表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

序列の拒絶編

夜は、賑やかだった。 梁山泊では、宴の夜に人が寄る。 笑いもある。盃も回っている。

けれど、今夜は声の向きが違った。

誰も好き勝手に騒いでいるようで、中心だけは同じものを見ている。 そこにあったのは、石だ。 古く、土を被ったままの石板。 名前と、星。 順に、並べられている。

出来過ぎている。

しばらく経った、ある日の晩。

使いが来る。

「忠義堂へ」

アタシは立つ。

玉楼も動く。

顧大嫂が鼻で鳴らす。

「またかい」

孫二娘が肩をすくめる。

「暇しないねぇ」

軽い。

四人で向かう。

灯りが近づき、声が聞こえる。

人が多い。

いつもより、寄っている。

忠義堂の前で、足を止めず、そのまま入る。

中は賑やかだ。盃も回っている。

だが、中央に人だかりがある。

何かある。

アタシは目を向ける。

玉楼も同じだ。

顧大嫂が盃を取らない。

孫二娘も笑わない。

四人とも、見る。

中央を。

人の間に、空きが出来る。

押し分けるように、前へ出る。

呉用だ。

手に何かを持っている。

古い石板だ。

土が付いている。

わざとらしい。


石板が置かれ、みんなが集まる。

誰も離れない。

「……見つかったそうだ」

呉用が言う。

返す声が出る。

「どこで?」

アタシは見ている。

ただ、見る。

名前と、意味の分からない星が彫ってある。

上から。

順に。

玉楼が小さく言う。

「……序列です」

顧大嫂が鼻で鳴らす。

「都合いいねぇ」

軽い。

だが、外していない。

孫二娘が肩をすくめる。

「こういうのは、流れるもんだ」

呉用が読み上げる。

名が出る。

林冲は六位となった。

後から入ってきた関勝より低い。

更に一つずつ、決められていく。

李俊が、二十六位?

アタシは盃を持ったまま。

口はつけない。

「……出来過ぎね」

小さく落とす。

玉楼は何も言わない。

否定しない。

一拍。

名が進む。

止まらない。

下へ。

降りてくる。


「五十八位」

「――王英」

アタシは思わず言葉を失う。

アタシはまだ呼ばれてないのに。

呉用が続ける。

笑いが混じる。

王英が笑う。

そのまま、流れる。

間を置かない。

「五十九位」

「――扈三娘」

場は止まらない。

次へ行こうとする。

流れは切れない。

アタシは盃を強く置く。

音が出る。

拾われる。

玉楼が横を見る。

顧大嫂も止まる。

孫二娘も笑わない。

アタシは前を見る。

逸らさない。

「……今の、もう一度よ」

思わず声を張る。

読み上げる声が止まる。

場が、わずかに揺れる。


空気が固まる。

アタシに、視線が集まる。

「……今の、どういう並びよ」

呉用が見る。

「そう彫ってあります」

誰かが頷く。

「そういうものだ」

「……王英の下?」

言い切る。

笑いが混じる。

消えない。

王英が口を開く。

「運だろ」

受け流す。

アタシは視線を外さない。

「ふざけないで」

空気が、さらに固まる。

玉楼が隣で動かない。

顧大嫂も黙る。

孫二娘も口を閉じる。

四人とも、同じ位置にいる。

流れが、止まりきらない。

まだ、動こうとしている。


誰かが息を吐く。

止めない。止める気もない。

「そういう並びだ」

別の声が重なる。

「そんなもんだ」

場の空気が戻ろうとする。

流れを繋ぐ。

切らせない。

呉用が口を開く。

「異論は認めません」

場が頷く。

アタシは動かない。

視線を外さない。

「認めない?」

呉用が見る。

「決まっています」

王英が笑う。

「下でいいだろ」

アタシは息を吐く。

「なら」

「条件があるわ」

玉楼が隣で動かない。

顧大嫂も黙る。

孫二娘も笑わない。

四人とも、同じ位置にいる。

みんなが、こちらに向く。

流れが、わずかに傾く。


誰も口を開かず、待っている。

アタシを見る。

「林冲の下なら、文句ないわ」

一瞬、空く。

呉用が目を細める。

「……理由は」

アタシは首を振る。

「必要ない」

「小彪将でいい」

「斥候に回るわ」

顧大嫂が頷く。

「それなら、動きやすいね」

孫二娘も頷く。

「前に出る方が合ってる」

玉楼が静かに言う。

「問題ありません」

呉用が頷く。

「認めましょう」

流れが戻る。

今度は、こちらに合わせて。

アタシは盃を取る。

口はつけない。


顧大嫂が呟く。

「これからは、別だねぇ」

孫二娘が肩をすくめる。

「そうなるか」

アタシは二人を見る。

「元気でね」

顧大嫂が鼻で鳴らす。

「やれるさ」

孫二娘が笑う。

「死ぬなよ」

アタシは席を立つ。

忠義堂を後にする。

廊下に、李俊がいる。

「石板をどう思う?」

止まらず、横を過ぎる。

「出来過ぎよ」

李俊が息を吐く。

「だろうな」

振り返らない。

玉楼が隣にいる。

距離は変わらない。

廊下を抜ける。

夜は、静かだ。


次の日の朝。

空気が冷たい。

使いが来る。

「林冲様がお呼びです」

アタシは頷き、玉楼も動く。

廊下を抜け、部屋に入る。

林冲がいる。

視線が来る。

「来たか」

アタシは前に出る。

玉楼が半歩、後につく。

林冲が言う。

「前を見て来い」

アタシは頷く。


外に出る。

空気がまだ冷たい。

人も少ない。音も薄い。

馬が、繋がれて待っている。

アタシは手綱を取る。

一息で跨る。

玉楼も同じだ。

動きが揃う。

踵を当てる。

馬が出る。

門を抜け、梁山泊の外へ出る。

視界が開く。

風が当たる。

「ここからでいい」

玉楼が同じ方向を見る。


次の日の朝。

空気が冷たい。

使いが来る。

「林冲様がお呼びです」

アタシは頷き、玉楼も動く。

廊下を抜け、部屋に入る。

林冲がいる。

視線だけが来る。

「来たか」

アタシは前に出る。

玉楼が半歩、後につく。

一拍。

林冲が言う。

「前を見て来い」

アタシは頷く。

外に出る。

人が少ない。音も少ない。

馬が、繋がれて待っている。

アタシは手綱を取り、一息で跨る。

玉楼も同じだ。

動きが揃う。

踵を当てる。

馬が出る。

門を抜け、梁山泊の外へ出る。

視界が開く。

風が当たる。

「……休み欲しい……」

小さく漏れる。

玉楼の視線が寄る。

「……?」

「……何でもない」


風が抜け、草が揺れる。

馬を並べる。

間は変わらない。

目を細める。

遠くに動きがある。

小さい。

だが、揃っている。

人だ。

数を取る。

多くない。

商隊だ。

「風が、気持ちいい」

玉楼が同じ方向を見る。

「はい」

アタシは視線を外さない。

「……ねえ」

「こういうの、ずっと?」

玉楼は少しだけ間を置く。

「はい」

迷いがない。

アタシは呟く。

「そっか……」

「……戻ろ」

玉楼も手綱を引く。


馬首を返す。

速度を上げる。

道は覚えている。

梁山泊が見える。

門をくぐり、馬を緩める。

手綱を預け、降りる。

廊下を抜け、部屋の前で止まる。

扉を叩く。

「入れ」

林冲に報告する。

「商隊です」

「脅威ではありません」

「分かった」

部屋を出て、自分達の部屋に戻る。

少しだけ息をつく。

「……休み欲しい」

小さく漏れる。

玉楼が、一瞬睨む。

「まだです」

「だよね」


部屋の中は静かだ。

外の音は遠い。

アタシはそのまま座る。

一つずつ装備を外す。

身体が軽ーい。

玉楼は向かいにいる。

「……ねえ」

「少しは休も?」

玉楼は間を置かない。

「ありません」

アタシは天井を見て少しだけ、息を吐く。

「そっか……」

玉楼が立つ。

「次の指示が来ますよ」

アタシは顔を戻す。

「早いね……」

玉楼は何も言わない。


朝廷の討伐軍が、東京から出発したとの報告が入った。

忠義堂は静かだった。

もう分かっている。

戦うしかない。

逃げ場はない。

アタシは座ったまま、盃に手を伸ばす。

中身が減っていない。

飲む気がでない。

玉楼が後ろにいる。

いつもの位置だ。

「……ヤバいかもね」

誰に向けたものでもない。

玉楼が小さく頷く。

アタシは盃を置く。

小さく、音が出る。

「だよね……」

「アタシ達は?」

玉楼は答える。

「出ます」

アタシは立つ。

「またぁ……」


立ち上がって、そのまま外へ出る。

空気が少し重い。

さっきより人が増えている。

声は少ないが、動きだけが速い。

準備はもう終わっている。

馬が並んでいる。

アタシは手綱を取り、一息で跨る。

玉楼も同じだ。

間は変わらない。

軽く踵を当てると、馬が動き、そのまま隊列に入る。

位置は決まっている。

林冲の背が見える。

玉楼が半歩、後ろに入る。

門が開き、外へ出ると風が強くなる。

アタシは前を見る。

「……いっちょ、やったりますか!!!」

玉楼が同じ方向を見る。


前から使いが下がってくる。

「扈三娘様。林冲様が前へ、と」

アタシは手綱を少し引く。

「はいはい……」

玉楼の視線が寄る。

「……何でもない」

馬を前へ出し、隊列の横を抜ける。

林冲の背が近づく。

林冲は振り返らない。

「前を見て来い」

アタシは横に並ぶ。

「斥候ね」

「そうだ」

途中、玉楼が声を掛ける。

「明るくなられましたね」

「そ〜ぉ」

少しだけ笑う。

「疲れてる時は、テンション上げなきゃやってられないわ」

玉楼には、多分わからない。

アタシは息を吐く。

「んじゃ、行ってきま〜す!!!」

玉楼も駆ける。



夜は、静かだった。

声は、もう遠い。

並びは決まった。

止める者はいない。

そういうものだ。

アタシは外に出る。

風が冷たい。

位は決まる。

立つ場所は、決めさせない。

だから、選んだ。

動ける位置。

それでいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ