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冷徹な聖騎士様は、地獄を脱出した元令嬢を溺愛したくて仕方がない〜実は十三年前から初恋でした〜  作者: 銀文鳥


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78/82

第78話


「……レオン……っ!」




「……セレスティア……!」





前世の記憶と、数千年の時を超えた愛を取り戻した二人。





しかし――その再会を喜ぶ間もなく、ギルバートの身体からはなお鮮血が流れ続けていた。





「そんな……バート! 待っていて、今すぐ治すわ……っ!」




エカテリーナは震える手でギルバートの傷口に手をかざし、必死に聖気を送り込む。




しかし、黒い呪いは聖なる光を弾き返し、傷口は塞がるどころか、じわじわとギルバートの命を蝕んでいく。




(どうして……っ! 前世と同じ……大聖女の力をもってしても、邪神の呪いだけは治せない……!?)




デジャヴのような絶望がエカテリーナの胸を締め付け、ポロポロと涙が溢れ出す。





また目の前で彼を失ってしまうのかと、全身が恐怖で凍りつきかけた――その時だった。





『カティ、泣かないで!』




ポンッと光の粒子が弾け、純白の毛並みを揺らしたウサギの姿のポコが、エカテリーナの肩へとぴょんと飛び乗った。




続いて、夜空から光の粒のように無数の小さな妖精たちが集まってくる。




『カティを悲しませるやつなんて大嫌いだもん!』




『私たちが助けるからね、カティ!』





「ポコ……! みんな……!?」




『……ジュリアスの家にいたときは、カティが苦しんでるって分かってたのに……あそこに近づくことすらできなかったよね』




ポコが、悔しそうに耳を伏せる。




かつてレイチェルの屋敷に満ちていた、淀んだ呪い。




その強烈な瘴気を前に、妖精たちはエカテリーナを助けることができなかった。





『でも、もう逃げないよ』




ポコは小さな身体を震わせながら、ギルバートの傷口を見つめた。




『あのとき何もできなかった分まで……今度は、ボクがカティの大切な人を助けるんだ!』




「待って、ポコ……!」




エカテリーナが慌てて手を伸ばす。




「この呪いは危険よ! あなたまで傷ついてしまったら……!」




『ううん。分かってるよ、カティ』




ポコは振り返り、小さな身体で精一杯胸を張った。




『この呪いは、ボクにとっても危ない。近づいたら、力を全部吸い取られて……二度と飛べなくなるかもしれない』





「……っ!」




エカテリーナの顔から血の気が引く。





「だったら、やめて! お願い、ポコ……! あなたまで犠牲になるなんて、絶対に嫌!」





『……でも』




ポコは悲しそうに笑った。





『カティが泣いてる』




「……!」





『ボク、カティが泣いてるのを見るの、嫌いなんだ』





小さな身体が、ギルバートの傷口へ向かって跳ねる。






「ポコ――!」





エカテリーナの伸ばした手は、あと少しのところで届かなかった。





ポコはギルバートの傷口のそばへ、ふんわりと降り立った。





『僕の力なら、そんな黒くて嫌な呪いなんて吹き飛ばせるよ!』





『レイヴン侯爵様! カティを悲しませないって約束してくれるなら、ボクの力、ぜんぶ貸してあげる!……その代わり、この戦いが終わったら、美味しい新鮮なお野菜、たくさん頂戴ね!』





「……っ、ああ、約束する。何トンでも……山盛りで用意してやる……!」




激痛に胸を上下させ、苦しげに息を吐きながらも、ギルバートはポコへ向けて口元を不敵に歪めてみせた。




その蒼い瞳には、絶対に折れない強い意志が宿っている。




それを見届けたポコは、ギルバートの傷口へ小さな前足をそっと触れさせた。





『カティを苦しめる嫌な呪いなんて……みんなどこかへ飛んでいけーっ!』




ポコの身体から、眩いばかりの清らかな光が溢れ出す。




周囲の妖精たちは、その光を支えるようにポコの周りを飛び回った。





『ポコ、頑張って!』





『もう少しだよ!』





『カティの大切な人を、助けるんだよ!』





仲間たちの声援を受けながら、ポコは必死に力を注ぎ続ける。




澄み切った大自然の清廉な力がポコの身体から溢れ出し、エカテリーナの聖気では消せなかった禍々しい黒い呪いを、柔らかな光が少しずつ包み込んでいく。





『うう……っ! まだ……まだだよ……!』




ポコの身体が小刻みに震える。




それでも、決して力を緩めない。





「ポコ……もういいわ! お願い、もうやめて……!」




エカテリーナの瞳から、再び涙が溢れる。






しかし――。





『ダメ……! カティが泣かないようにするんだ……!』




ポコは最後の力を振り絞った。





『――えいっ!!』






パァァァァッ……!





凄まじい光が弾け、ギルバートの傷口を蝕んでいた黒い呪いが、一気に霧散していく。





「……っ!」




やがて黒い呪いが完全に消え去ると、ポコの身体から力が抜けた。





『へへ……ちゃんと……できた……』





「ポコ!」





ふらりと宙を漂ったポコが、そのまま落ちてくる。





エカテリーナが慌てて両手を差し出すと、ポコはその腕の中へ、ぽすんと落ちてきた。





純白だった毛並みは少しくすみ、その小さな身体からは、いつものような清らかな光がほとんど感じられない。





「ポコ……! しっかりして!」





『大丈夫だよ、カティ……』





ポコはかすかに目を開き、安心させるように笑った。





『ちゃんと……カティの大切な人、助けられたよ……』





「……っ、ポコ……!」





エカテリーナは涙を浮かべながら、ポコの小さな身体をそっと抱きしめた。





『だから……ちょっとだけ、眠るね……』





そう呟くと、ポコは安心したように目を閉じた。






「……ポコ……」




エカテリーナは胸が締め付けられる思いで、眠ったポコを見つめる。





すると、すぐそばにいた妖精の一人がポコへ近づき、その身体をそっと受け取った。





『大丈夫だよ、カティ。ポコはボクたちが見てるから』





「……お願い。ポコを守ってあげて」





『うん!』




妖精たちは眠ったポコを大切そうに囲む。





エカテリーナは一度だけポコを振り返ると、涙を拭った。





「……ありがとう、ポコ。今度は私が、バートを守るわ」







そして――。





ポコが呪いを消し去ったことで、エカテリーナの治癒魔法を阻んでいた力も消えた。




「傷が……塞がった……!」





エカテリーナがすぐさま聖気を送り込むと、ギルバートの傷口が一気に塞がり、血色が劇的に戻っていった。





「ありがとう……ポコ……。お前のおかげだ」




ギルバートは力強く立ち上がり、愛剣を握り直した。




前世ではレオンが一人で抱え込み、セレスティアが一人で涙を呑んだ。





だが今世の二人には、互いへの愛だけでなく、ポコたち妖精との温かな絆がある。





「いくぞ、カティ! 今度こそ、二人でアイツを打ち破る!」




「はい、バート! 私のすべてを、あなたに託すわ!」





エカテリーナの薬指で「月光石」が太陽のごとき眩い聖光を放ち、ギルバートの聖剣へと吸い込まれていく。





一度は二人を引き裂いた邪神の力を乗り越え、前世では果たせなかった未来を掴むため――二人の最強のコンビネーションが、満月の下で再び覚醒したのだった。



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