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一人ずつ見る

孫二娘が、寝台の上で指を折っていた。

「何数えてるの?」

「アタイが本編に出なかった回数だよォ……」

「やめなさい、悲しくなるから!」

「三娘は祭祀で喋っただけで、今度は人が百人も押しかけてきたんだろォ?」

「そうなのよ……」

「アタイも喋れば来るかねェ……」

「何が?」

「仕事」

「欲しいの!?」

孫二娘は真顔で首を振った。

「いらないよォ……。寝てるだけで出番がないのに、仕事まで増えたら損しかないねェ……」

将軍とは思えない損得勘定だった。

「李俊は一人ずつ調べるって」

「百人を?」

「捕虜はもっといる」

孫二娘は布団を胸まで引き上げた。

「三娘……王妃って大変だねェ……」

「今さら!?」

「アタイ、鎮床将軍でよかった気がしてきたよォ……」

「鎮西将軍に戻りなさい!」

孫二娘は目を閉じた。

「一人ずつ見るなら、アタイの出番もそのうち回ってくるよォ……」

順番待ちだったらしい。

「助けるとは言ってないわよ」

門の前に集まった家族たちが、いっせいに黙った。

幼い男の子を抱いた女も、石床へ額をつけたまま動かない。

ちょっと待って……

今の言い方、完全に悪役じゃない?

祭殿から降りてきたばかりの王妃が、夫の助命を願う妻へ最初に返した言葉としては、かなり印象が悪い気がする。

けれど、ここで「助けます」と言うわけにもいかなかった。

アタシは女の前へしゃがんだ。

「アンタの夫が何をしたのかは調べる。城門にいただけなのか、人を斬ったのか、家を焼いたのか、それを確かめてから決めるわ」

女が顔を上げる。

「では……」

「だから、助けるとはまだ約束しない。でも、共濤の兵だったってだけで同じ罪にもしない。それでいい?」

女はしばらくアタシを見つめ、やがて深く頭を下げた。

「お願いいたします」

その後ろで別の女が膝をつき、さらに老人が前へ出ようとした。

嫌な予感がする。

門の外を覗く。

もっといた。

祭祀を見に来ていた人たちまで足を止め、いつの間にか列が伸びている。

「玉楼」

「はい」

「何人いる?」

玉楼は門の外を見た。

「まだ増えております」

「数字を聞いたの!」

「数える間にも増えております」

最悪の答えだった。

王妃の言葉は、言って終わりじゃない。

さっきそう気づいたばかりなのに、もう行列になって戻ってきた。

会社員だった頃、余計なことを言って仕事を増やした人を何人も見たけれど、まさか王妃になって自分がやるとは思わなかった。

「全員、王宮の中へ入れることはできません」

玉楼が門の近衛兵へ向き直る。

「家族ごとに名前、捕らえられた方との関係、所属していた部隊を確認してくださいませ。同じ方について複数の申し出があれば、一つへまとめます」

すぐに指示が飛んだ。

近衛兵たちが机を運び始める。

三百人の女を受け入れた時にも机を出し、今日は共濤軍の捕虜について訴えを聞くために、また机を出している。

この王宮、戦うより机を運んでいる時間の方が長くない?

「王妃陛下」

玉楼がこちらを見る。

「最初の方だけでも、先にお話を伺いますか?」

「そうする。あとは李俊にも――」

「聞いている」

背後から声がした。

振り返ると、李俊が祭殿から降りてきていた。

「いつから?」

「助けるとは言ってない、からだ」

「最初からじゃない!」

李俊は女と子どもを見てから、門の外へ視線を移した。

「全員調べろ」

あまりにも簡単に言った。

「何人いると思ってるの?」

「知らん」

「知らんじゃない!」

「だから数えろ」

「誰が!」

「人を使え」

孫二娘にも言ったことと同じだった。

王になった途端、人を働かせることだけ上手くなってない?

李俊は近衛兵へ向き直る。

「共濤の軍にいた。それだけで首は取らない。家を焼いた奴、人を殺した奴、奪った奴は調べて裁く。命令されて持ち場にいただけなら、それも調べる」

「逃げた者は、いかがなさいますか?」

役人が尋ねた。

「逃げた先で何をしたかを見る」

「共濤へ従った家族は?」

「家族まで兵だったのか?」

「いえ」

「なら、関係ない」

門の前が静かになった。

妻も、子どもも、母親も、捕虜と同じ罪にはしない。

言われてみれば当たり前だ。

でも、王がそれを口にすると、当たり前だったものが決まりになる。

そこへ王太后が祭殿から降りてきた。

女たちが慌てて道を空ける。

最初に訴えた女は、子どもを抱いたまま再び頭を下げた。

王太后は足を止めた。

「共濤に仕えた兵の家族でございますか?」

「はい」

「私の子を殺したのは、共濤です」

女の肩が震えた。

「されど、共濤の下にいた者すべてが、我が子を殺したわけではございません」

王太后は李俊を見る。

「罪ある者までお赦しになれとは申しません。しかし、罪なき者まで憎めば、共濤が残した恨みを、この国が代わりに育てることになります」

李俊が頷いた。

「一人ずつ見る」

「それがよろしいでしょう」

簡単に言うなあ……

思わず口から出そうになったけれど、王太后にまで突っ込む勇気はなかった。

一人ずつ見る。

門の外には、すでに百人近くいる。

捕虜本人はもっといる。

一人ずつ見る。

……誰が?

アタシが李俊を見ると、李俊もこちらを見た。

嫌な予感しかしない。

「王妃」

「何?」

「お前が拾った訴えだ」

「まさか全部アタシにやらせる気?」

「俺も見る」

少し安心した。

「玉楼もいる」

玉楼が黙って頭を下げた。

「役人も使う」

もっと安心した。

「沈蘭も使える」

そこで、少し離れた場所にいた沈蘭の身体が固まった。

どうやら玉楼に連れられ、祭祀の警備を手伝っていたらしい。

「私が、でございますか?」

玉楼が振り返る。

「王宮と城門の配置をご存じでしょう。共濤が王位を奪った後、どこへ兵を置いたかも、まったくご存じないわけではございませんね?」

「はい……しかし私は、先王陛下を……」

「昨日申し上げました」

沈蘭の言葉が止まった。

「過去を見て死ぬ暇がございましたら、過去を知る者として働いてくださいませ」

相変わらず容赦がない。

沈蘭はしばらく俯いていたが、やがて頭を下げた。

「承知いたしました」

こうして、祭祀が終わった直後から、なぜか王宮の庭で大規模な捕虜調査が始まった。

祭壇の香がまだ消えていない。

アタシは礼服のまま机へ座らされている。

李俊も冠を被ったまま隣にいる。

玉楼は名簿を分け、沈蘭は古い配置図を広げ、役人たちは捕虜の所属を照合していた。

何、この国……

即位した王と王妃が、三日目から捕虜の勤怠確認をしている。

最初の女の夫は、陳岳という男だった。

共濤軍の下級兵で、王宮ではなく西側の城門へ配置されていた。

沈蘭が配置図を見る。

「この門であれば、共濤が火を放たせた地区より離れております」

役人が別の記録を持ってきた。

「陳岳は、都が燃え始めた夜も持ち場にいたようです。ただ、夜半に脇門を開けたとして、隊長より処罰を受けております」

女が顔を上げる。

「脇門を?」

「住民を逃がしたのではないか?」

李俊が尋ねる。

女は首を横へ振った。

「私は、何も聞いておりません」

そこへ門の外から声が上がった。

「知っております!」

老人が近衛兵に支えられて前へ出る。

「その男でございます。あの夜、我らを脇門から逃がした兵は」

陳岳は命令に従って城門を閉じた。

そのせいで逃げられなくなった住民もいた。

けれど火が迫ると、隊長に逆らって脇門を開き、二十人以上を外へ出した。

その後、殴られて持ち場から外されたらしい。

「善人なの? 悪人なの?」

思わず言うと、李俊がアタシを見る。

「兵だ」

「答えになってない」

「命令に従った。途中で逆らった。それだけだ」

「だから、どう裁くのよ?」

「調べる」

「今それを調べてるの!」

李俊が少しだけ考えた。

「なら、もう一つ聞く」

老人へ向き直る。

「脇門を開ける前に、こいつが人を斬ったのを見たか?」

「いいえ」

「奪ったのを?」

「見ておりません」

ほかの証言者も呼ばれた。

二人、三人と話を聞いていく。

結果、陳岳が略奪や放火へ参加した証言は出なかった。

李俊は役人へ告げた。

「まだ放免するな。ほかの証言も調べろ。ただし、共濤軍にいたという理由だけで罪を加えるな」

女が深く頭を下げた。

助かったとは、まだ言わなかった。

その姿を見て、少しだけ分かった気がした。

赦すことと、調べることは違う。

疑うことと、最初から罪人にすることも違う。

面倒くさい。

ものすごく面倒くさい。

でも、たぶん国って、こういう面倒くさいことから逃げたら駄目なんだ。

次の捕虜、その次の捕虜と名が呼ばれた。

夕方が近づく頃には、アタシの赤い礼服の袖へ墨がついていた。

祭官が見たら泣くかもしれない。

「次でございます」

役人が名簿をめくった。

一人の男が兵に連れられてくる。

四十歳くらいだろうか。

痩せていたが、歩き方はしっかりしている。

「名は?」

「徐成」

「所属は?」

「共濤配下の王宮守備隊にございました」

沈蘭の手が止まった。

アタシは横を見る。

「知ってるの?」

沈蘭は答えない。

役人が別の紙を差し出した。

「この者については、住民から六件の証言がございます。いずれも助けられたというものです」

「六件?」

「火災の際に牢を開けた。負傷した侍女を運び出した。略奪を止めたともございます」

それなら話は早いんじゃない?

そう思ったのに、沈蘭の顔から血の気が消えていた。

「沈蘭?」

玉楼が呼ぶ。

沈蘭は立ち上がった。

椅子が後ろへ倒れる。

「その者を、牢から出してはなりません」

徐成が沈蘭を見る。

驚いた顔はしなかった。

むしろ、知っていたような目だった。

李俊が尋ねる。

「理由は?」

沈蘭の唇が震えた。

「その男は、共濤が王宮を奪った夜にも、王宮守備隊におりました」

「それだけなら、今までの連中と同じでしょ?」

「違います」

沈蘭が徐成を指した。

「私は、この男を見ております」

王宮の庭から音が消えた。

「どこで?」

アタシが尋ねる。

沈蘭は一度だけ目を閉じた。

そして、過去から引きずり出すように答えた。

「馬賽真陛下が殺された、その場でございます」

孫二娘殿は、私の顔を見るなり布団を引き上げました。

「また何かあった顔だねェ……」

「徐成という捕虜が、馬賽真陛下の最期の場にいたそうでございます」

「ほらねェ……アタイが出ない話ほど大変になるんだよォ……」

「関係ございません」

「三娘は王妃として調べて、李俊は王として裁く。玉楼は証人を見つけて、沈蘭まで過去と向き合うんだろォ……?」

「はい」

孫二娘殿は自分を指しました。

「アタイは?」

「お休みくださいませ」

「役割が一文字も進んでないよォ……」

布団の中から、深いため息が聞こえました。

「でも、その徐成って男、人を助けてたんだろォ?」

「六件、証言がございます」

「なのに先王が殺された場所にいた……面倒だねェ」

「ええ」

孫二娘殿は少し考えました。

「じゃあ次もアタイ、出ない方がいいかねェ……」

「なぜでございます?」

「出た瞬間、もっと面倒なのを見つけそうだよォ……」

私は、その場で否定できませんでした……

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