人置いていかなかったでしょ!」

「そこが基準なのもどうなんだろうねェ」

うるさい。

でも李俊が行かないと言った理由は、聞く前から半分くらい分かっていた。

浜には負傷者がいる。

敵だけじゃなく、こっちにもだ。

三百人の中にはまだ息を整えられない人もいて、船酔いなのか戦のせいなのか分からない顔色をしている人までいる。

さっきまで戦えていたからといって、このまま船へ戻して青霓島へ向かわせるのはさすがに違う。

「……今日は行かない」

アタシが言うと、孫二娘が目を丸くした。

「三娘ォ」

「何?」

「熱でもあるのかい?」

「成長したって言ってるでしょ!」

玉楼まで口元を押さえている。

「玉楼も笑わない!」

「申し訳ございません」

絶対に申し訳ないと思ってない。

李俊は捕虜の処理を童威に任せ、童猛には浜と周辺の見張りを増やすよう命じた。

共濤の旧旗を掲げた三隻が戻ってくる可能性もある以上、勝ったから終わりというわけじゃない。

アタシたちも三百人のところへ戻った。

さっきまで戦っていた浜は、もう静かになり始めている。

静かだからこそ、見えてくるものもあった。

一人の女が、座ったまま両手を見つめている。

血はついていない。

怪我もない。

それでも指が小さく震えていた。

別のところでは、仲間と話していた女が急に泣き出している。

その隣では何を言えばいいのか分からないらしく、黙って肩を抱いていた。

「勝ったのに……」

思わず呟くと、孫二娘が隣へ来た。

「終わったからだよォ」

「え?」

「戦ってる最中は怖がる暇もない奴がいるんだよ。終わってから、ようやく怖かったって分かるのさァ」

孫二娘は震えている女へ目を向けた。

「戦えたから平気ってわけじゃないよォ」

アタシには見えていなかった。

戦っている最中なら、動けているかどうかを見て、倒れたら助け、列が崩れたら戻せばいい。

でも、戦いが終わったからといって、兵のことまで見なくてよくなるわけじゃない。

「どうするの?」

「休ませるさァ。喋りたい奴には喋らせるし、黙りたい奴には黙らせる。今すぐ次の戦を考えろなんて言わなきゃいい」

「それだけ?」

「それが大事なんだよォ」

孫二娘はそう言って、腰掛けを運んでいる兵へ合図した。

「アタイはこっち見てるから、三娘は玉楼と明日のこと決めなァ」

「大丈夫?」

「走らなけりゃねェ」

そこは譲らないらしい。

玉楼はすでに沈蘭教頭と三百人の状態を確認していた。

死傷者を除けば、明日動ける人数はかなり残っている。

ただし、船酔いのひどかった人を上陸第一陣へ入れる意味はないし、負傷者の搬送や船を守る人間も必要になる。

「残ったみんな、連れていくの?」

「はい、ただし全員が島へ降りるとは限りません」

玉楼が名簿へ目を落とす。

「船を守る者も必要でございますし、負傷者の受け入れ、伝令、後方警戒もございます。今日の戦で分かったことを反映いたします」

「船酔いした人は?」

「船には乗っていただきます」

「そこは乗るの!?」

「青霓島へ泳いでいただくわけには参りませんので」

それはそう。

「ただし、上陸直後の戦闘には回しません。今日のように、船上で具合が悪くなった際にも動ける方を同じ組へ入れます」

なるほど。

全員を同じ強さにするのではなく、それぞれのできることを組み合わせるわけだ。

「三娘様は?」

「アタシ?」

「明日は、どちらまで進まれるご予定でございますか?」

「島の敵がいるところまで」

玉楼が黙った。

「……何よ」

「具体性がございません」

「島に着いてみないと分からないでしょ!」

「それはその通りでございますが、三百名を率いる大将のお言葉とは思えません」

「アタシ、急に要求されること増えてない!?」

昨日までなら、敵がいたら突っ込めばよかったのに。

今は突っ込む前に、三百人がどこにいるかまで考えないといけない。

大将って面倒くさい。

「三娘様」

「分かってるって。ちゃんと考える」

「それでこそ大将でございます」

褒められた。

ちょっと嬉しい。

翌朝、船団は青霓島へ向けて港を出た。

李俊の船を中心に、童威と童猛が前後を固める。

アタシと玉楼は李俊と同じ船に乗り、孫二娘も後方を見るため同行していた。

昨日より体調は良さそうだけど、腰掛けは今日も用意されている。

「三娘ォ」

「何?」

「今日こそ船の上で競走しないでおくれよォ」

「しないって!」

「昨日も浜に着いた瞬間走ったじゃないかい」

「あれは上陸!」

「船を降りて三秒くらいだったよォ?」

「戦だったんだから仕方ないでしょ!」

玉楼が海を見たまま口を挟む。

「本日は、私も三娘様と同時に降りますのでご安心くださいませ」

「玉楼ォ、それ安心材料なのかい?」

「私がおりますので」

「二人で走るって意味に聞こえるけどねェ」

……否定しづらい。

船は進み続けた。

青霓島へ近づくにつれて、島の形が見えてくる。

海から切り立った岩場が続き、その間に船を入れられそうな場所がいくつかある。

奥には木々の濃い場所も見え、さらに高いところには見張り台らしい影まであった。

「攻めにくそうね」

「向こうは海路を知っている」

李俊が答える。

「だから俺たちだけで勝手に奥へ入るな」

「分かってる」

今度は素直に返した。

孫二娘がこっちを見る。

「何?」

「いやァ、本当に成長したなァと思ってねェ」

「何で褒められると腹立つの!?」

童威が前方を指した。

「浜が見えます!」

アタシもそちらを見る。

入り江の奥に砂浜がある。

船を着けるには十分な広さだ。

そして、人もいた。

多い。

「敵?」

日月双刀へ手を掛ける。

横で玉楼も方天画戟を持ち直した。

浜には武装した兵が並んでいる。

弓兵までいる。

なのに、矢が飛んでこない。

こちらの船はもう十分に射程へ近づいているはずだ。

「……何で撃ってこないの?」

誰も答えなかった。

童威と童猛も警戒している。

船を進めれば、浜の兵たちの姿がさらによく見える。

弓を持っている。

槍もある。

こっちを見ている。

それでも構えない。

「李俊」

「何だ」

「待ってるって、こういう意味?」

「まだ分からん」

「三娘ォ」

孫二娘の声もいつもより慎重だった。

「歓迎されてる顔には見えないねェ」

「そうよね」

「いや」

李俊が言った。

「歓迎している」

「どこが!?」

その時だった。

島の奥から鐘の音が聞こえた。

一度鳴り、しばらくしてもう一度響く。

浜に並んでいた兵が動いた。

アタシは刀を抜きかける。

けれど、兵たちはこっちへ来なかった。

左右へ分かれていく。

浜の真ん中が開いた。

その向こうには、島の奥へ続く道が見えている。

玉楼が方天画戟を構えたまま呟く。

「道を空けております」

「罠よね?」

「その可能性は高いかと」

「じゃあ入らない?」

李俊は答えない。

浜の中央へ、一人の男が進み出た。

こちらの船を見上げ、大きく息を吸う。

「王を、お通しせよ!」

青霓島へ着くなり、敵兵が道を空けました。

「玉楼ォ、あれ歓迎って言うのかい?」

「少なくとも、矢は飛んでまいりませんでした」

「だから安心って?」

「申し上げておりません」

孫二娘殿が笑いました。

「三娘なんて、歓迎されるほど警戒してる顔してたよォ」

「当然でございます。敵が笑顔で道を開ける方が、斬りかかってくるより不気味でございますので」

「玉楼も同じ顔だったけどねェ?」

……それは必要な警戒でございます。

問題は、この先です。

道の奥には鉄羅漢が待っております。

「玉楼ォ、三娘は入る気だよォ?」

「存じております」

「止める?」

「いいえ」

方天画戟を持ち直しました。

「私も参ります」

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